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 話し合いの末、シズリー領に戻るのは私の体調を見て時間をかけてという事になった。
 重ね重ね迷惑をかけてしまい申し訳なくなった。
 部屋は、私の護衛(ナイジェル)の意味も含めてマリカと同室になった。
 保護されてから数日が経っていた。

 マリカはとても好意的に接してくれて、甲斐甲斐しく私の世話をしてくれる。
 私が眠っている間に、医者に診察してもらったようで苦いお薬を出してもらっていた。
 お薬を飲むと、マリカは心配そうな顔をして私に聞いてきた。
 
「アストラ様、身体の調子はどうですか?」

 正直、屋敷にいた時よりも元気だった。
 食事はちゃんと出るし、みんな親切で優しく、ストレスフリーだ。

「元気ですよ」

 笑顔で返事をすると、念を押すように今度は聞いてきた。

「本当にですか?」

「……?はい」

 念押しする事を不思議に思ったが、私は気にしないでおいた。
 可愛く髪の毛を整えてもらい。可愛らしいワンピースに着替えるのを手伝ってもらうと、しばらくしてナイジェルが部屋にやってきた。

「アストラ嬢の体調が良ければ、そろそろ領地に向かおうかと考えているんだが、もちろん辛かったらちゃんと休むつもりだ」

 完全に病人を連れて移動するような口ぶりのナイジェルに、私は苦笑いを浮かべる。

「私は元気なので大丈夫ですよ」

 元気だと言うが、二人はそれを信じていないように顔を見合わせる。

「無理のない範囲で、シズリー領に戻りましょう」

「そうだな、慎重に行動しよう」

 元気だと言っているのに、二人は過保護すぎる。

「アストラ様の体調もそうですけど、ナイジェル様も気をつけてください」

「……悪かった」

 マリカの怒気を含んだ目に、ナイジェルはタジタジになりながら謝った。
 マリカを怒らせるような事を何かしでかしたようだ。
 
「何かあったんですか?」

「アストラ様がどこにいるのかわからなくて、虱潰しに馬車という場所を探し回ったんですよ」

「……申し訳」

 マリカの話を聞くだけで血の気が引いていくような気がした。
 かなり大変だっただろう。

「迷子の保護多数……」

 ぐったりとしたマリカの様子から、全て解決して私を捜しまわっていたようだ。

「仕方ないだろ!見てしまったものは、放っておくわけにもいかないし、可哀想じゃないか……。子供が親とはぐれたんだぞ?可哀想だろう?」

 二度目の可哀想を聞きながら、ナイジェルは子供が好きなんだろうなと思った。

 この人はとても優しい人だ。

 ナイジェルへの好感をさらに持つと共に、彼に相応しい人間になりたいと思った。

 二人の言う通り時間をかけてシズリー領に向かう事になった。
 初めは、二人に対して過保護すぎると思っていた。
 しかし、先に進むほど、その理由がよくわかった気がした。

 とても、寒いのだ。

 自分の寒さもそうだが、外にいる御者のことも心配になった。
 たまに、ナイジェルが交替しているので負担は減っているが、あのまま、一人で向かっていたらどうなっていた事だろうと今更だが思った。
 連絡が途絶えてナイジェルが慌てた理由も何となくわかる。

 寒いと思っていたけど、ここまでとは思わなかったわ……。

 暖かい宿から出て、馬車に乗り込むとその寒さに目を見開いた。

 服を着込みブランケットを何枚も羽織るがそれでもまだ寒い。
 ナイジェルは、躊躇った末に私に手を差し出してきた。

「アストラ嬢……。こっちに来るんだ」

「仕方ないですね」

 マリカは、渋々といった様子でそれを了承する。

「私の膝の上に座って」

「は、はい」

 言われるままにナイジェルの膝の上に座ると、横抱きにされた。
 ナイジェルの着ているコートの前は空いており、シャツから体温を直に感じた。

 温かい。

「暖かいだろう?私の屋敷に着くまではこうしていればいい」

 ぎゅむっと両腕に身体を包み込まれると、寒さなんて感じなかった。

「喋る湯たんぽだと思ってください。筋肉量が多いから布に包まれるよりも温かいと思います」

 マリカは渋々といった様子だった。

「冷えで身体を壊す人をたくさん見てきましたから、恥ずかしいかもしれないけど我慢してください」

 マリカの言うことはとても説得力がある。

「アストラと」

「うん」

「アストラと呼んでください。ナイジェル様」

 私はずっとナイジェルにして欲しいと思っていた頼み事した。
 ナイジェルは一瞬だけ驚いた顔をして、「アストラ」と、小さな声で呼んだ。

 私が「はい」と返事をすると抱きしめる手の力が少しだけ強くなった。

「爆散しないかな」

 マリカのつぶやきが少し怖かった。
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