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ナイジェル2
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ナイジェル 2
シズリー家には、番について代々語り継がれている文献がある。
そこに記されていたのは。
番は会えばわかる。なんなら、会えなくても、その場にいただけでもわかる。
考えるな、感じろ。と、文献にはパッション的な事を長々と小難しく綴られていて、ナイジェルは懐疑的に見ていた。
なんなら、読んで損したと思っていた。
そして、さらにあったのが。
番と一緒にいるだけで、多幸感で理性が吹っ飛ぶ。死ぬまでひっついて離れたくなくなる。とも書いてあった。
禁止薬物か。
ナイジェルは、それについても全く信じていなかった。
しかし、アストラから届いた手紙によって、それが事実なのだと知る事になった。
アストラの手紙からは、嗅いだこともないようないい匂いがしたのだ。
その匂いを嗅ぐとナイジェルは、多幸感に包まれた。
手紙をもらってから、ナイジェルは手紙を肌身離さず持っていた。
「この手紙、香水でもかかっているのか?いい匂いがするんだ」
ナイジェルは、それが気になって、アストラの手紙を見せながら執事のマリオに聞いてみる。
マリオがアストラの手紙をナイジェルに渡した時は何も匂わなかった。
もしかしたら、何か毒物でもインクにかかっているのか?
マリオは、不審そうな顔をして匂いを嗅ごうと手紙を手に取ろうとした。
「何もかかってませんよ。匂いをかぎ」
「やめろ!」
しかし、マリオの手が手紙に触れる前に、ナイジェルはそれを胸の中に抱きしめた。
どうしても触らせたくなかったのだ。
「……?」
匂いがなかったのか聞いてきたのに、その手紙を触らせようともしないナイジェルに、マリオは明らかに戸惑っていた。
「この手紙、お花畑にいるような匂いがするんだ。優しい気持ちになるようなそんな感じの。幸せなんだ。ふわっとした感じの、多幸感というか」
「は、はあ」
それは、普段は顔色ひとつ変えずに魔獣を殺すナイジェルからは想像できない姿だった。
「なんだ?」
「ナイジェル様からお花畑という単語が出てきた事に驚いています」
ナイジェルは温厚で怒ることはほとんどない。しかし、父親の影響で自分の未来を悲観しているところがあるので、普段は陰鬱そうに見える。
しかし、今のナイジェルは、たんぽぽの綿毛のようにふわふわとしている。
どうしたんだろう。この人。婚約者が決まって浮かれているのか……?
マリオは、真っ先にそう思った。
「アストラ嬢は字が綺麗だな」
「そうですね。とても、几帳面で丁寧な字です」
アストラの悪い噂からは、信じられないような綺麗な字だった。
「あの子が書いていると思うと、目が幸せになってしまう」
「は?」
また、ナイジェルから出た信じられない言葉にマリオは目が点になった。
「ちょっと、何言ってるのかわかりません」
「今すぐに、アストラ嬢に会いに行こう。いや、すぐに迎えに行って領地に連れて行こう。花束を用意しないとな、どんな髪型が好みだろうか。大柄の男は怖くないだろうか、たくさんオシャレしないと」
「あの、ナイジェル様?落ち着きませんか?」
いいながら、ナイジェルは鏡で自分の髪型を確認したり、おしゃれなフロックコートを持ち出して身体に合わせている。
本気で今からアストラを迎えに行くつもりのナイジェルに、マリオは慌て出した。
「でも、今から迎え行くとか、きも、……いや、ちょっと怖いですよ」
「そうか?」
マリオが気持ち悪いと言いかけてやめた事に、ナイジェルは気がついた様子はなく。少し冷静になった。
「そうだな。確かにそうだ」
ナイジェルはその日から、アストラの手紙を肌身離さず持ち歩くようになる。もちろん寝る時も一緒だ。
それから、屋敷を出るというアストラからの手紙が届き、消息を断ってからのナイジェルの慌てふためき様はかなりのものだった。
アストラが番なのではないかと、ナイジェルが考えるようになるには時間は掛からなかった。
アストラを捜し行くと言い出したナイジェルをマリオは止めることが出来ず。
それならと、アストラの貞操の安全のためにブレーキ役に妹のマリカを同行させる事にした。
人が増えると旅に時間がかかるので、ナイジェルは、マリカと御者だけ連れて領地から出ていった。
極寒の地はある意味で、治安がいいので護衛なんて必要ない。
紆余曲折あったが、アストラを見つけるのは容易かった。
アストラから多幸感をもたらす、とてもいい匂いがしたからだ。
ナイジェルがアストラを初めてみた瞬間。
「雪の妖精……」
ナイジェルが、幼い頃、絵本で何度も見た可愛い鳥の事を思い出してた。
それは、両親がまだいて幸せだった時の記憶だ。
気がつけばアストラのところへ、ナイジェルは走り出していた。
~~~
お読みくださりありがとうございます
お気に入り登録、エール、感想ありがとうございます
更新頑張ります。よろしくお願いします
シズリー家には、番について代々語り継がれている文献がある。
そこに記されていたのは。
番は会えばわかる。なんなら、会えなくても、その場にいただけでもわかる。
考えるな、感じろ。と、文献にはパッション的な事を長々と小難しく綴られていて、ナイジェルは懐疑的に見ていた。
なんなら、読んで損したと思っていた。
そして、さらにあったのが。
番と一緒にいるだけで、多幸感で理性が吹っ飛ぶ。死ぬまでひっついて離れたくなくなる。とも書いてあった。
禁止薬物か。
ナイジェルは、それについても全く信じていなかった。
しかし、アストラから届いた手紙によって、それが事実なのだと知る事になった。
アストラの手紙からは、嗅いだこともないようないい匂いがしたのだ。
その匂いを嗅ぐとナイジェルは、多幸感に包まれた。
手紙をもらってから、ナイジェルは手紙を肌身離さず持っていた。
「この手紙、香水でもかかっているのか?いい匂いがするんだ」
ナイジェルは、それが気になって、アストラの手紙を見せながら執事のマリオに聞いてみる。
マリオがアストラの手紙をナイジェルに渡した時は何も匂わなかった。
もしかしたら、何か毒物でもインクにかかっているのか?
マリオは、不審そうな顔をして匂いを嗅ごうと手紙を手に取ろうとした。
「何もかかってませんよ。匂いをかぎ」
「やめろ!」
しかし、マリオの手が手紙に触れる前に、ナイジェルはそれを胸の中に抱きしめた。
どうしても触らせたくなかったのだ。
「……?」
匂いがなかったのか聞いてきたのに、その手紙を触らせようともしないナイジェルに、マリオは明らかに戸惑っていた。
「この手紙、お花畑にいるような匂いがするんだ。優しい気持ちになるようなそんな感じの。幸せなんだ。ふわっとした感じの、多幸感というか」
「は、はあ」
それは、普段は顔色ひとつ変えずに魔獣を殺すナイジェルからは想像できない姿だった。
「なんだ?」
「ナイジェル様からお花畑という単語が出てきた事に驚いています」
ナイジェルは温厚で怒ることはほとんどない。しかし、父親の影響で自分の未来を悲観しているところがあるので、普段は陰鬱そうに見える。
しかし、今のナイジェルは、たんぽぽの綿毛のようにふわふわとしている。
どうしたんだろう。この人。婚約者が決まって浮かれているのか……?
マリオは、真っ先にそう思った。
「アストラ嬢は字が綺麗だな」
「そうですね。とても、几帳面で丁寧な字です」
アストラの悪い噂からは、信じられないような綺麗な字だった。
「あの子が書いていると思うと、目が幸せになってしまう」
「は?」
また、ナイジェルから出た信じられない言葉にマリオは目が点になった。
「ちょっと、何言ってるのかわかりません」
「今すぐに、アストラ嬢に会いに行こう。いや、すぐに迎えに行って領地に連れて行こう。花束を用意しないとな、どんな髪型が好みだろうか。大柄の男は怖くないだろうか、たくさんオシャレしないと」
「あの、ナイジェル様?落ち着きませんか?」
いいながら、ナイジェルは鏡で自分の髪型を確認したり、おしゃれなフロックコートを持ち出して身体に合わせている。
本気で今からアストラを迎えに行くつもりのナイジェルに、マリオは慌て出した。
「でも、今から迎え行くとか、きも、……いや、ちょっと怖いですよ」
「そうか?」
マリオが気持ち悪いと言いかけてやめた事に、ナイジェルは気がついた様子はなく。少し冷静になった。
「そうだな。確かにそうだ」
ナイジェルはその日から、アストラの手紙を肌身離さず持ち歩くようになる。もちろん寝る時も一緒だ。
それから、屋敷を出るというアストラからの手紙が届き、消息を断ってからのナイジェルの慌てふためき様はかなりのものだった。
アストラが番なのではないかと、ナイジェルが考えるようになるには時間は掛からなかった。
アストラを捜し行くと言い出したナイジェルをマリオは止めることが出来ず。
それならと、アストラの貞操の安全のためにブレーキ役に妹のマリカを同行させる事にした。
人が増えると旅に時間がかかるので、ナイジェルは、マリカと御者だけ連れて領地から出ていった。
極寒の地はある意味で、治安がいいので護衛なんて必要ない。
紆余曲折あったが、アストラを見つけるのは容易かった。
アストラから多幸感をもたらす、とてもいい匂いがしたからだ。
ナイジェルがアストラを初めてみた瞬間。
「雪の妖精……」
ナイジェルが、幼い頃、絵本で何度も見た可愛い鳥の事を思い出してた。
それは、両親がまだいて幸せだった時の記憶だ。
気がつけばアストラのところへ、ナイジェルは走り出していた。
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