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初めてのキス
しおりを挟む「そんなに遠くないから歩きでもいいかな?ゆっくり行こう。」
「大丈夫です。運動は苦手だけど歩くのは得意です。」
そう言いながら、歩くの得意は変かな?いやでも駅まで歩き、駅から学校までも歩きだったから…と自分に言い訳をしていると隣でシエロさんがくすくす笑っている。
「ふふ。得意なら良かったよ。」
「あまり笑わないでください…あと、ニーナさんが僕用の花壇を作ってくれたんです。シエロさんはもちろん皆さんに感謝しかありません。ありがとうございます。」
「うんうん、聞いてるよ。今日は植えるもの買いに行こうね。ニーナにねミナは水やり以外もできるって言われてね…気を悪くしないで聞いて欲しいんだけど、私はついつい人族で小さいミナがか弱く見えてしまって…何かあったらどうしようって思うとなかなか外に出せなくて。ミナが物分かり良いのにかこつけてごめんね?今日もミナがあまり見られないように帽子選んでたらアイラに無言で見られちゃったよ。」
はぁっと大袈裟にため息を吐くシエロさんは可愛い。
「謝らないでください。僕が獣人の皆さんより弱いのは自分でも何となくわかります。物分かり良いって言うのも、僕はあまり物欲というか、欲しいものもやりたい事もないというか…口に出す事がなくて…こちらへ来てからは言ってる方ですよ?」
皆さんが優しいからついついお願い事しちゃうんですよね、そう呟くとシエロさんの左腕が僕の方に周りぐいっと肩を抱かれる形になる。そのまま僕の頭に自分の頭をぐりぐりとされて帽子をかぶっているし、ちょっぴり痛い。
「よし!今日から我が儘たくさん言って!言いたいことも全部言って!私に!」
そう言って腕を外して手つなごう?と僕の右手を取る。
「えぇっ!そんなに我が儘なんて思い付かないですよ。それに手、恥ずかしいです。」
「急には難しいかもしれないけど少しずつ慣れていこうね?手は私が繋ぎたいから離しません。」
わざとぎゅーっと言いながら強く手を繋がれてそれが恥ずかしいけど嬉しくて、子供みたいなシエロさんが面白くてあははと声に出して笑ってしまう。
シエロさんはそんな僕を目を細めて見ていて、僕はまた嬉しくなった。
商店街に入るとニーナさんが言っていたように直ぐにお店があった。沢山のお店が道の両脇に並んでいて、様々な種族の獣人さんがいる。
「わあー、凄いです!人とお店がたくさん!いい匂い~!」
僕はぐいぐいとシエロさんの手を引く。我が儘言っていいって言われたけど引っ張っても大丈夫だったかと、心配になってチラリと見上げるとにっこり笑ってくれたから、安心して周りを見て歩く。
ニーナさんのご実家のお店ではニーナさんが待ち構えていて、これお昼にどうぞ!といくつかの果物の入った紙袋を差し出された。
申し訳無くてシエロさんとニーナさんを見るけど2人とも頷いてくれたからお礼を言って受けとると爽やかな甘い匂いがする。
ニーナさんと別れてからもお店を見て回っているとたくさんのお店からシエロ様!領主様!っと声がかかる。見てって!食べてって!と僕も随分ご相伴にあずかった。
町民に愛されている領主のシエロさん、僕は何が凄いのかもキチンと理解していないけれど、ただ単純に、皆から慕われているシエロさんは凄いと思った。そして、そんなシエロさんに保護して貰えた僕はどれだけ幸運だったのかと思う。
途中のパン屋さんでサンドイッチを買って、園芸屋さんで花の種を買った。好きに選んで良いって好意に甘えて店員さんに聞きながら育てるのが難しくない淡い色の花の種を何種類か買わせて貰った。
お釣りを返そうとするとシエロさんに持ってていいよと言われたけど、経費は娯楽費じゃないですよ!というと苦笑いで受け取ってくれる。
そのまま商店街を抜けると農道へ入り、そこも抜けると絶景だった。
淡い紫と濃い紫の花畑は綺麗で。本当に綺麗で。圧倒されて動けないくらいだった。
そっと背中に添えられた手が僕を前に歩かせる。
花畑の中の小道を歩いて丁度中心あたりに着くとほっと息を吐いた。
「ありきたりな言葉ですが、凄く凄く綺麗ですね。お花畑って聞いて黄色とかピンクの沢山の色のお花があるのかと思っていたので、同系色のこんなに沢山のお花に吃驚してしまいました。」
「この花はこの町の特産品なんだ。見た目も綺麗だし、切り花にしても長持ちするから王都の花屋にも卸しているんだよ。でもこの花畑は町民の癒しだからね、取りすぎないように規制して観光地としてこの圧巻の花畑を見に来てもらってるんだ。って言っても宣伝なんかしてないから知るひとぞ知る穴場だけどね?」
それでこんなに綺麗なのにそこまで人がいないのかと1人納得する。
「本当に綺麗で感動しました。シエロさん、連れてきてくれてありがとうございます。」
「どういたしまして。喜んで貰えて良かった。また一緒に来ようね?それにしてもこの時期の花畑はいつも綺麗だけど、綺麗な花畑の中にいるミナはもっと綺麗だね。花の妖精みたいに可愛い。」
そんな事を言われて普通でいられる人がいるのだろうか。
ポポポっと音を立てていそうなくらい顔が真っ赤に染まっているのが分かる。
「…キスしてもいい?」
じっと僕を見つめていたシエロさんの言葉に思わず固まってしまうが直ぐに我にかえって返事をする。
「だっ、だめです!」
「うーん、じゃあこれだけね。」
そう言いながら僕の帽子を取って乱れた髪をとくと前髪を少しだけあげておでこにちゅっという音と柔らかい感触がして一瞬間が空いて何をされたか理解した。
おでこを押さえて口をパクパクさせて言いたいことがあるのに纏まらない僕をみてシエロさんは、ふふっと楽しそうに笑った。
「私はね運命の番には出会えてなくて。そもそも運命ってものを信じきれていないんだけど、でもミナに会えたことは運命なのかなって思っているよ。出会えたことに感謝してる。この世界に来てくれてありがとう。」
そして今度は頬にちゅっとキスをした。
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