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第四章:騎士学校・陰謀編
第28話 教団幹部
しおりを挟む絡みつくような鋭い視線が向けられた。幹部らしき男はフードの奥で目をぎらりと光らせ、妖しい光が瞳の底で脈動する。
その刹那、空気が歪み、世界が悲鳴をあげるように爆ぜた。
「なっ?」
直後、凄まじい衝撃波が放たれた。
一瞬の静寂のあと、遅れて耳を裂く轟音が鳴り響き、前方の大気が弾け飛んだ。不可視の一撃を、研ぎ澄まされた直感だけで紙一重に避ける。
頭上を衝撃波が通過し、背後で瓦礫が吹き飛んだ。奇妙な装置が鉄屑のように無惨に砕け散り、破片が鋭利な弾丸のように飛び交う。
「速い……!」
足元の石畳が跳ね上がり、視界が砂埃に霞む。
その向こうから、幹部が虚空を裂くように右手を振り上げると、追撃の衝撃波が矢継ぎ早に放たれた。
爆風が頬を切り裂くように吹きつけ、左腕をかすめた瞬間、熱い痛みが走る。
「……クソったれ!」
体内で魔素を強引に練り上げると、手のひらを前に突き出した。
大気中の冷気がうねり、霧のように空間を覆う。空中に数本の〈氷槍〉が形成されると、間髪を入れずに射出する。
青白い氷の槍が幾重にも幹部へ殺到したが、彼は薄ら笑いを浮かべた。
直後、衝撃波が周囲を撫で斬るように走り抜け、〈氷槍〉が次々と砕け散っていく。氷片が雪のように舞い、床に落ちて弾ける。
冷気があたり一面に立ち込めるなか、幹部はゆっくりと迫ってくる。その足取りは、氷の破片の中でも決して止まらない。
血の臭いと破壊音が耳を打つ。心臓が激しく脈打つのを感じた瞬間、僕は魔力を解放した。
世界が一瞬にして裏返る。視界が引きちぎられるように歪み、つぎの瞬間、幹部の背後に躍り出た。
「そこだっ!」
右手の短刀を逆手に握り、躊躇うことなく背中に突き刺した。
刃は肉を裂き、骨をも貫いた感触があった。幹部の身体が大きくのけぞり、口から血を吐き出した。
しかし、その男はゆらりと振り向き、赤い眼光をぎらつかせた。血を吐き出しながらも、その目はなおも憎悪と執念に満ちている。
「……これしきで、終わるものか……!」
呻くように言い放ち、地を這うように迫ってくる。
血に染まった腕を伸ばし、その手に再び禍々しい魔素が集まりはじめた。
「クソっ、まだ動くのか!?」
汗が頬を伝い落ちる。全神経が一点に研ぎ澄まされ、息をすることさえ忘れそうになるほどの緊張感が、刹那の静寂を支配していた。
幹部の眼が血のように赤く輝き、怨嗟の声とともに大気を裂く衝撃波がまた放たれる。
僕は咄嗟に〈風刃〉を放ち、衝撃波を相殺するように切り裂くが、相殺しきれずに爆風が脇腹をかすめて鋭い痛みが走った。
それでも体内の魔素を無理やり搾り出し、今度は両手から氷の冷気を迸らせる。床を覆う氷の結晶がひび割れ、空中に鋭い〈氷槍〉が十数本形成された。
「これで……!」
一瞬の静寂のあと、幹部めがけて一斉に撃ち放つ。
氷槍が降り注ぐように幹部を穿つ。血飛沫が霧のように舞い、幹部は膝をつき、ぐらりと前のめりに倒れかけた。
息を詰め、警戒を解かぬように幹部を見据える。異変が起きたのは、ちょうどその時だった。
幹部は血に濡れた指先を動かし、床に散乱していた無数の瓶のひとつを掴み上げた。濁った液体が中でゆらゆらと蠢いている。
それを口元に当てると、幹部は獰猛な笑みを浮かべ、一気に飲み干した。つぎの瞬間、彼の身体が信じられないほどに膨れ上がり、骨が軋む音が響き渡る。
皮膚が裂け、紫黒色の瘤のような塊が次々と盛り上がり、血管が浮き上がる。筋肉が引き裂かれ、異様な長さの腕が床を叩きつける。
顔も、人間の面影を失っていった。口は耳元まで裂け、眼窩は血走った光を放ち、無数の牙が並んだ口腔からは悪臭を放つ唾液が滴り落ちる。
背中からは棘のような骨が飛び出し、背骨を覆うかのように鎧のような瘤が形成されていく。
その醜悪な変貌を、僕は言葉を失いながら見つめていた。地下の空気が血と腐臭で満ち、吐き気が込み上げる。
幹部の声とも獣の声ともつかない叫びが響き渡り、怪物が地響きを立てて一歩を踏み出した。瞳は人の理性を失い、ただ殺意だけがそこにあった。
「マズい……怪人に変異するつもりだ……」
戦慄が背骨を駆け上がる。戦いは終わっていなかった。むしろ、ここからが本当の地獄だと、僕は理解した。
怪人と化した幹部が、獣じみた呻き声をあげながら身をよじらせた。床に散乱する瓶の破片や、血まみれの布片が巻き上がる。
砕け散ったガラス片が、地下の冷たい空気を切り裂いて耳鳴りのような音を立てる。その刹那だった。
怪人の背後に広がる闇の向こうから、底の知れない何かが蠢く気配を感じた。
言葉では説明できない、不定形の〝ソレ〟は、まるで物理法則の隙間から滲み出すような気配を伴っていた。
地下の冷気が一層感じられ、指先から体温が吸い取られるような感覚に襲われる。
「……あれは、一体?」
目を凝らしても、そこには何も見えない。
けれど、視界の隅で何かが蠢くような錯覚が何度も脳裏を掠める。水溜まりに浮かぶ人骨の影が、こちらに向かって手を伸ばしたようにも見えた。
狂気を孕んだ空気が、肺の奥を蝕むように入り込んでくる。湿った腐臭が鼻腔を刺し、まるで暗闇が囁くように、不気味な声が頭の奥で木霊した。
それは、意味を成さない言語の羅列のようでありながら、同時に理性の底を直接叩き割るような響きだった。
気配はなおも蠢き続けていた。そこに形はないが、確かに存在していた。人智を超えた何か――理性で触れれば壊れてしまう、異界の悪意そのものが潜んでいる。
額から冷たい汗が滲み、指先が震える。怪人と化した幹部がなおも唸り声をあげ、忌まわしい腕を伸ばしてくる。
その背後の闇では、さらに禍々しい気配が、底なしの穴のように口を開けていた。
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