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 そして、2週間後、レオナルドがやってきた。
 ナイジェルとマリカとマリオと私の四人でレオナルドを出迎える事にした。
 男性は私の顔を見るなり名前を叫んで飛びついてきた。

「アストラ!」

 ぎゅむと抱きしめられて、忘れていた兄の温もりを思い出す。

「レオ兄さま!」

 会っていない間にずいぶんと大きくなった気がする。
 小柄な私よりも頭二つ分くらい大きい。
 会わなくなった間に、こんなにも大きくなったのだと思うと急に寂しくなった。

「おおきくなりましたね」

「大人になったからね」

 レオナルドは苦笑いして私の頭を撫でる。

「アストラもずいぶん大きくなったな。両手で高い高いがもうできないな」

 レオナルドが寂しそうにそう言うと、幼かった頃にお願いしてそれをやってもらった事を思い出した。

「……私なら今のアストラでもできる」

 ボソリとナイジェルの声が聞こえて、慌てた様子のマリカがその唇を手で押さえた。

「張り合うな!恥ずかしい」

「大人として子供のように張り合うのは恥ずかしいので、やめてください」

 マリカとマリオの口撃の集中業火を浴びているナイジェルを、レオナルドはやや引き攣った顔で見ていた。
 しかし、持ち前の冷静さですぐに曖昧な微笑みを浮かべて誤魔化した。

「ナイジェル様、この度は、アストラを保護してくださりありがとうございます。僕が落ち着いたらアストラは連れて行くので、それまではよろしくお願いします」

 レオナルドは、ナイジェルにお礼を言いつつ。
 あくまで一時的な保護だとなぜか強調した。

「婚約者なので当然のことをしただけです。僕の妻になるので、連れて行く必要は全くないです」

 レオナルドもナイジェルもにっこりと笑っているが、二人から漂う空気は少しピリピリしている気がする。
 話を変えた方が良さそうね。

 私はすぐに別の話題へと変えた。

「あ、あの、兄さま、大丈夫なんですか?」

「何が?」

「その、お父様とお母様が王城に乗り込んできたと聞きましたが」

 実はずっと気になっていた。レオナルドは両親に何をしたのだろうかと。
 レオナルドは、私の質問に突然声を出して笑い出した。

「ああ、あれか、……ははは、思い出しただけで笑えてくる」

 私はレオナルドの口からとんでもないことを聞いてしまった。

「生活費を必要最小限にして止めたんだ」

 必要最小限といっても、使用人に給料として支払えばなくなる程度の金額らしい。
 払う物を払ったら生活ができなくなって、両親は銀行に行ったが口座をブロックされておりお金も出せない。
 困った末に、レオナルドの所へと乗り込んだようだ。

「つけ上がると困るからね。理解させないと」

 レオナルドは、笑っているが怖い。

「一度、屋敷に帰って雰囲気が悪くなるように、使用人にエコ贔屓しまくって、失敗や難癖をつけて片っ端から解雇してギリギリで人が回らないくらいで放置して家から出たんだ」

 どうやら、わざと人間関係をガタガタにして、足の引っ張り合いが当たり前のような状態にしてレオナルドは家を出てきたようだ。

「えぐ……」

 マリカが、レオナルドのした事を聞いて、つぶやくのが聞こえた。

「アストラと関わっていない下っ端の子は、面倒な事押し付けられそうだから紹介状持たせてやめてもらったし、今頃立場とか関係なくみんな髪の毛振り乱して働いてるんじゃないのかな」

 ははは、と楽しげに笑っている

「使用人のやったことは、他の貴族も知っているし、辞めても雇おうとするところはないんじゃないかな。それに、評判が悪い場所に人なんて来ないでしょう?」

 つまり、レオナルドは辞めても辞めなくても困るように仕向けて、その上で、新しく雇用することもできないようにしたようだ。

「だれも、世話なんてしてくれない。って両親が護衛なしできて嘆いていたよ。髪の毛も肌もボロボロだったな」

 今までしてもらえた事を急にしてもらえなくなる苦しみは、私はよく知っている。
 クラリスは、最初は私の世話をちゃんとしてくれていた。それが少しずつ手抜きになっていき。いつのまにか何もしてもらえなくなって、暴言を浴びせられるようになった。

「少し、気分がスッとしました」

 両親とライザに少しでも私の苦しみがわかってもらえたらそれでいい。

「クラリスがライザの専属をやっているけど、さぞかし大変だろうな」

 レオナルドはそれを想像して苦笑いしていた。

「そういえば、ライザのデビュタントのお披露目がそろそろだけど、お金がないしどうやってドレスを作るんだろうな」

 他人事のようにレオナルドはつぶやいた。
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