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誰も知らないできごと
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「お前は、」
玉座の前で彼らは対峙した。
「誰だ!」
精霊を引き連れた人間。魔力をほとんど持っていない人族のはずなのに、莫大な魔力に包まれている。
しかも、魔界にいるのに平然と立っている。
魔界には魔素が充満している。魔素は魔力の源、人間界にも存在しているが。魔界ほどではない。
人間は魔素が濃すぎると長く生きていられない。魔族と違って魔素を魔力にする装置が軟弱だからだ。
王座の間は魔界で一番、魔素が濃いので下位の魔族でも窒息する者もいた。
ファストは歴代の魔王に比べ、魔力は弱いが下位の魔族に比べれば莫大な魔力を持っている。
「ここの空気は甘いな。凄く心地よく感じるよ」
にこにこと微笑む彼になんだか親近感を覚えるファストだった。
「お前は、」
「君が魔王か」
「そうだ」
「君自体には恨みも憎しみもない。だが、魔族と人間との争いには終止符を打たなくてはならない」
「争い、どこに争いがあるのだ?人間と魔族は住む領域を分けられている。二つの種族が争う意味はない」
「確かに。だが、人間と魔族の間には大きな溝が存在する」
「それは仕方がない。人間は我ら、魔族にとって下位の存在だ」
人間は百年たらずで死んでいく。それに対して魔族は何百年から数千年生きる。
ファストの父も八百年生きていた。
ちなみにファスト自身は三百歳である。
魔素を必要以上、取り込むことができない。魔素を魔力に変換することができない人間。
(魔力?)
「お前は人間か」
あふれる魔力の輝き。
「これでもアイドリアの王子なんだが」
「アイドリア?」
ファストにはその国の名に聞いたことがあった。
魔王の血を引く娘が人間の王に嫁いだ。彼女は夫とした王が亡くなるとその国から姿を消した。
「お前、魔王の血を引いているのか」
魔王の娘は人間と子をなしていたのか。
魔族は人間を下等種として見下していいる。魔王の娘も人間に嫁いだということで存在自体、ないものとなっていた。
だが、魔族とて噂好きな者がいる。魔王の娘の話も魔族の間で伝えられていた。
記録は残っていないが誰もが知っているというやつだ。
「そうだね」
王子と名乗った青年はにこにこしながら、「そういう話は聞いているよ。きっと、僕は先祖返りなんだろうね」
「何が望みだ」
「あれっ、いきなり攻撃はしないの」
「ここまでさんざん、戦ってきたのだろう。そろそろ休んだらどうだ」
「そんなことを言って油断させてから攻撃するんだろう」
「んっ、」
ファストは眉を潜めた。
前にいる青年の声ではない。
「少し、黙っていてくれ、エクス」
「誰かいるのか」
「いるというか」
するり。
青年の持つ剣が空中に飛び出した。
「"力の精霊"か」
"力の精霊"は実体化する時に剣になる場合が多い。【力】=剣と考えているかららしい。らしいというのも魔族には精霊を味方にしないからだ。
精霊には【風】【水】【炎】【力】【光】【土】とそれぞれの属性がある。それらの精霊の加護を受ければ力を自由に使える。
魔族は魔力で自然の力を作り出すことができる。だから、精霊の力を必要としないのだ。
だが、それが単なる言い訳でしかないことをファストは知っていた。
精霊にとって魔族は悪の存在でしかない。
あいつは悪い奴だから加護を与えて見守ってやるもんか。
精霊側にしたらそんな気持ちなんだろう。
だが、魔族の王であるファストは何故、精霊がそう決めつけているのか分からなかった。
大体、魔族は人間を見下していたが直接、害を加えていないはずだ。
ただ、精霊にしてみれば自分たちの協力もなしに自然の力を使う魔族は面白くない存在だろう。精霊の力を利用して感謝する人族は彼らにとって都合のいい存在のはずだ。
(精霊の加護がついているから魔力の消費が少ないのか)
「別に精霊がついているから魔力を温存しているわけじゃないよ。元々、僕の魔力は魔族並みなんだ。多分、わがアイドリア王家に嫁いだ魔王の娘のおかげなんだろうね」
青年はため息をついた。「おかげで僕も先祖返りとか揶揄されることが多くあったが。おっと、まだ自己紹介がまだだったね。僕はシンク・デル・ファン・アイドリア、君は?」
「我はファストだ」
「ファスト、姓はないのか」
シンクは驚いたような顔をした。
「我は魔王だ。それ以外でもそれ以外でもない」
「そうか。魔王が魔界を支えているというのは本当だったんだな」
「なんだと、」
◇ ◇ ◇
「エクス、勘違いをしているようだけど、魔王は可哀そうな存在なのよ」
シンクに魔王討伐をそそのかす【力】の精霊にとがめるようにフルフラは口を開いた。
「何故なんだ」
「魔王が魔界にいるおかげで魔素が魔界に集中するのよ。おかげで魔族は苦労しなくて体に魔素を貯めこめるの」
「そうか、こいつをやっつければ、魔族の連中は魔法が使えなくなるんだな」
「そんなわけじゃないの。魔素が少ない人間の国でも魔力を使える人間がいる意味がないでしょう」
「そうだけど」
「さっきから何を言っている」
フルフラは突然、空中に現れた。透明な翅を背にして光の鱗粉を巻き散らかしている。
精霊というより妖精といった姿をしている。
「フルフラ、どこに行っていたんだ」
「ちょっと、城の中を散策ね。可哀そうに魔王以外の魔族は誰もいなくなっていたわ」
「どうしてだ」
「魔族だからといって死にたくはないだろうね」
カツン。
ファストは玉座から立ち上がった。
さっと緊張が走る。
シンクは思わず、剣の柄に手をかけた。
「我は何もしない。魔力の大きさではそなたの方が上だ」
ファストはシンクの目の前までやってきた。
「君は何をしてくれるのかな」
「貴方の開放を、」
「開放か」
「あなたが苦しんでいたのはわかる。僕も人間の国では異端だから」
シンクはじっとファストをみつめ、「ずっと一人だったのではないか」
「そうだな。唯一、我に付き添ってくれた乳兄弟も我を見捨てた」
「見捨てはしないさ」
シンクはさっと手を挙げた。
玉座の前で彼らは対峙した。
「誰だ!」
精霊を引き連れた人間。魔力をほとんど持っていない人族のはずなのに、莫大な魔力に包まれている。
しかも、魔界にいるのに平然と立っている。
魔界には魔素が充満している。魔素は魔力の源、人間界にも存在しているが。魔界ほどではない。
人間は魔素が濃すぎると長く生きていられない。魔族と違って魔素を魔力にする装置が軟弱だからだ。
王座の間は魔界で一番、魔素が濃いので下位の魔族でも窒息する者もいた。
ファストは歴代の魔王に比べ、魔力は弱いが下位の魔族に比べれば莫大な魔力を持っている。
「ここの空気は甘いな。凄く心地よく感じるよ」
にこにこと微笑む彼になんだか親近感を覚えるファストだった。
「お前は、」
「君が魔王か」
「そうだ」
「君自体には恨みも憎しみもない。だが、魔族と人間との争いには終止符を打たなくてはならない」
「争い、どこに争いがあるのだ?人間と魔族は住む領域を分けられている。二つの種族が争う意味はない」
「確かに。だが、人間と魔族の間には大きな溝が存在する」
「それは仕方がない。人間は我ら、魔族にとって下位の存在だ」
人間は百年たらずで死んでいく。それに対して魔族は何百年から数千年生きる。
ファストの父も八百年生きていた。
ちなみにファスト自身は三百歳である。
魔素を必要以上、取り込むことができない。魔素を魔力に変換することができない人間。
(魔力?)
「お前は人間か」
あふれる魔力の輝き。
「これでもアイドリアの王子なんだが」
「アイドリア?」
ファストにはその国の名に聞いたことがあった。
魔王の血を引く娘が人間の王に嫁いだ。彼女は夫とした王が亡くなるとその国から姿を消した。
「お前、魔王の血を引いているのか」
魔王の娘は人間と子をなしていたのか。
魔族は人間を下等種として見下していいる。魔王の娘も人間に嫁いだということで存在自体、ないものとなっていた。
だが、魔族とて噂好きな者がいる。魔王の娘の話も魔族の間で伝えられていた。
記録は残っていないが誰もが知っているというやつだ。
「そうだね」
王子と名乗った青年はにこにこしながら、「そういう話は聞いているよ。きっと、僕は先祖返りなんだろうね」
「何が望みだ」
「あれっ、いきなり攻撃はしないの」
「ここまでさんざん、戦ってきたのだろう。そろそろ休んだらどうだ」
「そんなことを言って油断させてから攻撃するんだろう」
「んっ、」
ファストは眉を潜めた。
前にいる青年の声ではない。
「少し、黙っていてくれ、エクス」
「誰かいるのか」
「いるというか」
するり。
青年の持つ剣が空中に飛び出した。
「"力の精霊"か」
"力の精霊"は実体化する時に剣になる場合が多い。【力】=剣と考えているかららしい。らしいというのも魔族には精霊を味方にしないからだ。
精霊には【風】【水】【炎】【力】【光】【土】とそれぞれの属性がある。それらの精霊の加護を受ければ力を自由に使える。
魔族は魔力で自然の力を作り出すことができる。だから、精霊の力を必要としないのだ。
だが、それが単なる言い訳でしかないことをファストは知っていた。
精霊にとって魔族は悪の存在でしかない。
あいつは悪い奴だから加護を与えて見守ってやるもんか。
精霊側にしたらそんな気持ちなんだろう。
だが、魔族の王であるファストは何故、精霊がそう決めつけているのか分からなかった。
大体、魔族は人間を見下していたが直接、害を加えていないはずだ。
ただ、精霊にしてみれば自分たちの協力もなしに自然の力を使う魔族は面白くない存在だろう。精霊の力を利用して感謝する人族は彼らにとって都合のいい存在のはずだ。
(精霊の加護がついているから魔力の消費が少ないのか)
「別に精霊がついているから魔力を温存しているわけじゃないよ。元々、僕の魔力は魔族並みなんだ。多分、わがアイドリア王家に嫁いだ魔王の娘のおかげなんだろうね」
青年はため息をついた。「おかげで僕も先祖返りとか揶揄されることが多くあったが。おっと、まだ自己紹介がまだだったね。僕はシンク・デル・ファン・アイドリア、君は?」
「我はファストだ」
「ファスト、姓はないのか」
シンクは驚いたような顔をした。
「我は魔王だ。それ以外でもそれ以外でもない」
「そうか。魔王が魔界を支えているというのは本当だったんだな」
「なんだと、」
◇ ◇ ◇
「エクス、勘違いをしているようだけど、魔王は可哀そうな存在なのよ」
シンクに魔王討伐をそそのかす【力】の精霊にとがめるようにフルフラは口を開いた。
「何故なんだ」
「魔王が魔界にいるおかげで魔素が魔界に集中するのよ。おかげで魔族は苦労しなくて体に魔素を貯めこめるの」
「そうか、こいつをやっつければ、魔族の連中は魔法が使えなくなるんだな」
「そんなわけじゃないの。魔素が少ない人間の国でも魔力を使える人間がいる意味がないでしょう」
「そうだけど」
「さっきから何を言っている」
フルフラは突然、空中に現れた。透明な翅を背にして光の鱗粉を巻き散らかしている。
精霊というより妖精といった姿をしている。
「フルフラ、どこに行っていたんだ」
「ちょっと、城の中を散策ね。可哀そうに魔王以外の魔族は誰もいなくなっていたわ」
「どうしてだ」
「魔族だからといって死にたくはないだろうね」
カツン。
ファストは玉座から立ち上がった。
さっと緊張が走る。
シンクは思わず、剣の柄に手をかけた。
「我は何もしない。魔力の大きさではそなたの方が上だ」
ファストはシンクの目の前までやってきた。
「君は何をしてくれるのかな」
「貴方の開放を、」
「開放か」
「あなたが苦しんでいたのはわかる。僕も人間の国では異端だから」
シンクはじっとファストをみつめ、「ずっと一人だったのではないか」
「そうだな。唯一、我に付き添ってくれた乳兄弟も我を見捨てた」
「見捨てはしないさ」
シンクはさっと手を挙げた。
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