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城に着くとケネスが待ち構えていたかのように迎えにやってきた。
「仮面さえなければ、何を着ても似合うよ」
ケネスも私のドレス姿を見て、謎の褒め言葉を述べた。
喜ぶべきなのか少しだけ悩んだ。
それから、婚約発表の段取りを再度確認して、王族以外なら誰に挨拶をするべきなのかケネスに質問をした。
「シーカー辺境伯かな。冷たい印象はあるけど、差別主義者ではないので話しやすいよ。同い年だし、結婚したら僕達の監視役は彼になるんだ」
「監視役ということは、ご近所さんということになるのかしら?」
「そうなるね。あの人は貴族の良心って言ってもいいよ。僕は好きだよ」
ケネスはシーカー辺境伯の事を思い出してにっこりと笑った。
「ここにいるよりもあちらに住みたい。結婚が待ち遠しい」
と、ケネスは呟いた。
私はケネスの気持ちがよくわかる気がした。
彼は王族に生まれたのにその名を名乗ることができない。そして、高貴な身分のはずなのに貴族からは蔑まれている。
「私も、早く結婚して家から出て、気楽に暮らしたいわ」
似たもの同士の私たちは、結婚生活もそれなりに楽しく過ごせそうな気がした。
婚約発表の場は表面上は和やかだった。
しかし、笑顔に隠された悪意の視線を感じた。
「平民の殿下には、醜い令嬢がお似合いよ」
「泥と同じ色の服は良く似合う」
という、声は嫌でも耳に入ってきた。
彼らは日常的にケネスにこういう事を言っているのだろうか。
そして、王族はそれを咎めようともしない。私は腹が立っていた。
「シーカー辺境伯に挨拶に行こうか」
ケネスは、私たちに向けられる暴言に慣れた様子で苦笑いを浮かべた。
私はそれが悲しかった。ケネスはどれだけ孤独な日々を過ごしたのだろう。
これからは、私が少しでも彼の助けになればいいのだけれど……。
そんな事を考えながら、ケネスに連れられてシーカー辺境伯の後ろ姿を見つけた。
目に入ったのは蜂蜜のような艶やかな髪の毛だ。
私は何故か二度と会えないと思っていたジョンの事を思い出していた。
「シーカー辺境伯」
ケネスが声をかけるとシーカー辺境伯は振り返った。
「ケネス殿下、お久しぶりです」
湖畔を思わせるような青い双眸は細められて、私の姿を映し出している。
私は彼の顔を見て頭の中が真っ白になった。
なぜ、彼がここにいるのだろう?
浮かんだ疑問の答えはすぐに見つかった。ジョンは高貴そうな見た目をしていたじゃない。
異国の貴族だと思っていたのに……。
「じ、ジョ……、いえ、はじめまして」
私は彼の偽名を間違えて言いそうになって、慌ててそれをやめた。
「はじめまして、二人とも婚姻したら私の領地に来る事なるでしょう。その時はご近所さんとして仲良くしましょう」
ジョンは憎らしいくらいに、平然として挨拶をした。
私たちが出会ったことが、まるで、嘘だったかのように。
「ああ、よろしく」
「よろしくお願いします」
私達はお互いに初対面だと演技をして挨拶を終えた。
「仮面さえなければ、何を着ても似合うよ」
ケネスも私のドレス姿を見て、謎の褒め言葉を述べた。
喜ぶべきなのか少しだけ悩んだ。
それから、婚約発表の段取りを再度確認して、王族以外なら誰に挨拶をするべきなのかケネスに質問をした。
「シーカー辺境伯かな。冷たい印象はあるけど、差別主義者ではないので話しやすいよ。同い年だし、結婚したら僕達の監視役は彼になるんだ」
「監視役ということは、ご近所さんということになるのかしら?」
「そうなるね。あの人は貴族の良心って言ってもいいよ。僕は好きだよ」
ケネスはシーカー辺境伯の事を思い出してにっこりと笑った。
「ここにいるよりもあちらに住みたい。結婚が待ち遠しい」
と、ケネスは呟いた。
私はケネスの気持ちがよくわかる気がした。
彼は王族に生まれたのにその名を名乗ることができない。そして、高貴な身分のはずなのに貴族からは蔑まれている。
「私も、早く結婚して家から出て、気楽に暮らしたいわ」
似たもの同士の私たちは、結婚生活もそれなりに楽しく過ごせそうな気がした。
婚約発表の場は表面上は和やかだった。
しかし、笑顔に隠された悪意の視線を感じた。
「平民の殿下には、醜い令嬢がお似合いよ」
「泥と同じ色の服は良く似合う」
という、声は嫌でも耳に入ってきた。
彼らは日常的にケネスにこういう事を言っているのだろうか。
そして、王族はそれを咎めようともしない。私は腹が立っていた。
「シーカー辺境伯に挨拶に行こうか」
ケネスは、私たちに向けられる暴言に慣れた様子で苦笑いを浮かべた。
私はそれが悲しかった。ケネスはどれだけ孤独な日々を過ごしたのだろう。
これからは、私が少しでも彼の助けになればいいのだけれど……。
そんな事を考えながら、ケネスに連れられてシーカー辺境伯の後ろ姿を見つけた。
目に入ったのは蜂蜜のような艶やかな髪の毛だ。
私は何故か二度と会えないと思っていたジョンの事を思い出していた。
「シーカー辺境伯」
ケネスが声をかけるとシーカー辺境伯は振り返った。
「ケネス殿下、お久しぶりです」
湖畔を思わせるような青い双眸は細められて、私の姿を映し出している。
私は彼の顔を見て頭の中が真っ白になった。
なぜ、彼がここにいるのだろう?
浮かんだ疑問の答えはすぐに見つかった。ジョンは高貴そうな見た目をしていたじゃない。
異国の貴族だと思っていたのに……。
「じ、ジョ……、いえ、はじめまして」
私は彼の偽名を間違えて言いそうになって、慌ててそれをやめた。
「はじめまして、二人とも婚姻したら私の領地に来る事なるでしょう。その時はご近所さんとして仲良くしましょう」
ジョンは憎らしいくらいに、平然として挨拶をした。
私たちが出会ったことが、まるで、嘘だったかのように。
「ああ、よろしく」
「よろしくお願いします」
私達はお互いに初対面だと演技をして挨拶を終えた。
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