可愛いあの子を囲い込むには ~召喚された運命の番~

まつぼっくり

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1巻

1-2

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「あ、いや、違う! マイカ、もう行こう」
「でも、まだ……」
「行商の中には宝石を扱う者も多数いたぞ! マイカは髪留めを欲しがっていなかったか?」
「うーん、宝石は興味ないけど、見てみたいです」

 そそくさと席を立つ二人を見送る。興味ないと言いながら、あの女は明日にも馬鹿でかい宝石のついた髪飾りをつけているだろう。
 長い袖の中で知らずに握り締めていたこぶしを開く。結局のところ二人についてきたのは自分だ。いらつくのはお門違い。だが、いらつく。かなりいらつく。

「シズカにいやしてもらおう」

 そうしよう。無駄に心配させたくないから、匂いと汚れを消してからシズカのもとへ転移した。


「――っリオ。お帰りなさい」

 控えめに微笑ほほえんで近づいてくるシズカが可愛くて、思わずむぎゅりと抱き締めた。ここまで素直に心を許してくれるまでに数週間はかかった。

「はぁー。まじいやし……」

 そのまま首筋に顔を埋めて、シズカの匂いをたんのうする。はぁ、疲れた。
 だが、背中に回るシズカの腕が全てを吹っ飛ばしてくれる。

「リオ疲れてる? ちょっと遅かったから心配したよ」
「うざいのと気持ち悪いのがいて不快なだけ。……そんだけだけど、もっとでてくれ」

 そっと背中をひとでして離れていくのが惜しくて、もっとと頼むと、可愛い笑い声が応える。

「ふふ。口悪いけど、かわい。よしよーし」

 小さなてのひらが背中を往復し、背伸びをして頭をでるその姿に、心臓が音を立てた。

「どう考えてもお前のが、ってかお前が世界一可愛い。いや、シズカ以外に可愛い奴はこの世に存在しない」

 身体を起こしてシズカの小さな唇に、最近やっと慣れてきた口づけを落とす。

「……んんッ」

 シズカが唇をぎゅっと閉じたので、ぺろりとそこをこじ開けるように舌でなぞった。

「んあっ」

 歯列をなぞって、舌を絡めて。
 最初はまどっていた可愛い舌が、今では軽く押し返してくれるようになった。こちらから唾液を流し込むと、こくりと小さな音と共に唇をしっとりと濡らす。

「んん。あまい」
「あぁ。シズカも、甘い」

 頬に添えた手で髪をける、チクリとわずかに痛みを感じて、手を強く握り込んだことを思い出した。シズカを汚さないように手を引く。思いのほか、爪が食い込んでいたのか、血がにじんでいた。

「……リオ、怪我してるの? 痛い?」

 シズカはおもむろに俺の手を握り、甲に口づける。ぽわりと優しく光るのは治癒魔法……?

「シズカ、その魔法どこで覚えた? 治癒されてる」
「魔法? リオの傷が痛そうだったから、治りますようにってキスしたの。……ダメなことしちゃった?」
「いや、ありがとう。綺麗にふさがった」

 てのひらを見せてやると、良かったぁと頬擦りされる。なんだ、この可愛い生き物。

「はぁ。可愛すぎて胸が痛い」
「何それ。リオ面白い」

 本気なのだが、笑ってくれたから良しとしよう。それにしても、祈りだけとは。これは、早急に教えたい魔法がある。むしろ、それだけ覚えていれば良い。

「明日は魔法の練習な?」
「わぁ、楽しみ。ちゃんとできると良いな」
「手取り足取り教えるから安心しとけ」

 本当に、手取り足取り腰取り教えたい。

『ムイムイッ、ムムムッ!』

 その時、唐突に変な鳴き声が上がる。

「あー……忘れてた」

 きょとりとした表情が可愛くてたんのうしたいが、せっかくのシズカへの贈り物だ。馬鹿でかい宝石も綺麗ではあったし、似合うだろうが、そんなもの、申し訳なそうに眉を下げられるだけ。それよりも、笑っていてほしい。
 俺は異空間に手を入れて、小さなかごを取り出す。かごの持ち手には色とりどりのリボン。

『ムムー!』

 一丁前に怒っているのか、それは俺に対してフンスと鼻息を荒くする。

「……動くもこもこ?」
『ムイッ』
「さっき行商が来ててな、珍しいやつ見つけたからシズカにどうかと思って」

 そう言ってかごを開けながら中の毛玉を出そうとしたのだが、それは思いのほか素早い動きで俺の腕をよじ登った。
 シズカは思った通り、いや、思ったよりも心を弾ませているのが伝わってくる。うん、可愛い。この毛玉にもシズカを見せてやると、俺の肩に蹴りを入れやがりながらそちらへぴょんと跳ねた。

「わ! ふわふわあ。可愛い……!」

 細腕ではあるがしっかりと毛玉を抱き留めて頬擦りする姿を、この瞳に焼き付ける。

「リオ、この子はだぁれ?」
「一応神聖な生き物ってなってるけど、ただエルフの里辺りに住んでるだけのメルロって動物。名前はまだないから、シズカがつけてほしい」

 エルフの里と呼ばれるいくつものつらなる森には、人間は近づけない。森全体にエルフたちの結界があるため魔獣たちも入れないが、その周りにはいる。そこに、このメルロはを作るのだ。
 元は野生だが、気に入った者にはとことんなつく。何故なぜ、行商にいたのかはわからないものの、俺の手の匂いをいでいたのでシズカの香りに反応しているのではと思い、購入してしまったのだ。

「えぇっ、ぼく? 僕がお名前つけて良いの?」
「あぁ。そいつ、シズカになつきまくってる。シズカに名前をつけてほしそうだ」

 俺には蹴りを入れるし、今も冷めた瞳を向けてくるけど。うざいが、シズカが嬉しそうだから俺も嬉しい。うざいけど。

「わ。責任重大。メルロさん、お名前考えるから少し待っててね?」

 首元をこしょこしょとされて気持ち良さそうにしているメルロを覗き込むシズカ。前髪が長いから、その綺麗な瞳はよく見えない。嫌がるだろうとわかっているが、そろそろその前髪がなくても良いのではないかと思う。
 後ろから回り込んで、空間からもう一つ、取り出す。これはラッピングも何もない髪留め。小さな石が一つついたシンプルなもので、シズカの髪の色。本気で嫌がったら俺のものだと言えば良い。
 そっとひたいに手を入れて髪を横へ流すと、シズカはわずかに硬直する。両手でメルロを抱いているから、振り払えないのだろう。俺は素早くこめかみにピンで髪を留めて、後ろから抱き締めた。

「見えてないから。嫌なら良い。でも、シズカの視力とかが心配。俺がいない時だけでも良いから使ってみてほしい」

 しばらく考え込んでいるようなシズカだったが、くるりと向きを変えて俺の胸に顔を埋めた。ふるふると揺れている。あぁ、可愛い。本当にいとおしい。ずっとこうしていてほしい。だが、顔もちゃんと見たい。

「シズカ、メルロがすげぇ蹴り入れてきて痛い」

 途端にシズカがバッと後ろへ離れる。あらわになったその瞳は思った通り綺麗だ。
 思わずと言ったようにうつむくシズカの腕を引いて、また抱き締めた。

「可愛い。ありがと」
「っ、かわいく、ない」
「可愛い」
「うぅ……」
「可愛い可愛い可愛い」

 ひっくひっくと俺の腕の中で小さく泣き声を上げるシズカの頭をでる。

「シズカ、あんまり顔を擦ると可愛い目がれてしまうぞ? 風呂行こ?」

 ガシガシと蹴り付けるメルロを構わず掴んでかごの中へ入れる。かごに布を被せると、途端に静かになった。メルロは暗くなるとすぐに寝てしまうのだ。

「風呂出たら、メルロの世話の仕方、教える。好物とか」

 泣いたことが恥ずかしいのか、シズカは耳をいちごいろにさせてパタパタと必要なものを取りに行く。

「……可愛すぎてやべぇな」

 タオルや着替えを持って戻ってくるシズカのひたいあらわになっていて、俺は次は後ろ髪を束ねる髪紐をそろいで作ろうと心に決めた。


「んん、リオ……だ、め」
「ん。ちゃんと洗おうな?」

 どこを洗っても、可愛い反応をしてくれるから、ただの風呂なのにしつこく触れてしまう。不可抗力だ、仕方がない。

「シズカの肌は柔いなぁ。綺麗だなぁ」
「もう、自分で……洗う……!」
「無理無理無理。洗わせて?」

 いつもは顔を見られたくないようなので同じ方向を見て洗って、後ろから抱いて湯船につかっていた。でも、もう顔を見せてくれるようになった……今日は念願の向かい合わせである。
 赤面しているのも、濡れて張り付いた髪も、ぽつりと存在を主張する小さな胸の飾りも、全て、全てが官能的で……たぎる。

「や、もお、りお……」
「無理。可愛すぎる」

 泡だらけのシズカを膝の上に抱き上げて、またがらせて、噛みつくようなキスをした。

「んあっ、ふぁ、んん」

 赤く色付く唇と胸の先。泡でぬるつくそこを優しくねると、更に可愛い声を聞かせてくれる。
 押し潰して硬くなったそこをたんのうしているうちに、腹に何かが当たった。まぁ、何かと言っても正体はわかっている。

「あッ、見ちゃだめ、やあッ」
「はぁ。両手で隠すとか……はぁ」

 裸で、泡だらけで、可愛がっていた乳首だけが赤く目立っていて、がった性器を両手で押さえ込むシズカ。
 見られないように考えたんだろうが、思い切り逆効果だ。ふるふると震えるその姿に欲情しか湧かない。すげぇ可愛い。

「シズカ、俺のも一緒」
「……やぁ」

 チラリとこちらを見て、シズカは元々赤い顔を更に赤面させてすぐに視線をらす。

「なぁ、一緒だぞ? 性的興奮を覚えるとこうなるのは、恥ずかしいことじゃない」

 年頃だからな、やだと言ってもチラチラと俺の性器を見るシズカ。その姿に心臓が音を立てる。

「触って良い?」
「……や、だめ」
「ここのくびれとか、裏スジのとことか、泡つけて俺のと一緒にぐちゅぐちゅって。だめ?」
「……やぁ」
「先っぽもぐりぐりってしたら気持ち良いぞ」
「……うぁ」
「シズカ、ちゅーは? して良い?」

 またちゅーは似合わないなんて言うと思ったが、向かい合っているシズカは俺の首に腕を回して引き寄せると、まぶたをぎゅっと閉じて当てるように唇を合わせた。

「シズカからキスしてくれたの、嬉しい」
「……ん。したかったの。上手くできなかったけど……」

 本当にこの子は……俺をもだにさせたいのか。

「舌出して?」

 素直に舌を差し出す姿に心配になる。今の状況をわかっているのか。
 出された舌に自分のものを絡めると、飲み込めない唾液が下へ落ちた。唾液ではない透明なものが、ふるりと動くシズカの性器からあふれている。

もったいない」

 思わずそう言葉にして人差し指ですくう。びくりとシズカの腰が動いた。

「ね、シズカのここ、くちゅくちゅして良い?」

 聞きながら、指を性器の先に乗せてくるくると動かす。くちゅりと次から次へとにじてきた。

「ん。うん、し、て。……んやあッ、りお、りお」
「ん。大丈夫。出しちゃいな」

 強い快感が怖いのか、名前を呼んでぎゅうと抱き付いてくるシズカを片手で落ちないように支えて、もう片方で俺のとまとめて擦り上げた。
 最初に言った通りに、シズカのカリ首と裏スジを俺のでごりごりと当てる。それだけで充分に気持ち良いのに、更に快感を覚えて驚いた。

「シズカも触ってくれるのか?」
「……あッ、あんッ、うん……ぼくもぉ」

 シズカのものとは比べ物にならないくらい張り出している性器の先に、しなやかで細い指が絡む。

「……ハァ、可愛い」
「んんッ、ちゃんと、でき、てる?」
「あぁ。すごく気持ち良い。そのまま触ってて?」

 ラストスパートとばかりに速く擦ると、シズカはすぐに射精した。

「悪い、もう少し付き合って」
「……え? ……やぁぁッ!」

 絶頂した直後にまた。
 結局、俺の一回目とシズカの三回目が同時で。
 素早く洗い直して、湯船で冷えた身体を温めた。

「……ばか」
「ん?」
「……リオのばか」
「ふはっ」

 ばかと言いながらも、くったりと寄りかかるシズカ。本当にもう。この子は可愛すぎるんだ。

「ばかばか」
「なんだろうなぁ、シズカからなら馬鹿って言われても嬉しいだけだな。可愛いし」
「うー、りおのばか」
「ははっ。可愛い」
「うぅ、キス、してくれる?」
「喜んで」

 両手を頬に添えて、逃げられないようにしてから、深い口づけを落とす。

「んむぅッ、んあ、……りお」
「ん?」
「……ばかって言ってごめんね」
「ぶは!」

 さっきまでの甘い雰囲気が噴き飛ぶほど笑う。子供みたいにシズカの頬に自分の頬をつけてぎゅーぎゅーと抱き締めた。


「シズカは汚い言葉っていうか、言っても可愛いもんだけど、馬鹿しか言わないな?」
「……馬鹿と、みにくいと、汚いくらいしか知らないかも。リオは綺麗だから……ばかとしか言えなかったの。でも、本当は思ってないよ……?」
「わかってる。いや、俺は馬鹿だな。最近、頭の中、お前のことしか考えてないから。シズカ馬鹿」
「ふふっ。何それ」

 くすくすと笑うシズカがいれば何もいらない、シズカ馬鹿。
 割と本気で言ったのだが、冗談に聞こえたのだろうか。
 じゃれ合いながら身体を乾かして、寝間着を着て、本棚から一冊の本を抜き取った。
 一緒にベッドへ入って枕を立てて寄りかかり、シズカを自分の足の間に収めて本を開く。

「ほら、ここ。メルロのこと、書いてあるだろ?」
「本当だ。ごはんは新鮮な葉や花って書いてある……」
「今日は購入した時に一緒に入れといたから、明日一緒に花でも摘みに行くか?」

 数週間、シズカはこの部屋にこもっているから、良い気分転換になるだろう。

「お花……外……だよね?」
「そうだな。嫌か?」
「嫌じゃない……けど……今が穏やかで、その、幸せで。外に出たらそれが壊れちゃいそうで」

 あのくそおんなたちに会うことが怖いのか。それより、今が幸せだなんて。心が驚きと喜びで痛い。

「転移で誰もいない森にでも行くか。そこであいつのえさになるものを探そう」
「良いの?」
「良いも何も……あのくそおんなたちに会いたくねぇ。だから、一緒に来てくれるか?」
「……うん。リオ、ありがとう」
「いや、俺のほうこそ感謝してる。シズカが来てくれて嬉しくて、幸せだ」

 そこから延々えんえんと飼育本をふけるシズカから本を取り、腕の中にいとおしい存在をすっぽりと収めて眠りについた。



   第二章


「メルさん、おなかきましたか?」
『ムイッ』
「メルさん、リオが起きたらごはんにしましょうね?」
『ムイッ!』
「メルさん可愛いです」
『ムー』
「メルさん……かわい」
『ムムー』

 目が覚めると腕の中が空虚で思わず飛び上がりそうになったが、聞こえてきた会話に口角が上がる。なんでこの子はメルロに敬語なんだ。

「メルさん、ちょっとリオのこと、見てきますね!」
『ムイムイッ』

 きしりとベッドが小さく音を立てた。
 こちらを覗き込むシズカの気配。

「……寝てる」

 ほぅ、と息を吐くシズカを捕まえて毛布の中に引きずり込む。

「わぁ、リオ、起きてたの? おはよう、んんッ」
「ん。おはよ」

 触れるだけのキスをして、身体を起した。

「あのね、リオ。メルさんおなかいたみたい。あとね、メルさんとっても可愛い」
「ん。お前のほうが可愛い」

 侍女は面倒でつけていないため、パッと自分で着替える。シズカは一足早く着替えてしまったようで、寝こけていたことを後悔した。

「そういえばメルロの名前、メルにしたのか? メルロだから、メル?」

 安直な名前もわかりやすくて良い。

「あのね、メルロさんって僕がいたところのハムスターとかモモンガって動物に顔が似ててね? ハムさんとかモモさんって呼んでみたけど無反応で……メルロさんとメルさんには反応してくれたから、メルさんにしたの。良いかな?」

 安直だと考えていたのが伝わったのか、唇をきゅっと閉じて上目遣いをするシズカ。わかっている。シズカは狙ってやっていない。小さいから、俺がデカいから、必然的に上目遣いになるだけだ。

「かわい」

 いつものようにむぎゅりと抱き締めると、背中に回る腕。

「ね? メルさんて呼ぶと反応するの可愛いよね……! リオ、メルさんにごはんあげないと」
『ムムー!』

 いつの間にかシズカの肩に乗って真ん丸の瞳を細めてこちらを見ているメルロ。何かシズカへ向ける視線と違わないか?

「わ! メルさん、肩に乗れるんですね。すごいです。可愛いっ」

 可愛いのはシズカだし、引っ付いているメルロにはいらつくところもあるが、これだけ笑顔を見せてくれるなら良いだろう。
 俺がいない時にひとりにさせるよりは良い。
 あまり外の世界へ行かれたくはないが、こもるのも心配していた。俺がいる時くらいはのびのびとやりたいことをしてほしい。
 メルロのためではあるが、外へ出ようと思ってくれたのは良かった。

「メルさん、美味おいしいお花あると良いですね?」

 肩に乗っているメルロの頭をくりくりとでながら話すシズカの頭をけ、俺はエルフの里に程近い森へ転移した。


「うわぁ……!」
『ムイムイッ』

 降り立ったそこは、昨日こっそりと確認した通り、色とりどりの花が咲き誇っていた。

「ここは俺が所有している領地だから、誰もいない。大丈夫だ」
「うん。……すごく、綺麗」
「お前のほうが綺麗だ」
「もー、またそうやってふざけるんだから」
「ふざけてねぇ。本心。綺麗だし、今は真っ赤で可愛い。すごく可愛い」

 毎日毎日シズカの可愛さが更新されていく。
 あまり可愛いと言いすぎると照れてねてしまうだろうか。

「ほら、メルロのえさだろ?」
「あ、メルさんごめんなさい。どのお花が好きですか?」

 シズカはメルロを抱いて歩いて、『ムイッ』と鳴いたところで立ち止まり、地面に下ろしてメルロが選んだ花を摘む。

「ついでに俺らの朝食になりそうな果物でも採ってこよう」

 それだけの提案にも瞳をこれでもかとキラキラさせて差し出した手を握り返してくれた。そんなシズカがいとおしい。
 つるでできたかごを持ちたいと腕にかけて、肩にはメルロ。神話にでも出てきそうだ。思わず昨日からしのひたいに口づける。
 そうして抱き上げて採らせたりんは、シズカが綺麗にいてくれた。渡されたりんが見たことのない形になっていることに、俺は首をかしげる。

「……ん?」
「あ、それ、うさぎです」
「動物?」
「耳が長くて、メルさんみたいにふわふわな小動物で、りんはこうするのが定番なの」
「へぇ。ここにも耳が長い動物はいるな」

 ほぼ食用だけど。
 次に火を起こして、パンとチーズをあぶる。魔法で炎は出せるが、できることは自分たちでやりたい。

「こっちのうさぎさんも可愛い?」
「あー、狩って食うのが基本だけど……見たいか?」
「そっかあ。おにく……いつも食べてるお肉?」
一昨日おとといのシチューの肉」

 嫌がると予想はした。狩りなんて野蛮だと思われないか不安だったが、知っていてほしいことでもある。

「シチュー、美味おいしかった。できるかわからないけど、ちゃんと見て、ちゃんと食べたい」
「……あぁ。今度時間に余裕がある時に夜営でもして、ここに泊まって色々やるか」
「うん。ありがとう」

 予想外の反応。こちらこそ、知ろうとしてくれるのが嬉しい。
 聖女が来たからといって、魔獣に対して俺のやることがなくなるわけではない。
 俺は俺で契約しているのだ。本来の契約通りにただ魔獣を処理するだけで良いってわけでもない。いきなり魔獣を全滅でもさせたら何が起こるか、考えたくもなかった。

「はぁ……難儀だな」
「リオお疲れ?」
「いや、俺の任期が終わったら、こういうとこでゆったりシズカと暮らしたいと思って。むしろ今すぐそうしたい」
「……僕も連れてってくれるの?」

 不安そうに揺れる瞳。そんなの、決まっている。

「当たり前だろう?」

 シズカのいない世界なんて想像できない。

「……メルさんも?」
「……特別な」

 嬉しい。そうつぶやくシズカの肩が震えていて、下を向いたのをメルロが覗き込んでいる。すいだとメルロを掴むと、奴は相変わらずゲシゲシと蹴りを入れてきた。

「シズカ、メルロの蹴りが痛い」

 途端にぱっと上がったその顔は、涙で濡れている。

「俺の胸で泣けたら百点満点だぞ」

 パタリと俺の胸に身体を預けるシズカ。

「はぁ。一千万点」

 ふふっと小さくこぼれる声に安心して、俺はうさぎのりんを口に放った。


「――落ち着いたか?」
『ムイムイムイッ』

 かぶせてくるメルロがうぜぇ。

「うん、落ち着いたよ。ありがとう」

 メルさんもありがとうございます、とシズカはメルロの首をく。

「俺も」
「ん?」
「俺もでて、ちゅーして、抱き締めて」
「……りお」
「はは。顔真っ赤」

 何をしたってシズカは可愛い。可愛いが……無理を言いすぎたか。

「んじゃ、そろそろ帰るか。花はここに入れとけば枯れないから」

 かごに時間停止の魔法をかけて手を差し出す。そのままぐいと引き寄せられた。

「リオ、よしよし」

 背伸びして、俺の頭をでて。

「……ちょっとしゃがんで? ……んッ」

 唇に押し付けるような不慣れなキスをして。

「……ぎゅ」

 ぺたりと頬を俺の胸につけて抱き締めてくれる。

「……はぁ。一億点。むしろそれ以上」

 あまり表情に出ないたちで良かった。きっとだらしなく崩れてしまうから。
 シズカの可愛さはとどまるところを知らない。天井を突き抜けている。むしろ天井がない。


   ○ ○ ○


 出かける準備をして、シズカを残して部屋を出る。
 シズカは勝手に出ることはしないだろう。彼がいなくなることがあるとすれば、外からの接触だ。物理的な鍵をかけ、強力な結界も張る。
 俺に課せられた仕事の一つに〝祈り〟というものがある。言葉通り、祈るのだ。神への感謝と信仰と引き換えに、ほうじょうや健康やけまで願う。神もいい加減うんざりだろう。

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