探偵尾賀叉反『翼とヒナゲシと赤き心臓』

安田 景壹

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『翼とヒナゲシと赤き心臓』10・11

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10


コンテナの中は自由が利かなかった。傷が治癒しているのはわかるが、それでも意識を保つのは辛かった。気を抜けば何もかもが飛びそうになる。呼吸はだいぶ落ち着いてきたのか、息はそれほど苦しくない。それとも、半分意識が消えかかっているだけか。
「お兄さん、平気?」
 隣で添うように体を縮めている少年が、俺に言った。名前は、仁というらしい。
「平気、じゃねえ……」
 ここでいい格好が出来るほど、俺は人間が出来ちゃいない。
「痛くて死にそうだ。腹に穴が空いてんのがわかる。クソみてえな気分だ。いっそ死にてえよ」
「あー……その元気があれば大丈夫だね。すぐ良くなりそう」


 このクソガキ。大丈夫じゃねえって言っているだろう……。そう言いたくなったが、体調は確かに良くなりつつあった。
 まあしかし、今日ほどろくでもない日もあるまい。攫われるわ、変な手術はされるわ、挙句撃たれるわ。冗談じゃねえってんだ。
 だが、さっき体験した自分の体が全く別の物に変化していく感覚。麻酔なしで体をいじくられるような苦しみ、溶けるかと思うほどの高熱。そんな状況でも、心のどこかに感じる期待。
 そう、翼が生えてきた時、確かに俺は思ったのだ。これで、何かが変わるんじゃないかと。どん詰まり気味の俺の人生に、何か劇的な変化が起こるんじゃないかと。
 これでようやく飛べるのか、と。


「お兄さん」
 思考の最中、唐突に仁が話しかけてきた。
「何だよ」
 ぶっきらぼうに俺は答える。子供は苦手だった。特に小さい子供は。何を話したらいいかわからない。
「お兄さんって、ずっと旧市街に住んでたの?」
「……何だよ、急に。何が聞きたいんだ、お前」
「コンテナが着くまでの暇つぶしだよ。黙っているだけだと息が詰まるからね」
 俺としては黙ったままでも全く問題ないが、痛みが続いている。気を紛らわすにはいいかもしれない。
「……ずっとじゃない。ナユタに来たのはここ二年くらいだよ。前は東京だ」
 高校を卒業して、しばらく勤めていた頃の話だ。
 昔の話は、好きじゃない。ろくな事をしていない。


「お前はどうなんだ。新市街が出来る前からナユタ周りに住んでたのか」
「うん、旧市街にね。橘樹たちばなの辺りに高い丘があるんだけど、小さい頃は、そこから開発前の新市街が見えたりしてさ。旧市街だけなら叉反より詳しい自信があるよ」
 サソリ――あの探偵だ。
「なあ、お前とあの探偵、一体どういう関係なんだ。親戚か何かなのか?」
「僕が? 叉反と親戚? いやいやいや。ただの知り合いだよ、知り合い」
 知り合いというには、随分懐いているようにも見える。


「ちょっと前に……新市街が出来た当時だから二年前、僕が通ってた学校が新市街に移る事になってさ。その時、事件があって移転どころか廃校もあり得るって話になったんだ。そこに、当時にナユタに来たばかりの探偵が首を突っ込んできたの」
「大きな事件だったのか?」
「うーん……。まあ、ね。ちょっとはニュースになったんだけど」
少年の言葉に、俺は記憶を探る。二年前なら、俺もちょうど越してきた頃だ。だが、事件に聞き覚えはない。当時が慌ただしかったせいもあるだろう。というか、今言われるまで、俺は新市街に学校がある事さえ忘れていた。
「結局どうなったんだ? その事件」
「解決したよ。探偵が街中を調べ上げてね。悪いけど、あんまり人には話せないんだ。まあ、とにかくその頃からの付き合いだよ、探偵とは」
「あの人は……何をやってたんだ? ずっと探偵を?」
「いや、ナユタに来る前の事はよく知らないんだよね。当人曰く『荒んでた』ってさ」
「……不良かよ」
 何だか拍子抜けした俺は、固まりそうになった体を動かしてほぐす。


 仁少年は笑った。
「いやまあ、そういうのじゃないんだろうけど。でも叉反言ってたよ。やり直すために来たんだって」
「やり直す……」
 何を、だろう。あの探偵も、たとえば過去に何かを間違えたのだろうか。
後悔するような事をしたのだろうか。俺と、同じように……。
 そういえば、何のために俺は――


「ところでさ、お兄さん」
 さっきとは違うトーンで、仁が言った。
「いくら何でも到着が遅いと思わない?」
 仁の言葉に、俺はコンテナの動きに注意を払った。言うなれば、箱に入ったままエスカレーターに乗っているようなものなのだが、そういえば、さっきからずっと昇っているようではあるが、止まる気配はない。まあ、荷物を運ぶためのものらしいから、止まる気配も何もないだろうが、それにしてもコンテナはずっと上昇を続けている。
「なあ、あのレベッカって女、どこまで運ぶように設定したって言ってたっけ?」
「一階の運搬口だよ。僕達がいたのが地下一階。いくら何でも、ちょっと遅いよね」


 嫌な感じがする。コンテナは俺達を乗せたまま、どんどん上へと上がっていく。
 ガタン、と何かに乗り上げるように、コンテナが一度揺れ、すぐさま安定する。
 そこから先は上がり方が変わった。今度はエレベーターにでも乗った気分だ。今までの緩やかな上昇より早く、上へ向かっている。
 やがて、小さな震動とともに、コンテナは動きを止めた。
 俺と仁は、少しだけ様子を伺ったが、やがてどちらからでもなく蓋に手をやり、押し上げた。
 光が見えた。雲と、青い空。陽光が空を照らしているのだと気付いた時、仁がコンテナの中から出た。


「おい、誰かいるかもしれねえぞ」
「大丈夫。見た感じ誰もいない」
 言いながら、仁はコンテナを出て、外へと歩き出す。仕方なく、俺も後に続いた。コンテナの中に縮こまっていたせいで、体を動かすのに苦労する。
 外へ出ると、心地よい温度の風が吹いてきた。辺りの景色は緑の山々だ。たどり着いたのは屋上だった。仁の言う通り、他に誰かがいる様子はない。その仁は、一人でコンテナが上がってきた運搬口の周りを見て、裏に回って行った。どうやらここを調べ始めたようだ。まあ、頭は回りそうだから、放っておいても問題ないだろう。
「何だって屋上なんかに」


 レベッカ。彼女が行き先の設定を間違えたのだろうか。切羽詰っていたしあり得るかもしれない。見回した限り、出入り口らしいのは、向かいにある扉のついた小屋だけだ。下に行くには、恐らくあそこから行くしかないのだろう。後ろのコンテナでもう一度下りるというのは、さすがに御免だ。
 痛みはすっかり取れていた。レベッカが打ってくれた注射のおかげか、体の調子はすこぶるいい。二、三度、深呼吸を繰り返す。新鮮な空気が肺を満たして、こんな状況ではあるが、少し気分が晴れやかになる。つい、もう少しだけ羽を伸ばしたくなって、俺はフェンスの前まで行く。景色は山と、白に近い色で輝く空で、下に目をやると、巨大な円形の穴があり、その中は真っ暗でどうなっているのかはわからなかった。


 どうやら、明け方らしかった。つい、ぼうっと空を見つめてしまう。見た事がある。こういう空は以前にも。
 ナユタに出発した日だ。あの自動車工場を飛び出した日。
 逃げたってどうにもなんねえぞ、と工場長が言った。夢みたいな事言ってないで、現実を見ろと。
 俺は耳を貸さなかった。そんな事はないと自分に言い聞かせた。俺は失敗しないと。
 そう思い込もうとした。
「――感傷に耽っているようだけど、そんな余裕があるの?」
 唐突に、声が俺の耳に飛び込んできた。子供の声だ。仁の声じゃない。ガキ、そう言いたくなるような、苛々する声だ。


 いつの間にか、俺の後ろに子供が立っていた。仁よりも年上の、中学生くらいのガキだ。銀髪に褐色の肌。ぬいぐるみみたいな、妙にでかい爪のついた手袋を両手にしている。そして、後ろのほうからは白毛に黒縞の尻尾が生えていた。あれは、虎か……? 
いわゆる顔立ちの良いガキだが、表情が気に食わなかった。可笑しそうにこっちの顔を見ていやがる。
「何だ、お前」
「実験動物風情に名乗る気はないよ。ストーン一つ満足に扱えないくせに」
「……ストーン?」
「気にしなくていい。用を果たせない動物には必要のない知識だ」
「……おい。さっきから動物動物と、舐めた事言ってんじゃねえぞ」
「粋がるなよ。飛べないくせに」


 同時に、ガキのぬいぐるみみたいな手が、素早く動いた。まるで虎の爪が、何か引っ掻くかのようだった。
 痛みを感じたのは、一拍遅れてからだった。肘、胸、腕。服とともに肉が一気に切り裂かれ、すかさず血が噴出した。声は出なかった。喉が潰れたみたいに、掠れた呼吸しか出来なかった。
「ばいばい、失敗野郎」
 ガキの細い足が、俺の体を蹴り飛ばす。フェンスは間近にあったが、受け止めてはくれなった。力がなくなったみたいに、何の抵抗もなく体は宙へと投げ出される。フェンスもまた切り裂かれていた。浮遊感も何もなかった。下から、見えない大きな手が伸びて来て、俺の体を掴んだかのようだった。俺は声を漏らした。喉が健在なら叫んでいただろう。だが実際に出たのは幽霊のような呻き声だけだった。
帯のように俺の血が空へ空へと伸びていく。掠れ声と血の帯が明け方の空へ昇るのを見ながら、俺の体は地面へ向けて落下を始めた。


11



 思考が止まった。血管の中を血があっという間に引いていくのがわかった。トビを切り裂いて突き落とした少年は、特に表情を変える事もない。ペントハウスの影に、仁は咄嗟に身を隠した。
「一匹は処理。まあ、この高さなら死んだかな。生きていたとしても、落ちたのがあそこなら同じ事だ」
 少年が一人ごちる。落ち着け。自分にそう言い聞かせるが、それが限界だ。考えるという事が出来ず、息を潜めるので精一杯だった。
「さて、出てきなよ。隠れたって無駄だ」


 白虎の尾を持つ少年の声が聞こえた。発声の仕方からして、こちらの位置に見当がついているようだ。なら、どうする。抵抗は無意味だ。
 オーバーオールのポケットに、さっき預かった電撃銃を仕舞う。深呼吸をして、仁は物陰から姿を見せた。
「いい子だ。こっちへおいで。あいつみたいにはしないから」
 あいつ、というのがトビの事を指しているのだという事に、仁は一拍置いて気付いた。勇気を出して、一歩ずつ少年の元へと歩いていく。足取りが重い。少年までの距離が遠く、一歩を踏み出すのに、いやに時間がかかる気がする。


 少年からおよそ金網フェンス一枚分離れた辺りで、仁は足を止めた。
「全く、実験中に変な騒ぎを起こしてくれたよね。おかげで僕まで出張る事になったじゃないか。ライムントの奴も人質くらい自分で管理すればいいのに……」
 仁の顔を見た少年がぼやく。どこかで聞いたような声だ。そんなに前じゃない。そう、ついさっきだ。あのライムントと名乗る男の部屋で、スピーカーから聞こえてきた声。
「……叉反を戦わせた人だね?」
 半ば反射的に、仁は言った。言葉を口にしなければ、体は竦んだままになりそうだ。


「サソリ……。ああ、あの探偵ね。そうだよ。被験体の管理も僕の仕事だからね。僕は白王。白い王で白王だ。あの探偵はさっきのより見込みはあるけど、どうなったかなあ……」
「叉反はどこ!?」
「……何? なんで熱くなってんの? ああ、そうか。知り合いだったんだっけ」
 さも納得したように軽く目を見開いて、白虎の少年は言った。
「さあね。実験場の壁を壊したっていうのは聞いたけど、あとは知らない。ま、大丈夫だとは思うよ。あの探偵には特別な物をくれてやったから」
「特別な物?」
「運命を握る物だ。使いこなせるかどうかは、あの探偵次第だけどね」
 そう言って、手袋をした右手を、白王は差し出した。


「で、君の運命は僕が握っている。いくら子供でもわかるでしょ、僕に従わなければどうなるかぐらいはさ」
 自分が子供である事を、仁は十分に承知していた。下手な抵抗は、危険だ。
「僕をどうするつもり?」
「安心していいよ。君を捕まえる気はないから。むしろ逆だ、ここから出て行ってもらう」
 予想外の言葉を理解出来ず、仁は身構えたまま、少し固まった。
「……どういう意味?」
「レベッカが保管庫から君と鳶を逃がしたのを確認したから、僕がコンテナの行き先を変更した。ちょっと事情が変わってね。早くしないと誰一人生きて帰れなくなるから」
「……?」
 言葉に詰まった仁に構わず、白虎の少年は続けた。


「この施設は放棄する事が決まった。今から三十分後、焼却炉を最高温度まで引き上げて焼き払う。何一つ痕跡が残らないようにね」
 あと三十分――。燃え盛る炎が建物を覆い尽くす様が目に浮かぶ。あと三十分だって?
「何で……そんな事を」
「上の方針だよ。実験のために部外者を引き込んだのはいいけど、君らの恭順は見込めそうにない。だったら、今後妙な事が出来ないように施設ごと葬ろうってわけ。ま、ここも随分長く使っちゃったからねえ。どの道そろそろ処分しなきゃいけなかったんだ」
 ……どう考えても、こっちの手には負えない話になってきた。
「でも、どういうわけかライムントの奴が、君だけは生かして帰すように言ってきた。わけわかんないおっさんだけど、一応、うちの組織じゃトップに近い立場だから、言う事を聞かざるを得ないんだよね」
 仁は、白衣の男の顔を思い出した。


「……ライムントって、蛇が生えたおじさんだよね。何で僕だけを?」
「さあ。神の子がどうのって言ってたけど、よく知らない。興味ないしね」
 また『神の子』だ。ここに来てからは、混乱させられる事ばかりじゃないか。
「さて、もう話はわかっただろう。黙ってついてきてくれると助かるな。抵抗されると加減できないからさ」
「……他の皆は、どうなるの?」
「今見たでしょ? ああなるんだよ。レベッカも、探偵もね」
 迸る殺気を纏い、少年が口の端を歪めた。トビの体を裂いた爪と爪の間で緑の電流が弾ける。
「殺す気なんだね……」
 窮地が、仁の口数を少なくさせていた。
「別にいいだろ、君は助かるんだから。僕にしてみれば邪魔になりそうなのは皆殺しにすべきだと思うんだけどね」
「馬鹿言うな」


 ぎりぎり、それだけを吐き出す。白王はそれを聞いても笑うだけだ。とにかく、逃げないと。あと三十分で叉反達を見つけないと。
「ああ、そうだ」
 放電がふと収まる。少年が、人差し指を立てた。
「生かしておくにしても、喉くらいは潰しておいたほうがいいよね。何か喋られても困るし」
 ――やばい!!
 咄嗟にその場から跳んだのは、幼い頃から旧市街遊びで培ってきた身体反応の賜物だった。殺意に満ちた少年の爪が空気を掠める。忌々しげな舌打ちが聞こえた。
 反射的に、仁はポケットの中の小火竜を抜いていた。戦わなければという、声にならない声が聞こえた気がした。
「躱すなよ……。めんどくさいから!」
 苛立ちとともに、少年の指先がこちらを向いた。その瞬間、緑の電流が爪の先で弾けた。
 銃口を向けたのは内なる抵抗の声に耳を貸したからだ。少年の雷が放たれるのと、小火竜の引き金を引いたのは、全くの同時だった。


 身構えた。緑の雷が自分に襲いかかる様を想像した。だが、放たれた二つの雷は激しい音を立ててぶつかりながら、まるでガラスの壁で隔てられたかのように、蜘蛛の巣状に広がって霧散した。
「……ああ?」
 少年が喉の奥で呻った。
「マイナス電荷同士がぶつかったせいか。反発がうまく作用したってわけだ」
 口調には苛立ちを含みながらも、少年は仁を見て酷薄な笑みを浮かべた。
「偶然とはいえ面白い事するじゃん。じゃあ、もう少しだけ遊ぼうかな」
 少年が顔を覆うように右手を上げる。次の瞬間、緑の電流が全身から放たれ、思わず仁は目を閉じた。
 慌てて目を開ける。自分を殺そうとしている相手の前で目を閉じるなんて――……
「え?」
 仁は自分の目を疑った。目の前にいたのは、白虎だった。小柄な、子供とも大人ともつかない白い虎。だが、その目つきは、明らかにさっきまでいた少年のものだった。
「……回帰、症?」
「違う、全獣態ぜんじゅうたいだ。僕はすでに回帰を外れている」
 白虎が少年の声で言った。はっきりと。


「うそ……。何で、こんな事が……」
「モンストロだ。ただし、鳶男が持つせこいストーンとは違う、宝球(オーブ)の力だよ」
 完全に体は獣と化したはずなのに、少年は何故か少年としての意識を失ってはいないようだ。口元をまるで人のように歪め、虎の顔で器用に嗤う。
「さて、あと三十分しかないんだ。遊ぶなら早くしないとね」
 ばちり、と音が鳴った。否応なく身が固まった瞬間、右手に突き刺すような痛みが走った。
 手首で何かが光っていた。輪だ。緑の電気で出来た輪。それが音を立てながら手首の周りを回っている。
「鬼ごっこだ。五分やるよ。五分の間に僕に触れる事が出来れば君の勝ち、かすり傷ひとつなく外まで安全に運ぶ事を約束しよう。ただし、もし五分で僕を捕まえられなければ……」
 前足の指を滑らかに動かして、虎は言った。


「その腕の輪っかが君の手首を吹き飛ばす。でもその時は、特別に君にもモンストロをくれてやるよ。うまくいけば、吹っ飛んだ手が生えて来るかもしれない。まあ、虫の足かもしれないけどね」
 迸る嫌悪の感情に、仁は恐怖さえ覚えた。白虎の瞳は負の感情に光って、気を抜けば喉笛を食い千切られそうな錯覚に陥る。
「……素直に運んでくれればいいだろ。遊んでなんかいないで」
「嫌だね。僕は、生意気なガキが苦しむのを見るのが好きなんだ。生き延びたければ力を示せよ。それが出来ないなら潔く死ねばいいんだ」
 見開かれた虎の目が、仁の体を射竦める。
「さあ、始めるよ。血を流して悶えてみろ!」
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