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「……ありえませんわ。この見積もり、正気の沙汰ではなくてよ!」
結婚式を明日に控えた夜。
公爵邸の豪華なスイートルームには、私の怒号が響き渡っていました。
手に持っているのは、王宮お抱えのウェディングプランナーが提出した『最終確定見積書』。
その総計を見た瞬間、私の銀製計算機は怒りでショートしそうになりましたわ。
「……(チャカチャカチャカ……ッ!)……。ちょっと、そこのプランナー様。説明を求めます。……この『幸せの青い鳥の放鳥演出』。……金貨五百枚って、一体どういうことですの?」
「ひ、ひぃっ! あ、アマ様、それは……。希少な魔導鳥を訓練し、新郎新婦の愛の誓いに合わせて飛ばす、最高級の演出でございます!」
プランナーはガタガタと震えながら、必死に弁明しました。
「最高級? ……(ピッ)……。はい、算出しましたわ。……鳥を飛ばす時間はわずか三十秒。……一秒あたり金貨十六枚強ですわよ。……しかも、放たれた鳥はそのまま逃げていくのでしょう? ……資産が空に消えるだけの、文字通りの『散財』ではありませんこと!」
「そ、それは……縁起物でございますから……」
「縁起で腹は膨れませんわ。……即座にキャンセルなさい。……代わりに、私が実家の繊維工場で余った端切れで作った『鳩型紙吹雪』を使いなさい。……これなら原価はほぼゼロ。……清掃業者へのチップを含めても、金貨一枚で収まりますわ」
私は冷徹に書類へバツ印をつけていきました。
続いての標的は、装飾用の花です。
「……この『永遠を誓う薔薇のアーチ』。……一本につき金貨十枚? ……プランナー様、あなたは私が市場の卸値を把握していないとでも? ……今の時期の薔薇は、一本当たり金貨三枚が相場ですわ。……七枚の中抜き(マージン)は、どこの誰の懐に入るのかしら?」
「そ、それは……運搬費や、専門の魔導師による鮮度保持の……」
「鮮度保持なら、私が開発した『真空魔導パック』を使えば済む話ですわ。……中抜きは罪悪(ロス)です。……はい、ここも七割カット。……浮いた金で、参列者に配る引出物の質を上げた方が、将来的な人脈投資のリターンが大きくてよ」
私のペンは止まりません。
ウェディングケーキの段数、キャンドルの本数、果てはバージンロードの絨毯の毛足の長さに至るまで、徹底的な仕分け(リストラ)を敢行していきました。
「……アマ。……まだ終わらないのか? ……寝不足は明日の君の『美貌資産』を損なうぞ」
扉を開けて、ゼノス公爵が入ってきました。
彼は呆れたように、床に散らばった見積書の残骸を見つめました。
「ゼノス様! 聞いてくださいませ。……この式場、私の幸せを担保に、金貨を毟り取ろうとしていますのよ! ……愛の誓いに便乗した価格吊り上げ……。これ、経済倫理に反する重大な背信行為ですわ!」
「……ははは。……いいじゃないか、アマ。……金ならいくらでもある。……君が望むなら、この王都全体を金糸の刺繍で覆い尽くしても構わないんだぞ?」
「いけませんわ! そんな非効率な支出、アステリア公爵夫人の名が廃りますわ!」
私はゼノスの胸元を掴み、真剣な眼差しで訴えました。
「いいですか、旦那様。……結婚式とは、夫婦としての『最初の共同事業』です。……最初から赤字(無駄)を出してどうするのですか! ……一円の無駄もなく、最高のコストパフォーマンスで最高の結果を出す。……それこそが、私たちの愛の証明ではありませんこと!?」
ゼノスは一瞬、目を丸くしました。
そして、降参したように両手を上げました。
「……参ったな。……君のその、一切の妥協を許さない『強欲なまでの誠実さ』。……やはり、私が惚れた女に間違いはない」
ゼノスはプランナーを下がらせると、私の手から計算機を取り上げ、そっと机に置きました。
「……分かった。……見積もりの修正は、君の言う通りに進めさせよう。……だが、今夜だけは数字を忘れて、私と『明日への期待』を分かち合ってくれないか?」
「……期待? ……(パチ、パチ、パチ……)」
私は、心の中で明日のスケジュールを再計算しました。
「……はい。……儀式の所要時間、参列者の顔触れ、そして夜の披露宴のメニュー。……すべてにおいて、私の幸福度は期待値の最大(カンスト)を超えていますわ。……(ピッ)……。はい、計算終了ですわ」
私はゼノスの腕の中に飛び込み、その暖かい胸に顔を埋めました。
「……ゼノス様。……私、幸せですわ。……婚約破棄された時は、自分の価値がゼロになったと思いましたけれど。……あなたのおかげで、私は世界で一番高価な『愛』を手に入れることができましたもの」
「……ああ。……そして、その価値は明日から、もっともっと跳ね上がることになる」
ゼノスは私の髪に優しく口づけしました。
「……さあ、寝よう。……明日は、世界で一番美しく、そして世界で一番計算高い花嫁を、私が世界一の富豪にしてやる番だ」
「……ふふ。……期待していますわ。……でも、公爵様。……ご祝儀の集計は、私が自分でやりますからね? ……一円の計算ミスも、許しませんわよ!」
「……ははは! 了解したよ、わが愛しの経理部長殿」
私たちは、明日の結婚式という名の『大商談(ビッグイベント)』を前に、これ以上ないほど満ち足りた(そして黒字確定の)眠りについたのでした。
悪役令嬢アマ。
彼女の戦いは、いよいよ明日、最高の利益(大団円)を迎えようとしていました。
結婚式を明日に控えた夜。
公爵邸の豪華なスイートルームには、私の怒号が響き渡っていました。
手に持っているのは、王宮お抱えのウェディングプランナーが提出した『最終確定見積書』。
その総計を見た瞬間、私の銀製計算機は怒りでショートしそうになりましたわ。
「……(チャカチャカチャカ……ッ!)……。ちょっと、そこのプランナー様。説明を求めます。……この『幸せの青い鳥の放鳥演出』。……金貨五百枚って、一体どういうことですの?」
「ひ、ひぃっ! あ、アマ様、それは……。希少な魔導鳥を訓練し、新郎新婦の愛の誓いに合わせて飛ばす、最高級の演出でございます!」
プランナーはガタガタと震えながら、必死に弁明しました。
「最高級? ……(ピッ)……。はい、算出しましたわ。……鳥を飛ばす時間はわずか三十秒。……一秒あたり金貨十六枚強ですわよ。……しかも、放たれた鳥はそのまま逃げていくのでしょう? ……資産が空に消えるだけの、文字通りの『散財』ではありませんこと!」
「そ、それは……縁起物でございますから……」
「縁起で腹は膨れませんわ。……即座にキャンセルなさい。……代わりに、私が実家の繊維工場で余った端切れで作った『鳩型紙吹雪』を使いなさい。……これなら原価はほぼゼロ。……清掃業者へのチップを含めても、金貨一枚で収まりますわ」
私は冷徹に書類へバツ印をつけていきました。
続いての標的は、装飾用の花です。
「……この『永遠を誓う薔薇のアーチ』。……一本につき金貨十枚? ……プランナー様、あなたは私が市場の卸値を把握していないとでも? ……今の時期の薔薇は、一本当たり金貨三枚が相場ですわ。……七枚の中抜き(マージン)は、どこの誰の懐に入るのかしら?」
「そ、それは……運搬費や、専門の魔導師による鮮度保持の……」
「鮮度保持なら、私が開発した『真空魔導パック』を使えば済む話ですわ。……中抜きは罪悪(ロス)です。……はい、ここも七割カット。……浮いた金で、参列者に配る引出物の質を上げた方が、将来的な人脈投資のリターンが大きくてよ」
私のペンは止まりません。
ウェディングケーキの段数、キャンドルの本数、果てはバージンロードの絨毯の毛足の長さに至るまで、徹底的な仕分け(リストラ)を敢行していきました。
「……アマ。……まだ終わらないのか? ……寝不足は明日の君の『美貌資産』を損なうぞ」
扉を開けて、ゼノス公爵が入ってきました。
彼は呆れたように、床に散らばった見積書の残骸を見つめました。
「ゼノス様! 聞いてくださいませ。……この式場、私の幸せを担保に、金貨を毟り取ろうとしていますのよ! ……愛の誓いに便乗した価格吊り上げ……。これ、経済倫理に反する重大な背信行為ですわ!」
「……ははは。……いいじゃないか、アマ。……金ならいくらでもある。……君が望むなら、この王都全体を金糸の刺繍で覆い尽くしても構わないんだぞ?」
「いけませんわ! そんな非効率な支出、アステリア公爵夫人の名が廃りますわ!」
私はゼノスの胸元を掴み、真剣な眼差しで訴えました。
「いいですか、旦那様。……結婚式とは、夫婦としての『最初の共同事業』です。……最初から赤字(無駄)を出してどうするのですか! ……一円の無駄もなく、最高のコストパフォーマンスで最高の結果を出す。……それこそが、私たちの愛の証明ではありませんこと!?」
ゼノスは一瞬、目を丸くしました。
そして、降参したように両手を上げました。
「……参ったな。……君のその、一切の妥協を許さない『強欲なまでの誠実さ』。……やはり、私が惚れた女に間違いはない」
ゼノスはプランナーを下がらせると、私の手から計算機を取り上げ、そっと机に置きました。
「……分かった。……見積もりの修正は、君の言う通りに進めさせよう。……だが、今夜だけは数字を忘れて、私と『明日への期待』を分かち合ってくれないか?」
「……期待? ……(パチ、パチ、パチ……)」
私は、心の中で明日のスケジュールを再計算しました。
「……はい。……儀式の所要時間、参列者の顔触れ、そして夜の披露宴のメニュー。……すべてにおいて、私の幸福度は期待値の最大(カンスト)を超えていますわ。……(ピッ)……。はい、計算終了ですわ」
私はゼノスの腕の中に飛び込み、その暖かい胸に顔を埋めました。
「……ゼノス様。……私、幸せですわ。……婚約破棄された時は、自分の価値がゼロになったと思いましたけれど。……あなたのおかげで、私は世界で一番高価な『愛』を手に入れることができましたもの」
「……ああ。……そして、その価値は明日から、もっともっと跳ね上がることになる」
ゼノスは私の髪に優しく口づけしました。
「……さあ、寝よう。……明日は、世界で一番美しく、そして世界で一番計算高い花嫁を、私が世界一の富豪にしてやる番だ」
「……ふふ。……期待していますわ。……でも、公爵様。……ご祝儀の集計は、私が自分でやりますからね? ……一円の計算ミスも、許しませんわよ!」
「……ははは! 了解したよ、わが愛しの経理部長殿」
私たちは、明日の結婚式という名の『大商談(ビッグイベント)』を前に、これ以上ないほど満ち足りた(そして黒字確定の)眠りについたのでした。
悪役令嬢アマ。
彼女の戦いは、いよいよ明日、最高の利益(大団円)を迎えようとしていました。
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