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28:白馬の1
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眼前にはただっ広い真茶色の平地が広がっていた。今が冬でなければ、きっと青草が生えて少し見栄えもよかったに違いない。
さてここは二ヵ月に一度、順繰りに行われている野外合同訓練の会場だ。二ヵ月に一度と言っても、王都にいる部隊すべてが参加するわけではないから、実際に参加するのは三回に一回、つまり半年に一度となる。
訓練の期間は三日間。
野営地の準備から始まり、昼過ぎの模擬戦に夜襲の備えと、三日でそれを行うのだからまあそれなりに過酷な訓練だろう。
以前ならば何も考えることなく唯々諾々と参加しただろう。しかし今は新居を構え、新妻がいるのでなんとか別の部隊に順番を譲れないかと頑張った。
だが結果はこの通り。
最前線から戻った実戦部隊の胸を借りたいと直々に言われてはしょうがない。
この鬱憤は訓練で晴らさせて貰おうと思う。
まずは俺たちを含めた三つの部隊が平原を挟んで野営地を構える。うちの部隊からすれば野営の準備は慣れたもの、天幕を張り、その周囲に持ってきた木で簡易の柵を作り、柵の前には穴を掘る。一番最初にそれらを終えて、すぐに昼の炊き出しが始まった。
昼食の出来上がりを待つ間、中央に張った白い天幕で雑仕事をこなしていると、何やら外が騒がしくなってきた。
喧嘩ほどの騒ぎではない。だが時折大きな声が聞こえてきて何やら揉めているような?
ザザッザっと兵があわただしく走る音が聞こえる。
天幕に伝令の兵士が入ってきて、
「失礼いたします!
シュリンゲンジーフ将軍に面会が訪れております」
面会? なんだそれは?
今回訓練に参加するほかの部隊長がやって来たならば、面会などという言い方はすまい。それ以外だと言われても合同訓練に、こんな場所に訪ねてくるような知り合いはいない。
「どこの誰が面会に来たのだ、正しく報告せよ」
俺が声を出す前に副将軍が叱責する。
「申し訳ございません!
訪問者はシュペングラー公爵家の次男ハーラルト様を名乗っておられます!」
公爵家と名乗るがこんな場所では証明する方法はなく、つまり自称。しかし本物だと困るから念のために報告に来たってとこだろう。
「なにぃ公爵家だと?」
副将軍がちらりと俺の方を見る。
だが俺だってそんな相手に心当たりはない。しかし本当に公爵家だとすると……
「判った。会おう」
俺はもしもを考えて会ってみることに決めた。
簡易の柵とその手前の穴が途切れた野営地の入り口に、身なりの良い金髪の青年が白馬に乗って待っていた。
お供は一人。青年と同じ程度の年齢だが彼が身に纏う空気は俺たちと同類。つまり騎士だろう。
「俺がシュリンゲンジーフだ」
「おおその顔、確かにシュリンゲンジーフ伯爵であるな!
私はシュペングラー公爵家の次男ハーラルト! いざ尋常に勝負せよ!」
「悪いが勝負する理由が判らん」
「何をとぼけるか! そなたは権を振りかざし、嫌がる令嬢を無理やり妻にしたと聞いているぞ! 私に負けたならば即刻ご令嬢を開放するがいい!」
……こいつどうしてこんな勘違いしているんだ?
さてここは二ヵ月に一度、順繰りに行われている野外合同訓練の会場だ。二ヵ月に一度と言っても、王都にいる部隊すべてが参加するわけではないから、実際に参加するのは三回に一回、つまり半年に一度となる。
訓練の期間は三日間。
野営地の準備から始まり、昼過ぎの模擬戦に夜襲の備えと、三日でそれを行うのだからまあそれなりに過酷な訓練だろう。
以前ならば何も考えることなく唯々諾々と参加しただろう。しかし今は新居を構え、新妻がいるのでなんとか別の部隊に順番を譲れないかと頑張った。
だが結果はこの通り。
最前線から戻った実戦部隊の胸を借りたいと直々に言われてはしょうがない。
この鬱憤は訓練で晴らさせて貰おうと思う。
まずは俺たちを含めた三つの部隊が平原を挟んで野営地を構える。うちの部隊からすれば野営の準備は慣れたもの、天幕を張り、その周囲に持ってきた木で簡易の柵を作り、柵の前には穴を掘る。一番最初にそれらを終えて、すぐに昼の炊き出しが始まった。
昼食の出来上がりを待つ間、中央に張った白い天幕で雑仕事をこなしていると、何やら外が騒がしくなってきた。
喧嘩ほどの騒ぎではない。だが時折大きな声が聞こえてきて何やら揉めているような?
ザザッザっと兵があわただしく走る音が聞こえる。
天幕に伝令の兵士が入ってきて、
「失礼いたします!
シュリンゲンジーフ将軍に面会が訪れております」
面会? なんだそれは?
今回訓練に参加するほかの部隊長がやって来たならば、面会などという言い方はすまい。それ以外だと言われても合同訓練に、こんな場所に訪ねてくるような知り合いはいない。
「どこの誰が面会に来たのだ、正しく報告せよ」
俺が声を出す前に副将軍が叱責する。
「申し訳ございません!
訪問者はシュペングラー公爵家の次男ハーラルト様を名乗っておられます!」
公爵家と名乗るがこんな場所では証明する方法はなく、つまり自称。しかし本物だと困るから念のために報告に来たってとこだろう。
「なにぃ公爵家だと?」
副将軍がちらりと俺の方を見る。
だが俺だってそんな相手に心当たりはない。しかし本当に公爵家だとすると……
「判った。会おう」
俺はもしもを考えて会ってみることに決めた。
簡易の柵とその手前の穴が途切れた野営地の入り口に、身なりの良い金髪の青年が白馬に乗って待っていた。
お供は一人。青年と同じ程度の年齢だが彼が身に纏う空気は俺たちと同類。つまり騎士だろう。
「俺がシュリンゲンジーフだ」
「おおその顔、確かにシュリンゲンジーフ伯爵であるな!
私はシュペングラー公爵家の次男ハーラルト! いざ尋常に勝負せよ!」
「悪いが勝負する理由が判らん」
「何をとぼけるか! そなたは権を振りかざし、嫌がる令嬢を無理やり妻にしたと聞いているぞ! 私に負けたならば即刻ご令嬢を開放するがいい!」
……こいつどうしてこんな勘違いしているんだ?
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