婚約破棄の慰謝料はツケ払い分、愛よりも忙しい!

桃瀬ももな

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「アマ! 頼む、待ってくれ! 話を聞いてほしいんだ!」


王宮の廊下を、私の「時給」に見合う速度で歩いていると、背後から情けない叫び声が響きました。


振り返ると、そこにはかつての輝きを失ったリュカ殿下が立っていました。
仕立ての良い服はシワだらけで、あんなに自慢していた金髪も、美容液の予算をカットされたせいか、パサパサの藁のようですわ。


「あら、不採算物件一号。……失礼、リュカ様。……(ピッ)……。はい、呼び止められたことによる私の時間の損失、金貨五枚を請求させていただきますわ」


「金金金……! 貴様はそれしかないのか! ……だが、今の私にはその金貨五枚すら払えないんだ!」


リュカは膝をつき、私のドレスの裾を掴もうとしました。
私は汚いものを見るような目で、スッと身を引きました。


「当然ですわ。……私が王宮の全支出を凍結したのですもの。……殿下、今のあなたの個人口座に残っているのは、たったの銀貨三枚。……庶民の一日分の食費程度ですわよ」


「ひどすぎる! リリィなんて、毎日食べていた特製ケーキが出なくなったショックで、寝込んでしまったんだぞ! 彼女の繊細な心に、もしものことがあったらどうするんだ!」


「どうもしませんわ。……ケーキがなければパンを食べればよろしいし、パンがなければ自身の贅肉(デッドストック)を消費すればよろしい。……健康的なダイエットですわ」


私は計算機を構え、冷淡な笑みを浮かべました。


「それより殿下。……私に泣きつくということは、何か建設的な提案があるのかしら? ……例えば、私の関連工場で最低賃金労働者として働く契約書への署名とか」


「違う! ……アマ、君は私を愛していたはずだ。……あの頃のように、また私の隣で微笑んでくれないか? ……そうすれば、王宮の予算も元に戻るんだろう? ……君の家の資金があれば、私はまた王太子として……」


「…………(チャカチャカチャカ……ッ!)」


私は無言で、これ以上ないほど高速で計算機を叩きました。


「……はい、出ましたわ。……殿下、今のお言葉による『精神的嫌悪感』および『時間的浪費』の総額。……金貨一億枚です。……即座に全額キャッシュでお支払いいただけます?」


「い、一億!? 払えるわけないだろう!」


「なら、口を閉じなさい。……殿下、あなたは根本的に勘違いをなさっている。……私がかつてあなたに注いでいたのは『愛』ではなく、ゴールドマン家による『戦略的投資』ですわ。……そして本日の判定により、あなたは『回収見込みゼロの不良債権』として最終処分(デリート)が確定いたしました」


私は廊下の曲がり角から姿を現したゼノス公爵に、視線を送りました。


「ゼノス。……この方の声、私の聴覚という貴重なリソースを汚染しているの。……排除していただけるかしら?」


「了解した。……ちょうど、我が領の鉱山で『声だけは大きいが無能な見張り役』を求めていてね。……不採用通知を出す手間すら惜しいが」


ゼノスが冷徹な笑みを浮かべ、騎士たちに目配せをしました。


「な、なんだ! 公爵! 私は王子だぞ! アマ、待ってくれ!」


「あぁ、そうそう。……殿下」


私は去り際に、一度だけ振り返りました。


「……次に私に話しかける際は、あらかじめ『門前払い料』として金貨千枚を用意しておくことですわね。……あ、もちろん、借金は認めませんわよ? ……あなたの信用力、現在は『マイナス評価』ですから」


「……あ、アマぁ……っ!」


廊下に響く絶望の声。
私は一度も後ろを向かず、ゼノスのエスコートを受けて歩き続けました。


「……アマ。……彼への仕打ち、少しばかり『過剰投資(やりすぎ)』ではなかったか?」


「いいえ。……感情的なしこりを残すと、将来的なトラブル(隠れ負債)に繋がりますもの。……今のうちに、徹底的に減損処理(プライドを粉砕)しておくのが、リスク管理の基本ですわ」


「……ふふ。……相変わらず、隙がないな」


ゼノスは満足そうに私の手を握り、その暖かさが私の「心の決算書」を優しく癒していくのを感じました。


不採算な過去に、もう一銭の未練もありませんわ。
私の未来は、これから生まれる莫大な利益(幸せ)で溢れているのですから。
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