公爵令嬢は嫁き遅れていらっしゃる

夏菜しの

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03:夜会会場

 屋敷のあちこちで使用人が走り回り、明日の夜会を開く為の作業が行われている。
 それをぼぅと見つめながらため息を吐く。

「どうしたんだい、ディー」

「別に、なんでもないわ」
 話す気が無いのよと気の無い返事をするが、お父様はお構いなしに話を続けた。

「明日の夜会の参加者だが、有名な貴族令息が沢山来る事になっていてね。きっとディーの眼鏡に叶う者もいるだろうから、気楽に選びなさい」

 きっと本気で参加する人なんて一握りだと、お父様も分かっている。
 ならば明日の夜会は出来レース。
 お父様が気にいる令息が誰か? と言うことね。それとも既にある程度の目星はつけてあるのだろうか?

「疲れたから、部屋に戻るわ」
 気の無い返事でそう言って、わたしは逃げた。



 部屋に帰れば着替える事もなく、そのままベッドに倒れこむ。
 子供の頃からお世話してくれている侍女のアデリナが「お嬢様、しわになりますよ」と注意してくるが無視だ。
「ねえ、なんでわたしは公爵家なんかに生まれたのかしら?」
 アデリナは困ったような表情を見せて口を閉ざす。
 最近はいつも同じ質問をするのだ、いい加減答えてくれても良いのに。
 しばしの沈黙の後、「疲れてるの、ごめんなさい」と言って会話を終わりにする。これもいつも通り。


 アデリナが退室した後、先ほどの言葉をまた口にする。
「なんで公爵家なのよっ」

 公爵家じゃなければ、嫁に行くという選択だけでなく爵位が欲しいと言う男を婿に取る事も出来たのだ。
 普通の令嬢が持つ自由の、半分しかない自分の家に憤りを感じ始め、思考を止める。
 危ない、またあの頃のように癇癪を起こすところだったわ。
 少しばかり冷静になり、明日の夜会はせめて楽しもうと、そのまま目を閉じた。








 男の僕は夜会の為に新たな服を仕立てることもなく、平穏に過ごしていた。

 デビューなのだから着飾りなさい~と言う母に、デビューじゃないよとひたすら言い続ける単調な毎日だった。
 こんな黒歴史は真っ平御免だ!


 拒否し続けた僕より、この頃忙しかったのはむしろ母の方で、ドレスを準備したり、さらには姉が帰ってくるからと部屋を準備したりと右往左往していたと思う。

 夜会の日となる明日、侯爵家に嫁いだ姉が偶然にも帰ってくる。
 もちろん出戻りと言うわけではなく、第二子の出産の為の里帰りだ。

 久しぶりに会う姉はどんなだろうか? 相変わらずぽぁぽぁしているのだろうか。
 そう言えば今度の夜会の公爵令嬢とは同級生だったと聞いている、その頃の話でも聞いてみようかな? とも思っていた。


 夜会当日は、屋敷は朝早くからバタバタしていた。
 定刻通りの時間に顔を洗ってエントランスを横切れば、義兄が姉を連れて帰っていたのだ。

「おはよう。ディートリヒ」
 義兄の笑顔は相変わらず爽やかだ。
 姉曰く「糖度十二分の笑顔」だそうだが、そんなモノが実在すれば甘ったるくて気持ち悪いに違いない。
 それは恋愛脳が作り出す幻想だ。


「おはようございます。義兄上、それから姉上」

「ねぇたまに帰ったお姉ちゃんを取って付けたように言うのは止めて?」
 そんな姉のお腹は大きい。
 一般の妊婦がどの程度かは知らないが、元々痩せ方の姉だと大丈夫か? と心配するほど大きく見える。
 なるほど、だから義兄が腰を支えているのか。
 仲が良いことだ。


「義兄上は食事はまだですか? よろしければご一緒にどうです」

「だーかーらー、私には聞かないの?」
 再び無視されてお冠な姉を他所に、義兄は「じゃあ頂こうかな」と、ニコリと返してきた。
 うん、爽やかだ。


 朝食の席で、僕は公爵令嬢の話を聞いていた。
「なんだ、ディートリヒはクラウディア嬢に興味があるのか?」

「へぇ公爵令嬢はクラウディア様と仰るのですか。いえ、そうではなくてですね、最低限知っておくべき事もあるかなと思いまして確認しておきたいのですよ」
 僕の年齢がいくら相手と釣り合わないと言えど、主催者側の事を何も知らないのは失礼だと思ったのだ。
 もちろん「深く関わるつもりはないですけどね」と、言っておくのは忘れない。


「ディートリヒは真面目だな」と、静かに言う義兄に対し、
「クラウディア様は金髪でドリルが凄いのよ!」と、姉は興奮気味に答えている。

 ん、ドリル?

「姉上、ドリルとは何ですか?」

「こう、くるくるくるって奴よ?」
 姉は頭の付近で指に髪をくりくりと巻きつけながら解説をしてくれている。

 どうやら頭にあるものらしいが、よく分からない。困り果てて義兄を見れば放っておけとばかりに首を横に振っていた。
 僕はなんとか「そ、そうですか」と言っておいた。
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