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「ところで、アストラは、デビュタントのお披露目がまだだったようで、私がエスコートします」

 デビュタントで思い出したのか、ナイジェルが慌ててお披露目の件をレオナルドに確認を取った。

「感謝します。アストラのお披露目、見たかった……。エスコートも僕がしたい」

 レオナルドが嘆き出したので、ナイジェルが警戒するように私に抱きついてきた。

「ダメだ……」
 
 レオナルドには申し訳ないが、婚約者にエスコートをしてもらいたい。それに、ドレスを用意してくれたのはナイジェルだ。

「レオ兄さまも参加できるじゃないですか」

 エスコートは出来ないが、家族としての参加ならレオナルドならできるはずだ。

「あの家門として参加はしたくないんだ」

 両親とライザと同列の扱いをされたくないのが口ぶりから伝わってきた。

「なるほど」

「ロシェル殿下に女装でもさせて、僕がエスコートするか、そうしたら、アストラを近くで見ることができるし」

 レオナルドはあくまでデビュタントお披露目の場の空気を味わいたいようだ。
 確かに、私を間近で見ることはできるが、第二王子に女装させるのはどうなのだろうか。
 大きな男二人がお披露目会場で踊る姿はなかなかカオスだ。
 
「自分は女装しないのか?」
 
「何で僕がそんな恥ずかしいことをしないといけないんですか」

 ナイジェルの質問に、レオナルドはとても真面目に答えた。
 第二王子のロシェルならやらせてもいいのか。と、私は思った。

「ロシェルなら恥ずかしい思いをしてもいいという事ですか?」

「ロシェル様が恥ずかしいのは一瞬で、周囲の目が慣れてくれば問題ない」

 あながち間違いではないが、腑に落ちない。
 そもそも、ロシェルはそれをやってくれるのか、彼の意思はどうなのか、勝手に決めてもいいのか、色々と聞きたい事がある。

「王族の沽券とは……」

 マリカの口から思わず出た言葉に、レオナルドの目は見開いた。

「……ん?君、君だよ君!」

 レオナルドが気にしていたのは、マリカの言葉ではなくマリカ自身だった。

「へ?」

「君と一緒に出ればいいんだ」

 レオナルドはマリカをロックオンして、その手を握った。

「はぁ?!」

 マリカは嫌だと隠す様子もなく、眉間に皺を寄せた。

「……カラス家は、男爵家なので問題ありません」

 そこに補足でフォローを入れたのはマリオだった。

「ちょっ、兄さん!なんでここで余計なこと言うの!」
 
「問題ないな!マリカも参加だ!」

 余計な事をと言わんばかりのマリカに、ナイジェルが追い討ちをかける。

「ナイジェル様も!」

「マリカ、君もデビュタントだろう?面倒だから行きたくないってずっと話してたけど、いい機会だ。犬に噛まれたと思って一緒にいくんだ」

「……」

 マリカは項垂れて黙り込む。
 よほど行きたくないようだ。

「マリカって私よりも年下だったの……?」

 申し訳ないが、そちらの方が気になった。
 マリカは落ち着いていて、体つきも……、グラマーだ。だから、勝手に年上だと思っていた。

「え、そこ!?」

「マリカは行きたくないの?」

 マリカとお披露目に参加するシーンを想像した。
 きっと、楽しいだろうし、一生のいい思い出になるだろう。
 なぜなら、マリカと一緒だからだ。

「面倒ですもの。それにドレスなんて……」

 マリカは、ドレスもないしやはり気が乗らないようだ。

「ドレスならある」

 ドレスがないと言ったマリカに、ナイジェルは「ある」と返した。

「は?」

「……こっそり用意したんだ」

 ポカンとするマリカに、マリオが実はと教えてくれた。

「何ですって!?ナイジェル様!?どうせ着ないものを勿体無い」
 
 マリカは、信じられないと言わんばかりにナイジェルに詰め寄る。
 ナイジェルがこんな事をしたのは、マリカにデビュタントのお披露目を経験してほしいと思ったからだろう。
 彼女が行きたいかどうかは別として。

「マリカはお披露目に出たくないよね……。一人だと不安だし、マリカと一緒ならすごく楽しそうだなって思ったけど」

 これでマリカが嫌がったらレオナルドを上手く説得しよう。
 そう考えていると、マリカは少し照れくさそうに顔を赤てこう言った。

「……行きますよ。行きます!アストラ様と一緒なら楽しそうですし」

 こうして、もう一組デビュタントのお披露目に参加することになった。
 





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