18 / 37
18.事務的な作業、遺体に切り込みを入れる
しおりを挟む
「さっそくはじめるぞ。仏をステージの真んなかへ運ぶ。今度ばかりは人手も足りん。咲希も力をかしてくれ」
「ええ、微力ながら」
モノレールに固定された棺をはずし、今度は四人だけで、えっちらおっちら一枚岩の中心まで運んだ。
それにしても生々しい現場であった。
最近はニホンザルによる――鳥葬ならぬ猿葬――は行われていなかったのか、これといった名残りは見られない。
とはいえ、いたるところに回収しそこねた骨片らしき白い残滓が散らばっていた。
ふいに前方の樅の木が揺さぶられた。葉ずれがリズミカルに鳴った。
知らぬ間に、枝の上には数匹のニホンザルがうずくまっていた。その猿も木陰に隠れ、不吉なシルエットと化している。
猿たちは四肢をふんばって枝を揺らし、興奮の色を隠しきれない様子だ。これから始まるショーを期待しているかのようだ。
平泉は小さなバールで棺桶のふたの釘を抜きにかかった。
手慣れたもので、ほどなく封印は解けた。
ふたを無造作に放り投げると、友之の脇に腕を入れ、立たせた。
棒のように硬直した遺体を地べたに横たえた。
かるく黙とうを捧げたあと、三人に向きなおり、
「どれ、ここからはおれの仕事だ。あんたらはちょっと離れていてくれ」
と言うと、厳しい顔つきで遺体の着物を脱がせはじめた。
友之はたちまち身ぐるみはがされ、素っ裸にむかれた。腹這いにひっくり返した。
平泉はここでブッシュナイフを手にした。
同時に咲希は眼を伏せた。清彦は嗚咽を洩らし、下を向いて、交野にはばからず泣いている。
遺体の後ろ髪をつかみ、無理やり首をそらせた。
が、硬直しきっているので、上半身ごとそり返った。
やおら遺体の額にナイフをめり込ませた。血は慰み程度にしたたるだけだ。無残な切り口があいた。
ナイフをいったん下におくと、切り口に両手をかけ、なんと頭の皮をめくりはじめた。
まるでカツラでも脱がすかのように、髪の毛のついた頭皮がきれいにむかれ、しまいには後頭部にダラリと垂れさがった。
赤い筋繊維がむき出しの頭部はあまりにも痛々しく、非現実的すぎた。交野は眼をそむけたくても、魅入られてしまったかのように引きはがすことができない。
平泉はふたたびナイフを手にし、こんどは遺体の背中に斜めにかけて切り込みを入れた。
背中全体に5本、ざっくり切りこむと、赤黒い肉がのぞいた。
同じように二の腕や両脚にも刃を食い込ませた。
プリッとした黄色い脂肪の層が見えた。まるで炙られるまえのイカみたいだ、と交野は不謹慎な連想を思い浮かべた。
遺体を仰向けにさせると、同様に切り込みを入れていく。
とくに胸部の中心から腹部にかけて縦に裂くと、腹圧でもりもりと内臓があふれてきたのには衝撃を禁じ得なかった。
次に平泉は血がべたついた手で、エプロンのポケットから真新しいロープを取り出した。
その端を遺体の首にかけ、きつめに縛った。
別の一端を、地面の杭に縛りつけた。
「これは猿に食べさせるとき、仏が散らばるのを防ぐためだ。とくに頭を持っていかれるのだけは避けたいんでな。もっとも、猿の飢えがピークに達していると、各部位をちぎり取られ、あちこちに散乱してしまうことも少なくないんだが」と、平泉は作業を続けながら独り言のように言った。「……わかるよ。内地の人間にゃあ理解しがたい光景だろう。死者を冒涜しているかのように見えるかもしれん。じっさい、下で話した民俗学の先生も、現場を目の当たりにすると、島のやり方に異議を唱えたほどだ。野蛮すぎると。これが先進国たる文明人のやることかとね」
「そう捉えられても致し方ないな。いささか刺激が強すぎる」
交野は手の甲を口にやり、声をしぼり出した。死体損壊罪が適用されないのがふしぎでならない。
「ここいら一帯は、古くからこうしてきた。何人たりとも禁止させやしない。これが島のルールだ。古臭くって、残酷で、不器用かもしれんが。おれはむしろ、伝統だと誇りをもてるようになったがね」
「なぜご遺体に切り込みを入れるんです?」
「こうすることで猿が食べやすくなる。奴らの爪をもってしても、なかなか遺体の皮膚を破ることは難しいもんなんだ。早く片づけてもらいたいし、それもできるだけキレイに、残さず食べてもらうよう、こうする。チベットの鳥葬も同じことをするそうだ」
「ええ、微力ながら」
モノレールに固定された棺をはずし、今度は四人だけで、えっちらおっちら一枚岩の中心まで運んだ。
それにしても生々しい現場であった。
最近はニホンザルによる――鳥葬ならぬ猿葬――は行われていなかったのか、これといった名残りは見られない。
とはいえ、いたるところに回収しそこねた骨片らしき白い残滓が散らばっていた。
ふいに前方の樅の木が揺さぶられた。葉ずれがリズミカルに鳴った。
知らぬ間に、枝の上には数匹のニホンザルがうずくまっていた。その猿も木陰に隠れ、不吉なシルエットと化している。
猿たちは四肢をふんばって枝を揺らし、興奮の色を隠しきれない様子だ。これから始まるショーを期待しているかのようだ。
平泉は小さなバールで棺桶のふたの釘を抜きにかかった。
手慣れたもので、ほどなく封印は解けた。
ふたを無造作に放り投げると、友之の脇に腕を入れ、立たせた。
棒のように硬直した遺体を地べたに横たえた。
かるく黙とうを捧げたあと、三人に向きなおり、
「どれ、ここからはおれの仕事だ。あんたらはちょっと離れていてくれ」
と言うと、厳しい顔つきで遺体の着物を脱がせはじめた。
友之はたちまち身ぐるみはがされ、素っ裸にむかれた。腹這いにひっくり返した。
平泉はここでブッシュナイフを手にした。
同時に咲希は眼を伏せた。清彦は嗚咽を洩らし、下を向いて、交野にはばからず泣いている。
遺体の後ろ髪をつかみ、無理やり首をそらせた。
が、硬直しきっているので、上半身ごとそり返った。
やおら遺体の額にナイフをめり込ませた。血は慰み程度にしたたるだけだ。無残な切り口があいた。
ナイフをいったん下におくと、切り口に両手をかけ、なんと頭の皮をめくりはじめた。
まるでカツラでも脱がすかのように、髪の毛のついた頭皮がきれいにむかれ、しまいには後頭部にダラリと垂れさがった。
赤い筋繊維がむき出しの頭部はあまりにも痛々しく、非現実的すぎた。交野は眼をそむけたくても、魅入られてしまったかのように引きはがすことができない。
平泉はふたたびナイフを手にし、こんどは遺体の背中に斜めにかけて切り込みを入れた。
背中全体に5本、ざっくり切りこむと、赤黒い肉がのぞいた。
同じように二の腕や両脚にも刃を食い込ませた。
プリッとした黄色い脂肪の層が見えた。まるで炙られるまえのイカみたいだ、と交野は不謹慎な連想を思い浮かべた。
遺体を仰向けにさせると、同様に切り込みを入れていく。
とくに胸部の中心から腹部にかけて縦に裂くと、腹圧でもりもりと内臓があふれてきたのには衝撃を禁じ得なかった。
次に平泉は血がべたついた手で、エプロンのポケットから真新しいロープを取り出した。
その端を遺体の首にかけ、きつめに縛った。
別の一端を、地面の杭に縛りつけた。
「これは猿に食べさせるとき、仏が散らばるのを防ぐためだ。とくに頭を持っていかれるのだけは避けたいんでな。もっとも、猿の飢えがピークに達していると、各部位をちぎり取られ、あちこちに散乱してしまうことも少なくないんだが」と、平泉は作業を続けながら独り言のように言った。「……わかるよ。内地の人間にゃあ理解しがたい光景だろう。死者を冒涜しているかのように見えるかもしれん。じっさい、下で話した民俗学の先生も、現場を目の当たりにすると、島のやり方に異議を唱えたほどだ。野蛮すぎると。これが先進国たる文明人のやることかとね」
「そう捉えられても致し方ないな。いささか刺激が強すぎる」
交野は手の甲を口にやり、声をしぼり出した。死体損壊罪が適用されないのがふしぎでならない。
「ここいら一帯は、古くからこうしてきた。何人たりとも禁止させやしない。これが島のルールだ。古臭くって、残酷で、不器用かもしれんが。おれはむしろ、伝統だと誇りをもてるようになったがね」
「なぜご遺体に切り込みを入れるんです?」
「こうすることで猿が食べやすくなる。奴らの爪をもってしても、なかなか遺体の皮膚を破ることは難しいもんなんだ。早く片づけてもらいたいし、それもできるだけキレイに、残さず食べてもらうよう、こうする。チベットの鳥葬も同じことをするそうだ」
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
アルファポリスとカクヨムってどっちが稼げるの?
無責任
エッセイ・ノンフィクション
基本的にはアルファポリスとカクヨムで執筆活動をしています。
どっちが稼げるのだろう?
いろんな方の想いがあるのかと・・・。
2021年4月からカクヨムで、2021年5月からアルファポリスで執筆を開始しました。
あくまで、僕の場合ですが、実データを元に・・・。
「真白」〜〜雪と蛇の女〜〜
まへまへ
キャラ文芸
恋愛ファンタジー小説です。
本作品の画像は全て生成AIを使用しております。
信州の雪深い山中で、母とともに小さなロッジを営む青年・一朗。
父を雪崩で亡くし、幼なじみをかばって手に傷を負った過去を抱え、静かに、淡々と日々を生きていた。
そんな彼の前に、ある日“白い蛇”が現れる。
罠にかかっていたその蛇を助けた夜から、運命は静かに動き出した。
吹雪の晩、ロッジに現れた少女――名を「真白」。
彼女は、あの日の白蛇だった。
純粋で無垢、けれどどこか懐かしい。
人の姿を得た彼女は、初めて知る「世界」に心を震わせ、一朗のそばで少しずつ“人間”を学んでいく。
雪に閉ざされた山のロッジで生まれた、人と白蛇の奇跡の絆。
過去の痛みと孤独を包みこむように、真白は優しく一朗の心に灯をともしていく。
けれど、やがて訪れる春が二人に突きつける――「蛇としての運命」と「人としての願い」。
白い雪の中で出会い、心を通わせた一朗と真白の、静かで切ない恋の物語ですが、ラバーフェチ要素やちょっとR15な要素(まへまへらしさ)が中盤以降登場しますので、、、。笑
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる