扉を開けたらそこは異世界

さやかとゆうきの母

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弟のボヤキを聞く羽目になった

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 親父に別れて自宅に戻った僕はあきらの抗議の電話を受けた。
 どうやら、あきらは僕のマンションを女友達に提供していたようだ。
 勿論、あの後、鍵を変えたので彼女は家に入れない。
 管理人のところに抗議に行ったらしいが、僕の許可なしに部屋に入っていたことがバレて危うく、警察沙汰になりかけたようだ。

 実際、自業自得だ。

「あのマンション、もう使っていないんだろ。だったら、俺が使ってもいいじゃないか」
「何を言っている。あのマンションは僕がおばあちゃんの遺産としてもらったものだ。お前には何の権利もない」

 きっぱり言い切ってやると電話の向こうで舌打ちが聞こえた。
「なんで、兄貴だけが遺産を貰えるんだよ。父さんや俺にだって権利があるはずだ」
「あるわけないだろ。親父は婿養子だ。おばあちゃんの子は僕の母さん一人だからね」  

 だから、財産の権利は全て僕にある。
「そんなことを言うなよ。血のつながった兄弟だろ」

 兄弟ねぇ。
 確かに高校まで同じだったが、兄弟付き合いをしたことがない。
 僕はマンションで一人暮らしをしていた間、榊家でぬくぬくと生活していたんだろ。
  
 祖母は僕に優しかったが、それでも自分のできることは自分でやれという人だった。

 なので、必要な分の生活費を渡されて自分でやりくりをしていた。
 しかし、祖母は生活費の中にお小遣いを含んでいなかった。そこで、お小遣いは自分で調達しなくてはならなかった。
 というわけで、高校生の時に作家デビューをしたわけだ。
  
 祖母が文学少女だったせいで僕にも文才があったみたいだ。

「とにかく、僕のマンションを使うんじゃない。あのマンションは仕事で使っているんだ」
「……」

 僕が作家活動をしていることはあきらもよく知っているはずだ。
「それにお前も一人暮らししているんだろ。どうせ、あの人の目をごまかすくらい簡単にできるはずだぞ」

「それはそうなんだけど」
 なんだか、あきらの歯切れが悪い。
「ひょっとして、よく来るのか」
「そうだよ。一日おきに様子を見にくるんだ。こっちが留守でも勝手に入ってくるし」

「そうか。まっ、頑張れ。向こうも早く子離れをしたほうがいいな」
「そんな人ごとのように」
  
 いや、別に他人事だし。

「そんなことがあったの」
 ブラジャーが僕のマンションでみつかった時点でアイリアはこちらの世界にはこなくなった。 
 誤解をそのままにしておくのも嫌なので、僕は彼女に会いに行った。
 別に彼女がこないなら扉をくぐって僕かアルテールに行けばいいだけの話だ。
 
 ただし、彼女はまだ学生だ。比較的、時間に余裕がある社会人とは違う。
 実際、作家は自営業みたいなものだ。昼間は意外と暇なのだ。

 といっても、締め切り前はパソコンの前から動けなくなる。

 そこで古田さんの力を借りた。
 アルテールの精霊である彼女のおかげで彼女と行き違いにはならなかった。

 とりあえず、弟から抗議の電話が入ったことを伝えたら彼女はすぐ、状況を把握したようだ。
「イチローも苦労しているんだ。弟といっても異母兄弟なんでしょう」
 別に母親が違うから仲が悪いわけじゃないんだけどね。

「親父の奥さんにしてみれば、前妻の子なんて面倒なだけなんだってさ」
 
 何しろ、子供扱いされた覚えもない。祖母が亡くなって遺産があったから向こうが接近してきただけだ。

 ただし、祖母と血のつながりがあるのは僕だけ。向こうには遺産の権利はない。

 そういえば、病院も祖父が院長だった。だから、祖父が亡き後はどうしていたんだろう。

「イチロー、どうしたの。なんだか、難しい顔をして」
「確か、爺さんが亡くなってしばらくは、親父は院長じゃなかったなと思って」
 
 よく考えてみたら親父だけが榊病院の医師じゃなかったはずだ。
 確かに親父は爺さんの弟子みたいな存在だったが。
 
 祖母もそういった話は一切、しなかった。僕が聞かなかっただけかもしれないが。だけど、僕にだって榊病院を継ぐ権利があったはずなのに。
 医学部に進むようには言われなかった。
 僕は高校でもそれなりの成績があったからその気になれば医学部に行けたはずだ。

 だが、医学部を選ばす文学部を選んだ時、祖母はほっとしたように笑ってみせた。
 
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