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カシアン公爵邸の豪華な客室。そこは、ファッションショーを目前に控えた「戦場」の控室となっていた。
「……ねえ、アン。本当にこれで合っていますの? なんだか、鏡を見るたびに自分の顔が『くすんで』見える気がするのですけれど」
シャーリーは、リアから贈られたあの「フリル地獄ドレス」に身を包み、不安げに首を傾げた。
着心地は驚くほど良い。シルクの肌触りは天国のように滑らかで、コルセットの締め付けもちょうどいい。……なのに。
「……お嬢様。それは気のせいですわ。リアお嬢様が、わざわざあなたのために『計算』して作られた一着なのですから」
アンは、笑いを堪えるのに必死だった。
シャーリーが動くたびに、過剰なフリルが重力に従って絶妙な位置で膨らみ、彼女の「短い脚」と「幼児体型」をこれでもかと強調している。
「そうよね! 触り心地は最高ですもの。これだけ良い布を使っているんだから、似合わないはずがないわ!」
シャーリーは自分に言い聞かせるように、鏡の前でくるりと回った。
だが、回るたびにドレスの重みが遠心力で外側へ逃げ、彼女の重心をぐらつかせる。
「きゃっ!? な、なんだかこのドレス、振り回されるような感覚があるわ……」
「それは『動的慣性(ダイナミック・イナーシャ)』を応用した、リアお嬢様独自の設計ですわ。着用者の『心の迷い』が、そのままドレスの揺れに反映される……という名目の、ただの嫌がらせですわね」
「えっ、今なんて言ったの!?」
「いえ、最先端の流行だと申し上げましたわ」
そこへ、隣の試着室から「ショッキング・イエロー」の爆光を放ちながら、ウィルフレッド王子が意気揚々と現れた。
「シャーリー、準備はいいか! 見ろ、このジャケット。袖を通した瞬間、自分が太陽になったかのような全能感に満たされているぞ!」
「……殿下。……その、顔色が……」
シャーリーが絶句した。
ただでさえ寝不足気味だった王子の肌は、反射の強い黄色に包まれたことで、まるで重度の黄疸にかかったかのような、土気色の不健康な色合いに見えていた。
「どうした、見惚れたか? さすがはリアだ。公爵家を追放されても、私への愛をこの黄金色に込めたのだな。……多少、肩幅が狭く作られている気がするが……」
「殿下、それは『謙虚さ』を演出するためのタイト・フィッティングですわ。……あと、あえて言わせていただくなら、その色のせいで殿下の背後にある高級な壁紙が、安物のボロ布に見えております」
アンの冷静な指摘も、王子の耳には「褒め言葉」として変換された。
「ははは! 私の輝きが周囲を圧倒しているということだな! さあ、行こう。リアが泣きながら謝罪する準備を整えているはずだ!」
二人は、自分たちが「歩くコントの小道具」になっていることに露ほども気づかず、胸を張って大広間へと続く廊下を歩き出した。
一方、舞台裏では、リアがモニター用の魔導鏡を覗き込みながら、カシアンと肩を並べて爆笑していた。
「……カシアン様、見て! 見てくださいまし! あの色の組み合わせ、もはや犯罪的だわ! $1+1$ がマイナス一〇〇になる、究極のアンチ・コーディネートの完成よ!」
「……リア。君は本当に恐ろしい女だ。……あの反射率だと、王子が喋るたびに周囲の人間は目に残像が残って、会話の内容が頭に入らなくなるぞ」
カシアンも、お腹を押さえながら型紙を震わせている。
「いいのですわ。あの方たちの言葉に、聞く価値などありませんもの。……さて、前座(ピエロ)の準備は整いましたわね。……カシアン様、いよいよ『本物』を叩きつけて差し上げましょう」
リアは笑い声をピタリと止め、傍らに置かれた漆黒のベールを手に取った。
その下には、二人が魂を削って作り上げた、光を吸い込み、星を吐き出すような究極のドレスが静かに呼吸していた。
「……ああ。……世界を、塗り替えよう。僕たちのハサミで」
二人は互いの指先を一瞬だけ重ね、そして、光り輝くステージへと足を踏み出した。
「……ねえ、アン。本当にこれで合っていますの? なんだか、鏡を見るたびに自分の顔が『くすんで』見える気がするのですけれど」
シャーリーは、リアから贈られたあの「フリル地獄ドレス」に身を包み、不安げに首を傾げた。
着心地は驚くほど良い。シルクの肌触りは天国のように滑らかで、コルセットの締め付けもちょうどいい。……なのに。
「……お嬢様。それは気のせいですわ。リアお嬢様が、わざわざあなたのために『計算』して作られた一着なのですから」
アンは、笑いを堪えるのに必死だった。
シャーリーが動くたびに、過剰なフリルが重力に従って絶妙な位置で膨らみ、彼女の「短い脚」と「幼児体型」をこれでもかと強調している。
「そうよね! 触り心地は最高ですもの。これだけ良い布を使っているんだから、似合わないはずがないわ!」
シャーリーは自分に言い聞かせるように、鏡の前でくるりと回った。
だが、回るたびにドレスの重みが遠心力で外側へ逃げ、彼女の重心をぐらつかせる。
「きゃっ!? な、なんだかこのドレス、振り回されるような感覚があるわ……」
「それは『動的慣性(ダイナミック・イナーシャ)』を応用した、リアお嬢様独自の設計ですわ。着用者の『心の迷い』が、そのままドレスの揺れに反映される……という名目の、ただの嫌がらせですわね」
「えっ、今なんて言ったの!?」
「いえ、最先端の流行だと申し上げましたわ」
そこへ、隣の試着室から「ショッキング・イエロー」の爆光を放ちながら、ウィルフレッド王子が意気揚々と現れた。
「シャーリー、準備はいいか! 見ろ、このジャケット。袖を通した瞬間、自分が太陽になったかのような全能感に満たされているぞ!」
「……殿下。……その、顔色が……」
シャーリーが絶句した。
ただでさえ寝不足気味だった王子の肌は、反射の強い黄色に包まれたことで、まるで重度の黄疸にかかったかのような、土気色の不健康な色合いに見えていた。
「どうした、見惚れたか? さすがはリアだ。公爵家を追放されても、私への愛をこの黄金色に込めたのだな。……多少、肩幅が狭く作られている気がするが……」
「殿下、それは『謙虚さ』を演出するためのタイト・フィッティングですわ。……あと、あえて言わせていただくなら、その色のせいで殿下の背後にある高級な壁紙が、安物のボロ布に見えております」
アンの冷静な指摘も、王子の耳には「褒め言葉」として変換された。
「ははは! 私の輝きが周囲を圧倒しているということだな! さあ、行こう。リアが泣きながら謝罪する準備を整えているはずだ!」
二人は、自分たちが「歩くコントの小道具」になっていることに露ほども気づかず、胸を張って大広間へと続く廊下を歩き出した。
一方、舞台裏では、リアがモニター用の魔導鏡を覗き込みながら、カシアンと肩を並べて爆笑していた。
「……カシアン様、見て! 見てくださいまし! あの色の組み合わせ、もはや犯罪的だわ! $1+1$ がマイナス一〇〇になる、究極のアンチ・コーディネートの完成よ!」
「……リア。君は本当に恐ろしい女だ。……あの反射率だと、王子が喋るたびに周囲の人間は目に残像が残って、会話の内容が頭に入らなくなるぞ」
カシアンも、お腹を押さえながら型紙を震わせている。
「いいのですわ。あの方たちの言葉に、聞く価値などありませんもの。……さて、前座(ピエロ)の準備は整いましたわね。……カシアン様、いよいよ『本物』を叩きつけて差し上げましょう」
リアは笑い声をピタリと止め、傍らに置かれた漆黒のベールを手に取った。
その下には、二人が魂を削って作り上げた、光を吸い込み、星を吐き出すような究極のドレスが静かに呼吸していた。
「……ああ。……世界を、塗り替えよう。僕たちのハサミで」
二人は互いの指先を一瞬だけ重ね、そして、光り輝くステージへと足を踏み出した。
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