伯爵閣下の褒賞品(あ)

夏菜しの

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29:白馬の2

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 さあ決闘! と興奮しっぱなしのハーラルトではなく、一緒にやって来た騎士のペルレが解説をしてくれた。
 まずハーラルトは新年の宴でベリーを見初めたと言う。
 侯爵家の令嬢ではあるが、クラハト領に引きこもって暮らしてきたベリーが社交界の場に出たのはあれが初めて。
 今までどこの夜会でも見たこともない美しい令嬢に心惹かれたハーラルトは、周囲の者にあれは誰だと聞いたらしい。
 曰く『国王陛下の勅命で熊のいけにえにされた美女』だそうだ。

 むぅいけにえか……
 令嬢を持つ貴族らの中で俺の評判がすこぶる悪かったのは知っていたが、流石にここまでとは思わなかった。
 まあそんな訳で、ハーラルトは俺とベリーの関係を誤解していた。

 さっと視線をハーラルトに這わせた。ハーラルトは線が細く、馬上の様子からも武芸に秀でているようには見えない。
 決闘すればきっと勝つだろう。
 だが決闘に勝てばすべて解決という訳ではない。なんせ決闘を受ければ、ベリーを無理やり妻としたのを認めたことになるのだ。
 さて、どうやって判って貰おう?

 まずはストレートに。
「無理やり妻にした覚えはない。それは本人に確認して貰えば分かるはずだ」
「むむっすでに口止め済みということか。なんと悪辣な!!」
「口止めなどするものか。
 心配ならば俺がいないところで聞くがよかろう」
 とは言え、その場合ベリーが危険なので女性騎士の部下に間に入って貰おうと思う。
「その自信、おおっなんと可哀そうな……
 きっとベアトリクス嬢は報復を恐れ口を閉ざすのだな」
 ダメだこいつ。

 途方に暮れた俺はお付きの騎士ペルレにちらりと視線を向けた。すると彼は『何を言っても駄目ですよ』とばかりに目を閉じてゆっくりと首を振った。
 そんなことをしているうちに昼食が出来上がった。
 腹が膨れたらもう少しマシにならないだろうか……と、ハーラルトを促し、開けさせた天幕に導いて食事を与えた。

 なお同席は嫌がったので、俺は兵に交じって食事をとる。
 しかし参ったな。
「あのぉ将軍」
 引っ越しを手伝ってくれた騎士隊長の一人、ヒンケルが声を掛けてきた。
「なんだ?」
「こうなったら奥さん連れてきてラブラブなところを見せつけるしかないっすよ」
「いや駄目だろう。
 それさえも脅されてって話になるんじゃないか?」
「大丈夫ですって、将軍とこの奥さんみりゃ一発で判りますよ」
「一発? それはどういう……」
「べた惚れって意味ですよ」
 言葉に詰まっていると、奴は勝手を指示を出して兵を送ってしまう。
「お、おい勝手に!」
「なに言ってんすか。訓練始まる前に解決してないと困るでしょーが」
 真っ先に支度を終えた俺たちに比べて、平原の向こうの二部隊ではまだ炊き出しの煙は上がっていない。
 ならば訓練開始はもう少し遅くなるだろう。
 今から行けば、小一時間ほどでベリーがやってくる。誤解を解くころには訓練も始まるころか……
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