40 / 56
クラリス1
しおりを挟む
クラリス1
クラリスは、田舎町が嫌で都会へと飛び出した。
物語に出てくるようなお姫様に憧れていたが、何も持たない平民になれるはずもなく。
それなら、お姫様のような女の子の近くにいられる仕事がしたかった。
そして、運良くギレット家で働く事が出来た。
侍女の仕事なんて夢のまた夢で、それでもクラリスは洗濯場で働いていた。
ギレット家には令嬢が二人いるが、そのどちらとも顔を合わせた事はなかった。
それでも、クラリスは自分の洗ったドレスを着る令嬢二人の姿をいつも妄想していた。
そんなある日、クラリスにチャンスがきた。
ギレット家のレオナルドに呼び出された時、クラリスは最初は何か大きな失敗でもしたのかと思った。
クラリスの他に呼び出されたのは、中年のコックだけだ。
「僕の妹のアストラの事を頼みたい」
レオナルドが言うには、自分が家を離れることでアストラの世話をする人間がいなくなる可能性がある。という事らしい。
コックの男は、レオナルドの話を真剣に聞き。
「用意するなと言われても必ず食事は用意します」
と言って約束をしていた。
クラリスは、一番立場が下の洗濯場のメイドから、侍女へと昇格する事を喜んだ。
しかし、アストラの顔を見た事でその気持ちは一気に萎んでしまった。
真っ白な髪の毛、少しやつれた頬、表情の乏しい顔、老婆のようだとクラリスは思った。
不満は少なからずあった。侍女になった事、レオナルドからの「アストラ用手当て」がつくことになり給金は一気に増えた。
クラリスは不満を押し殺してアストラの世話を最初はちゃんとしていた。
しかし、嫌でも比べてしまうのだ。
絵本に出てくるお姫様のようなライザと、老婆のようなアストラを。
それに、ライザ付きの侍女は何かとクラリスを見下すのだ。
「あの、老婆みたいな子の面倒なんて気の毒。どれだけ磨いても綺麗にならないじゃない」
「ずっとあの子の侍女なんて可哀想」
ある意味で、クラリスにとってそれが一番堪えたのかもしれない。
アストラの侍女であり続ける限り、憧れのライザの侍女になる事は永遠にあり得ない。
クラリスの不満は、少しずつ蓄積されていった。
そして、それが爆発したのはアストラの誕生日だった。
アストラの誕生日になると、必ずライザは体調を崩す。
そして、両親はアストラの誕生日なんて忘れてライザの付き添いをする。
これが、いつもの流れだった。
「今日はアストラ様の誕生日だな。これ、アストラ様に渡してくれ。余ったら食べてもいいぞ」
レオナルドに呼び出されたコックに、呼び止められて差し出されたケーキは、先日のライザのケーキよりもはるかに手の込んでいるものだった。
何で、何でこの家の中心のライザ様よりも、あんなののケーキの方がいい物なのよ!許せない!
クラリスは怒りに身を任せて、ライザの侍女達と一緒にそのケーキを食べる事にした。
アストラは、自分にケーキがある事すら知らずに誕生日の夜を一人で過ごした。
次の日、クラリスは自分のした事に青ざめていた。
これが、奥様や旦那様にバレてしまったら……。
しかし、アストラに無関心の両親はそんな事にも興味がなさそうだった。
そうなると、クラリスはアストラに何をしてもいいと思うようになる。
運悪く、レオナルドが屋敷に帰ってくる事はなく。そういった環境が整ってしまった。
コックの男は着実に出世しており、料理や食材はある程度自由が効くようになっていた。
だからこそ、両親がライザに付きっきりの時は、アストラには特別にいつもよりもいい食事を用意したり、一人で迎える誕生日の日には、手の込んだ料理やケーキを作ってクラリスに渡していた。
それを受け取ったクラリスは、いつも勝手に一人で食べていた。
ケーキなどの食べられない物は、ライザの侍女と一緒に分けて食べた。
食事を摂らないアストラを心配する者もいたが、癇癪が酷く、食べ物を投げたり、どうしようもない人間だと話すと面白いほどに誰もが信じてそれ以上は何も言われなくなった。
言葉遣いも乱暴になっていき。クラリスはアストラに暴言を吐くようになっていた。
それでも、殴るなどの暴力は我慢していた。
しかし、それもライザへの縁談話によって、我慢の限界を迎えた。
「私はあの化け物の妻にならないといけないだなんて……」
嘆き悲しむライザを遠くから見ていると胸が痛んだ。
クラリスは、田舎町が嫌で都会へと飛び出した。
物語に出てくるようなお姫様に憧れていたが、何も持たない平民になれるはずもなく。
それなら、お姫様のような女の子の近くにいられる仕事がしたかった。
そして、運良くギレット家で働く事が出来た。
侍女の仕事なんて夢のまた夢で、それでもクラリスは洗濯場で働いていた。
ギレット家には令嬢が二人いるが、そのどちらとも顔を合わせた事はなかった。
それでも、クラリスは自分の洗ったドレスを着る令嬢二人の姿をいつも妄想していた。
そんなある日、クラリスにチャンスがきた。
ギレット家のレオナルドに呼び出された時、クラリスは最初は何か大きな失敗でもしたのかと思った。
クラリスの他に呼び出されたのは、中年のコックだけだ。
「僕の妹のアストラの事を頼みたい」
レオナルドが言うには、自分が家を離れることでアストラの世話をする人間がいなくなる可能性がある。という事らしい。
コックの男は、レオナルドの話を真剣に聞き。
「用意するなと言われても必ず食事は用意します」
と言って約束をしていた。
クラリスは、一番立場が下の洗濯場のメイドから、侍女へと昇格する事を喜んだ。
しかし、アストラの顔を見た事でその気持ちは一気に萎んでしまった。
真っ白な髪の毛、少しやつれた頬、表情の乏しい顔、老婆のようだとクラリスは思った。
不満は少なからずあった。侍女になった事、レオナルドからの「アストラ用手当て」がつくことになり給金は一気に増えた。
クラリスは不満を押し殺してアストラの世話を最初はちゃんとしていた。
しかし、嫌でも比べてしまうのだ。
絵本に出てくるお姫様のようなライザと、老婆のようなアストラを。
それに、ライザ付きの侍女は何かとクラリスを見下すのだ。
「あの、老婆みたいな子の面倒なんて気の毒。どれだけ磨いても綺麗にならないじゃない」
「ずっとあの子の侍女なんて可哀想」
ある意味で、クラリスにとってそれが一番堪えたのかもしれない。
アストラの侍女であり続ける限り、憧れのライザの侍女になる事は永遠にあり得ない。
クラリスの不満は、少しずつ蓄積されていった。
そして、それが爆発したのはアストラの誕生日だった。
アストラの誕生日になると、必ずライザは体調を崩す。
そして、両親はアストラの誕生日なんて忘れてライザの付き添いをする。
これが、いつもの流れだった。
「今日はアストラ様の誕生日だな。これ、アストラ様に渡してくれ。余ったら食べてもいいぞ」
レオナルドに呼び出されたコックに、呼び止められて差し出されたケーキは、先日のライザのケーキよりもはるかに手の込んでいるものだった。
何で、何でこの家の中心のライザ様よりも、あんなののケーキの方がいい物なのよ!許せない!
クラリスは怒りに身を任せて、ライザの侍女達と一緒にそのケーキを食べる事にした。
アストラは、自分にケーキがある事すら知らずに誕生日の夜を一人で過ごした。
次の日、クラリスは自分のした事に青ざめていた。
これが、奥様や旦那様にバレてしまったら……。
しかし、アストラに無関心の両親はそんな事にも興味がなさそうだった。
そうなると、クラリスはアストラに何をしてもいいと思うようになる。
運悪く、レオナルドが屋敷に帰ってくる事はなく。そういった環境が整ってしまった。
コックの男は着実に出世しており、料理や食材はある程度自由が効くようになっていた。
だからこそ、両親がライザに付きっきりの時は、アストラには特別にいつもよりもいい食事を用意したり、一人で迎える誕生日の日には、手の込んだ料理やケーキを作ってクラリスに渡していた。
それを受け取ったクラリスは、いつも勝手に一人で食べていた。
ケーキなどの食べられない物は、ライザの侍女と一緒に分けて食べた。
食事を摂らないアストラを心配する者もいたが、癇癪が酷く、食べ物を投げたり、どうしようもない人間だと話すと面白いほどに誰もが信じてそれ以上は何も言われなくなった。
言葉遣いも乱暴になっていき。クラリスはアストラに暴言を吐くようになっていた。
それでも、殴るなどの暴力は我慢していた。
しかし、それもライザへの縁談話によって、我慢の限界を迎えた。
「私はあの化け物の妻にならないといけないだなんて……」
嘆き悲しむライザを遠くから見ていると胸が痛んだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
6,752
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる