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04:王宮にて
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俺は改めて〝妻〟となった女性を見つめた。
艶やかな亜麻色の髪は、太陽の光をうけて輪を作りまるで天使の様。顔は卵型で顎は細くてスッキリしている。特に特徴的なのはパッチリと開いた勝気なアーモンド形の瞳とその中心を飾る深く静かな碧緑色。
稀に見る美女。
そんな美女が俺に好意を持っているとは、誰も信じないだろう。
むろん俺も信じられない。
「どうかなさいましたか?」
う~む。小首をかしげるその角度まで完璧に見えるぞ。
「いやなんでもない。
改めて名乗ろう。俺の名はフィリベルト。将軍だ」
「クリューガ侯爵家のベアトリクスです。
先にお伝えしておきますが、私は妾の子で直系ではございません。本日の事を見て判るように、勝手に流れるならまだしも、自らの意思でクリューガ侯爵家を名乗れる身分でございません」
アーモンド形の瞳が弱々しく反らされる。
娘の婚姻だと言うのにこの場にクリューガ侯爵も侯爵夫人もいなかった理由が解った。正直を言えば憤りを覚える。しかし相手は大貴族。やすやすと口を出せる相手でもない。
それにベアトリクスはきっとそれを望まない。
「そんな事なんの問題もないぞ。
俺だって先日陛下よりシュリンゲンジーフ伯爵なんて言う大層な名を貰ったがな、領地も無い名ばかりの物で正直持て余している」
「何を仰いますか、フィリベルト様はちゃんと名誉手当を頂いているではないですか。私のとは全く違います」
「名より個人が大事と言いたかったのだがまあいい。
そもそもだ。生まれる場所は誰にも選べんのだからそれを気にする必要はないぞ」
「ありがとうございます」
「ははは。ベアトリクスが生まれてきてくれないと、俺はずっと独り身のままだっただろうから、ありがとうは俺の台詞だな」
「フィリベルト様……」
その時アーモンド形の瞳が潤んで揺れた。
俺はそこから何かが零れ落ちそうな気がして、思わず手を伸ばした。その白さから連想した彫刻とは決定的に違う温かさと柔らかい感触を掌に感じる。
そして次第に上がって行く熱量と共に白さも失われていき、
「あ、あの……フィリベルト様?」
すっかり頬を真っ赤に染めたベアトリクスが先ほどとは違う、どこか困ったような潤んだ目でこちらを見つめてきた。
「す、すまん!」
俺は断りも無く触れた事を謝罪して手を引いた。
「い、いえ良いのですよ?
だって私たちは結婚しているんですもの、でも、いきなりはその……それに……」
頬どころか耳まで真っ赤にして可愛らしくはにかむベアトリクス。
いきなりじゃなかったら良いのか!?
ゴクリと喉を鳴らして、ベアトリクスを見つめた。彼女は落ち着かない素振りで部屋の中に視線を彷徨わせていた。
その仕草で、『それに……』の続きは『ここじゃ駄目』と言う意味だと気づき、俺は改めて我に返った。
宰相は退出したが、使用人はまだ残っている。
くぅ人に見られながらとかどんな上級者だ。まったく俺にそんな趣味は無いと言うのに。ベアトリクスはあの勝気そうなアーモンド形の瞳を無防備に潤ませて、否応なしにこちらの庇護欲を煽ってくれて危うく流されそうになった。
「あー……その、なんだ。
ところで俺は今年で二十七歳になるのだが、ベアトリクスは幾つなのだろう」
「私は十七歳になりましたわ」
「ふむぅ十違いか」
若い若いとは思っていた。だが年齢がギリギリではあるが二桁違うと聞いたのはかなりショックだった。
「はい。でもギリギリ間に合いました」
「うん? いったいなにがギリギリなんだ」
むしろギリギリ二桁なんだがなあ。
「結婚できるのは十七歳からでしょう? あと一年早く戦争が終わってしまっていたら、私は他の誰かがここに立つのを、手をこまねいて見ているしかありませんでした」
「そうかな。もしもそうだったとしたら一年間誰も決まらなかったに違いないぞ」
「そんな事は有りません!
だってフィリベルト様はとっても魅力的なお方ですもの」
感情のままにそう叫んだベアトリクスは、自らの失言に気付いて頬を真っ赤に染めて顔を伏せてしまった。
俺はその形の良い頭に手を乗せて、「ありがとう」といって撫でた。見た目通りサラサラで手触りは最高。だがあまり触ると折角結った髪を崩してしまうかと、数回撫でて手を放す。
「ずるいです」
手を放すとそこには、頬を栗鼠のように膨らませたベアトリクスの顔があった。
勝手に触ったのが悪かったかと、「済まない」と素直に謝罪してみれば、
「そう言うところがズルいんです!」
今度は顔を真っ赤にして目を反らされた。
うーん判らんな。
唯でさえ女性というものが判らないと言うのに、さらに十歳と言う年齢差が重く圧し掛かってきた気がした。
艶やかな亜麻色の髪は、太陽の光をうけて輪を作りまるで天使の様。顔は卵型で顎は細くてスッキリしている。特に特徴的なのはパッチリと開いた勝気なアーモンド形の瞳とその中心を飾る深く静かな碧緑色。
稀に見る美女。
そんな美女が俺に好意を持っているとは、誰も信じないだろう。
むろん俺も信じられない。
「どうかなさいましたか?」
う~む。小首をかしげるその角度まで完璧に見えるぞ。
「いやなんでもない。
改めて名乗ろう。俺の名はフィリベルト。将軍だ」
「クリューガ侯爵家のベアトリクスです。
先にお伝えしておきますが、私は妾の子で直系ではございません。本日の事を見て判るように、勝手に流れるならまだしも、自らの意思でクリューガ侯爵家を名乗れる身分でございません」
アーモンド形の瞳が弱々しく反らされる。
娘の婚姻だと言うのにこの場にクリューガ侯爵も侯爵夫人もいなかった理由が解った。正直を言えば憤りを覚える。しかし相手は大貴族。やすやすと口を出せる相手でもない。
それにベアトリクスはきっとそれを望まない。
「そんな事なんの問題もないぞ。
俺だって先日陛下よりシュリンゲンジーフ伯爵なんて言う大層な名を貰ったがな、領地も無い名ばかりの物で正直持て余している」
「何を仰いますか、フィリベルト様はちゃんと名誉手当を頂いているではないですか。私のとは全く違います」
「名より個人が大事と言いたかったのだがまあいい。
そもそもだ。生まれる場所は誰にも選べんのだからそれを気にする必要はないぞ」
「ありがとうございます」
「ははは。ベアトリクスが生まれてきてくれないと、俺はずっと独り身のままだっただろうから、ありがとうは俺の台詞だな」
「フィリベルト様……」
その時アーモンド形の瞳が潤んで揺れた。
俺はそこから何かが零れ落ちそうな気がして、思わず手を伸ばした。その白さから連想した彫刻とは決定的に違う温かさと柔らかい感触を掌に感じる。
そして次第に上がって行く熱量と共に白さも失われていき、
「あ、あの……フィリベルト様?」
すっかり頬を真っ赤に染めたベアトリクスが先ほどとは違う、どこか困ったような潤んだ目でこちらを見つめてきた。
「す、すまん!」
俺は断りも無く触れた事を謝罪して手を引いた。
「い、いえ良いのですよ?
だって私たちは結婚しているんですもの、でも、いきなりはその……それに……」
頬どころか耳まで真っ赤にして可愛らしくはにかむベアトリクス。
いきなりじゃなかったら良いのか!?
ゴクリと喉を鳴らして、ベアトリクスを見つめた。彼女は落ち着かない素振りで部屋の中に視線を彷徨わせていた。
その仕草で、『それに……』の続きは『ここじゃ駄目』と言う意味だと気づき、俺は改めて我に返った。
宰相は退出したが、使用人はまだ残っている。
くぅ人に見られながらとかどんな上級者だ。まったく俺にそんな趣味は無いと言うのに。ベアトリクスはあの勝気そうなアーモンド形の瞳を無防備に潤ませて、否応なしにこちらの庇護欲を煽ってくれて危うく流されそうになった。
「あー……その、なんだ。
ところで俺は今年で二十七歳になるのだが、ベアトリクスは幾つなのだろう」
「私は十七歳になりましたわ」
「ふむぅ十違いか」
若い若いとは思っていた。だが年齢がギリギリではあるが二桁違うと聞いたのはかなりショックだった。
「はい。でもギリギリ間に合いました」
「うん? いったいなにがギリギリなんだ」
むしろギリギリ二桁なんだがなあ。
「結婚できるのは十七歳からでしょう? あと一年早く戦争が終わってしまっていたら、私は他の誰かがここに立つのを、手をこまねいて見ているしかありませんでした」
「そうかな。もしもそうだったとしたら一年間誰も決まらなかったに違いないぞ」
「そんな事は有りません!
だってフィリベルト様はとっても魅力的なお方ですもの」
感情のままにそう叫んだベアトリクスは、自らの失言に気付いて頬を真っ赤に染めて顔を伏せてしまった。
俺はその形の良い頭に手を乗せて、「ありがとう」といって撫でた。見た目通りサラサラで手触りは最高。だがあまり触ると折角結った髪を崩してしまうかと、数回撫でて手を放す。
「ずるいです」
手を放すとそこには、頬を栗鼠のように膨らませたベアトリクスの顔があった。
勝手に触ったのが悪かったかと、「済まない」と素直に謝罪してみれば、
「そう言うところがズルいんです!」
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