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幼き頃を思い出す

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 日常は穏やかに過ぎていく。
 留守中屋敷を任せるヤサにはシズカを紹介した。
 長老なだけあって、緊張してぷるぷると小鹿のように震えるシズカの懐に入るのが上手くて苛ついたが、俺とシズカの頭を同時に撫でるその掌は皺くちゃで。不覚にも幼き頃を思い出した。
 昔から魔力過多で長老たちに預けられ、まぁ、里一丸となって育てられたが。ふてぶてしくて可愛げのない俺の頭をヤサはいつも撫でてくれていた。払い除けても払い除けても当時から皺くちゃな掌で。

「ぶはは!ステラリオもシズカも可愛いのお!俺はヤサと言う。ステラリオの半身なら、シズカも家族同然。よろしくなぁ。」

 ヤサは俺より長身なもんだから、シズカは首を上げてぽかんとしている。その可愛い開けっぱな口を塞ぎたい。

「シズカ。首、痛めるぞ?」

 声をかければハッとして、佇まいを正してきちんと礼を取る。

「初めまして、シズカです。この肩にいるのはメルロのメルさんです。留守中よろしくお願いします。」

『ムイッ』

 うむ、と目尻を下げて笑うヤサと、辿々しいが、マリアたちに挨拶をした時より堂々と挨拶をする事が出来ているシズカ。
 ちなみにシズカは未だに頭をぐちゃぐちゃにされている。

「もう触るな。」

「狭小な男よのう。」

「うぜぇ。」

「さて、お前たちに土産がある。」

 そう言って、ヤサはドアノブのレバーを左へ回す。
 右に回せば、いつもの神殿近くの屋敷。
 左へ回せば、領地の森の中という仕組みを作り上げたドワーフたちには相場に上乗せした賃金を支払った。

 領地へ移した屋敷の前の森には、2匹の子羊。

「生まれたから、連れてきた。こんなに可愛い子羊置いておけん。」

「これが土産?お前が世話したいだけだろ。」

「ここにいるのも暇だろ。羊たちと楽しむ事にした。シズカもこんな狭小な男と行かんでここにいれば良い。」

「ふざけんな。夜はなるべくこっちで寝る。あいつらと野宿とか無理。あと、御者が欲しい。こっちの事情把握してる奴。」

 ヤサと俺が言い争いながらも話を詰めている間もシズカは、俺の腰辺りの服を指先で摘まみ、羊を見詰めて何か呟いている。

「…もこもこ。もこもこさん…」

「どした?」

「りお、もこもこ。頭も…もこもこしてるね…かわいい。」

 いや、お前の方が可愛い。羊なんてただの毛玉だろ?

「おぉ、シズカは羊の可愛さがわかるのか。触った事はあるか?」

「ないです。僕のとこの羊さんはこんなにもこもこはしていなくて…もっと小さいです。」

「こいつらはまだ子羊だからな、あと一年もすれば倍の大きさになるぞ。」

「…すごい、です。」

 触ってみるか、とシズカの手を取るヤサの瞳は優しく温かみを持っている。

「、…リオ!」

「ん?」

「もこもこしてるっ!凄い!…わわっ、メルさんっ、」

『ムイムイッ!ムー!』

 羊の頭のてっぺんの毛の塊にメルロが突っ込んで行く。そんで興奮している様子である。

「メルさん、もこもこさん困りますよっ、出て来てください…」

「ぶは!メルロも気持ち良さそうだし、羊も気にしていないし大丈夫だ。良き友人になれるだろうさ。」

「…お友だち。メルさん、もこもこさん達、僕とも仲良くしてくださいね?」

「ぶっ!」

 真剣な顔して敬語で羊とメルロに話しかけるシズカを見て、ヤサが噴き出す。
 笑うな見るな。こういうとこが可愛いんだ。

「シズカは可愛いなあ。どれ、じいとも友人になってくれ。」

 人がシズカを可愛いと言うのは苛つくな。俺は良いけど俺以外が可愛いと言うのは苛つく。

「ヤサさんがお友だちですか?僕なんかと?」

「うむ。俺は人のフリしてあの国に居座るほど人の事が気になるんだ。色々と教えてくれ。だが、ただ人だからという理由ではない。シズカだから、友人となりたいんだ。」

「…えと、僕で良ければ、ぜひ。あの、メルさんの生態とかわかることがあったら僕も教えて欲しいです。羊さんの好きなものとかも。」

 余程嬉しいのか。俺を見上げて照れ笑いするのが愛おしい。

「では、友となった記念の抱擁だ。」

 そう言って両手を広げるヤサに殺意しかわかない。
 シズカは一瞬考えて、俺の事を見上げる。
 直ぐにヤサの元へと行くと思ったのに、俺の事を考えてくれるのが嬉しくて、思わずにやけてしまう。

「ふむ。人でも、やはり半身だと本能で理解しておるのかの。」

「半身…そうかもしれないです。嫌じゃないけど、リオの側からは離れたくなくて…ごめんなさい。」

「シズカが謝る事じゃない。ヤサは自分から友人だと言ったんだ。マリア達は祖父母だと思っているから大丈夫なんだろう。ヤサはどうでも良い。気にするな。」

「そうさな。気にするな。半身を得たエルフや獣人たちも同じようなものだ。年を取れば少しは落ち着くだろう。」

 この感情が落ち着くものだとは思わないが…長年生きてきたヤサだからこそわかる事もあるのだろう。

「ヤサさん、お友だちになってくれてありがとうございます。お友だちは初めてです。」

 は?初めてとか聞いてない。シズカとは友としてではなく、半身として愛し合いが、初めてか。初めての友にもなりたかった。
 ジトリとヤサを見詰めていたからか。

「狭小な男よのぅ。」

「うぜぇ。シズカの初めて貰って調子に乗るな。」

「…ヤサさんといると、リオが子どもみたくてかわい。」

 はぁ。ヤサといると調子が狂う。だが、シズカが喜んでいるから、こういうのも悪くない。うぜぇけど。

 あと数日で出立となる。羊とメルロと戯れているシズカを後ろから抱き締める。
 それを温かく見守るヤサがいて。

 はぁ、早くこういう生活がしたいと切に願った。
















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