19 / 28
19
しおりを挟む
「アマ! 頼む、待ってくれ! 話を聞いてほしいんだ!」
王宮の廊下を、私の「時給」に見合う速度で歩いていると、背後から情けない叫び声が響きました。
振り返ると、そこにはかつての輝きを失ったリュカ殿下が立っていました。
仕立ての良い服はシワだらけで、あんなに自慢していた金髪も、美容液の予算をカットされたせいか、パサパサの藁のようですわ。
「あら、不採算物件一号。……失礼、リュカ様。……(ピッ)……。はい、呼び止められたことによる私の時間の損失、金貨五枚を請求させていただきますわ」
「金金金……! 貴様はそれしかないのか! ……だが、今の私にはその金貨五枚すら払えないんだ!」
リュカは膝をつき、私のドレスの裾を掴もうとしました。
私は汚いものを見るような目で、スッと身を引きました。
「当然ですわ。……私が王宮の全支出を凍結したのですもの。……殿下、今のあなたの個人口座に残っているのは、たったの銀貨三枚。……庶民の一日分の食費程度ですわよ」
「ひどすぎる! リリィなんて、毎日食べていた特製ケーキが出なくなったショックで、寝込んでしまったんだぞ! 彼女の繊細な心に、もしものことがあったらどうするんだ!」
「どうもしませんわ。……ケーキがなければパンを食べればよろしいし、パンがなければ自身の贅肉(デッドストック)を消費すればよろしい。……健康的なダイエットですわ」
私は計算機を構え、冷淡な笑みを浮かべました。
「それより殿下。……私に泣きつくということは、何か建設的な提案があるのかしら? ……例えば、私の関連工場で最低賃金労働者として働く契約書への署名とか」
「違う! ……アマ、君は私を愛していたはずだ。……あの頃のように、また私の隣で微笑んでくれないか? ……そうすれば、王宮の予算も元に戻るんだろう? ……君の家の資金があれば、私はまた王太子として……」
「…………(チャカチャカチャカ……ッ!)」
私は無言で、これ以上ないほど高速で計算機を叩きました。
「……はい、出ましたわ。……殿下、今のお言葉による『精神的嫌悪感』および『時間的浪費』の総額。……金貨一億枚です。……即座に全額キャッシュでお支払いいただけます?」
「い、一億!? 払えるわけないだろう!」
「なら、口を閉じなさい。……殿下、あなたは根本的に勘違いをなさっている。……私がかつてあなたに注いでいたのは『愛』ではなく、ゴールドマン家による『戦略的投資』ですわ。……そして本日の判定により、あなたは『回収見込みゼロの不良債権』として最終処分(デリート)が確定いたしました」
私は廊下の曲がり角から姿を現したゼノス公爵に、視線を送りました。
「ゼノス。……この方の声、私の聴覚という貴重なリソースを汚染しているの。……排除していただけるかしら?」
「了解した。……ちょうど、我が領の鉱山で『声だけは大きいが無能な見張り役』を求めていてね。……不採用通知を出す手間すら惜しいが」
ゼノスが冷徹な笑みを浮かべ、騎士たちに目配せをしました。
「な、なんだ! 公爵! 私は王子だぞ! アマ、待ってくれ!」
「あぁ、そうそう。……殿下」
私は去り際に、一度だけ振り返りました。
「……次に私に話しかける際は、あらかじめ『門前払い料』として金貨千枚を用意しておくことですわね。……あ、もちろん、借金は認めませんわよ? ……あなたの信用力、現在は『マイナス評価』ですから」
「……あ、アマぁ……っ!」
廊下に響く絶望の声。
私は一度も後ろを向かず、ゼノスのエスコートを受けて歩き続けました。
「……アマ。……彼への仕打ち、少しばかり『過剰投資(やりすぎ)』ではなかったか?」
「いいえ。……感情的なしこりを残すと、将来的なトラブル(隠れ負債)に繋がりますもの。……今のうちに、徹底的に減損処理(プライドを粉砕)しておくのが、リスク管理の基本ですわ」
「……ふふ。……相変わらず、隙がないな」
ゼノスは満足そうに私の手を握り、その暖かさが私の「心の決算書」を優しく癒していくのを感じました。
不採算な過去に、もう一銭の未練もありませんわ。
私の未来は、これから生まれる莫大な利益(幸せ)で溢れているのですから。
王宮の廊下を、私の「時給」に見合う速度で歩いていると、背後から情けない叫び声が響きました。
振り返ると、そこにはかつての輝きを失ったリュカ殿下が立っていました。
仕立ての良い服はシワだらけで、あんなに自慢していた金髪も、美容液の予算をカットされたせいか、パサパサの藁のようですわ。
「あら、不採算物件一号。……失礼、リュカ様。……(ピッ)……。はい、呼び止められたことによる私の時間の損失、金貨五枚を請求させていただきますわ」
「金金金……! 貴様はそれしかないのか! ……だが、今の私にはその金貨五枚すら払えないんだ!」
リュカは膝をつき、私のドレスの裾を掴もうとしました。
私は汚いものを見るような目で、スッと身を引きました。
「当然ですわ。……私が王宮の全支出を凍結したのですもの。……殿下、今のあなたの個人口座に残っているのは、たったの銀貨三枚。……庶民の一日分の食費程度ですわよ」
「ひどすぎる! リリィなんて、毎日食べていた特製ケーキが出なくなったショックで、寝込んでしまったんだぞ! 彼女の繊細な心に、もしものことがあったらどうするんだ!」
「どうもしませんわ。……ケーキがなければパンを食べればよろしいし、パンがなければ自身の贅肉(デッドストック)を消費すればよろしい。……健康的なダイエットですわ」
私は計算機を構え、冷淡な笑みを浮かべました。
「それより殿下。……私に泣きつくということは、何か建設的な提案があるのかしら? ……例えば、私の関連工場で最低賃金労働者として働く契約書への署名とか」
「違う! ……アマ、君は私を愛していたはずだ。……あの頃のように、また私の隣で微笑んでくれないか? ……そうすれば、王宮の予算も元に戻るんだろう? ……君の家の資金があれば、私はまた王太子として……」
「…………(チャカチャカチャカ……ッ!)」
私は無言で、これ以上ないほど高速で計算機を叩きました。
「……はい、出ましたわ。……殿下、今のお言葉による『精神的嫌悪感』および『時間的浪費』の総額。……金貨一億枚です。……即座に全額キャッシュでお支払いいただけます?」
「い、一億!? 払えるわけないだろう!」
「なら、口を閉じなさい。……殿下、あなたは根本的に勘違いをなさっている。……私がかつてあなたに注いでいたのは『愛』ではなく、ゴールドマン家による『戦略的投資』ですわ。……そして本日の判定により、あなたは『回収見込みゼロの不良債権』として最終処分(デリート)が確定いたしました」
私は廊下の曲がり角から姿を現したゼノス公爵に、視線を送りました。
「ゼノス。……この方の声、私の聴覚という貴重なリソースを汚染しているの。……排除していただけるかしら?」
「了解した。……ちょうど、我が領の鉱山で『声だけは大きいが無能な見張り役』を求めていてね。……不採用通知を出す手間すら惜しいが」
ゼノスが冷徹な笑みを浮かべ、騎士たちに目配せをしました。
「な、なんだ! 公爵! 私は王子だぞ! アマ、待ってくれ!」
「あぁ、そうそう。……殿下」
私は去り際に、一度だけ振り返りました。
「……次に私に話しかける際は、あらかじめ『門前払い料』として金貨千枚を用意しておくことですわね。……あ、もちろん、借金は認めませんわよ? ……あなたの信用力、現在は『マイナス評価』ですから」
「……あ、アマぁ……っ!」
廊下に響く絶望の声。
私は一度も後ろを向かず、ゼノスのエスコートを受けて歩き続けました。
「……アマ。……彼への仕打ち、少しばかり『過剰投資(やりすぎ)』ではなかったか?」
「いいえ。……感情的なしこりを残すと、将来的なトラブル(隠れ負債)に繋がりますもの。……今のうちに、徹底的に減損処理(プライドを粉砕)しておくのが、リスク管理の基本ですわ」
「……ふふ。……相変わらず、隙がないな」
ゼノスは満足そうに私の手を握り、その暖かさが私の「心の決算書」を優しく癒していくのを感じました。
不採算な過去に、もう一銭の未練もありませんわ。
私の未来は、これから生まれる莫大な利益(幸せ)で溢れているのですから。
0
あなたにおすすめの小説
彼女が望むなら
mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。
リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
いつか終わりがくるのなら
キムラましゅろう
恋愛
闘病の末に崩御した国王。
まだ幼い新国王を守るために組まれた婚姻で結ばれた、アンリエッタと幼き王エゼキエル。
それは誰もが知っている期間限定の婚姻で……
いずれ大国の姫か有力諸侯の娘と婚姻が組み直されると分かっていながら、エゼキエルとの日々を大切に過ごすアンリエッタ。
終わりが来る事が分かっているからこそ愛しくて優しい日々だった。
アンリエッタは思う、この優しく不器用な夫が幸せになれるように自分に出来る事、残せるものはなんだろうかを。
異世界が難病と指定する悪性誤字脱字病患者の執筆するお話です。
毎度の事ながら、誤字脱字にぶつかるとご自身で「こうかな?」と脳内変換して頂く可能性があります。
ご了承くださいませ。
完全ご都合主義、作者独自の異世界感、ノーリアリティノークオリティのお話です。菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。
小説家になろうさんでも投稿します。
ジェリー・ベケットは愛を信じられない
砂臥 環
恋愛
ベケット子爵家の娘ジェリーは、父が再婚してから離れに追いやられた。
母をとても愛し大切にしていた父の裏切りを知り、ジェリーは愛を信じられなくなっていた。
それを察し、まだ子供ながらに『君を守る』と誓い、『信じてほしい』と様々な努力してくれた婚約者モーガンも、学園に入ると段々とジェリーを避けらるようになっていく。
しかも、義妹マドリンが入学すると彼女と仲良くするようになってしまった。
だが、一番辛い時に支え、努力してくれる彼を信じようと決めたジェリーは、なにも言えず、なにも聞けずにいた。
学園でジェリーは優秀だったが『氷の姫君』というふたつ名を付けられる程、他人と一線を引いており、誰にも悩みは吐露できなかった。
そんな時、仕事上のパートナーを探す男子生徒、ウォーレンと親しくなる。
※世界観はゆるゆる
※ざまぁはちょっぴり
※他サイトにも掲載
チョイス伯爵家のお嬢さま
cyaru
恋愛
チョイス伯爵家のご令嬢には迂闊に人に言えない加護があります。
ポンタ王国はその昔、精霊に愛されし加護の国と呼ばれておりましたがそれももう昔の話。
今では普通の王国ですが、伯爵家に生まれたご令嬢は数百年ぶりに加護持ちでした。
産まれた時は誰にも気が付かなかった【営んだ相手がタグとなって確認できる】トンデモナイ加護でした。
4歳で決まった侯爵令息との婚約は苦痛ばかり。
そんな時、令嬢の言葉が引き金になって令嬢の両親である伯爵夫妻は離婚。
婚約も解消となってしまいます。
元伯爵夫人は娘を連れて実家のある領地に引きこもりました。
5年後、王太子殿下の側近となった元婚約者の侯爵令息は視察に来た伯爵領でご令嬢とと再会します。
さて・・・どうなる?
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる