目に見えているものが真実とは限らない

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 オーランドとどうやって別れたのか覚えていない。
 ただ、ドレスが汚れるのが嫌だから馬車を呼ぼうとしたら、恥ずかしいから消えろ。と、罵倒されたことだけは覚えている。
 早く馬車を捕まえないと、せっかく着たドレスが汚れてしまう。
 そんな事を考えながら歩いていると、一台の馬車が通り過ぎてぴたりと止まった。

「やあ」

 声をかけられて振り返ると、そこにはレイリー様がいた。
 何というかここまでタイミングが良すぎると見計らって声をかけられているのではないかと、勘ぐりそうになってしまう。

「レイリー様?」

 たぶん偶然よね。
 そんな事を思いながら彼の名前を呼ぶ。
 レイリー様は、少しだけ私のことを見るとなぜか楽しそうに笑った。
 今の自分の気分とは真反対の彼の笑顔。
 
「どうしたの?今日はとてもお洒落だね」

 挨拶をするかのようにするりとでた私を褒める言葉に、目頭が熱くなってくる。
 ああ、そうだ。
 私はオーランドに精一杯のおしゃれを褒められたかったのだ。
 お前といると恥ずかしい。と、罵倒されるのではなくて、二人で王都を歩き回りたかったのだ。

「……っ」

 そう思うと泣きたくなった。
 何をしようとしても八方塞がりだ。
 デビュタントに出ても恥をかき、出なくてもエレナによって私の家族へのペナルティが何かしらあるはずだ。

「そんな格好で歩いてたら汚れちゃうよ。乗りなよ」

 レイリー様に声をかけられて、私は別のことを考えていた事に気がつく。
 しかし、知り合って間もないのに彼の馬車に乗るのは気が引ける。

「でも、知らない人にはついて行ったらいけないって」

 言い訳じみた断り方をすると、レイリー様は苦笑した。 

「僕ほど身元がしっかりしてる人間はいないと思うけど」
「そうですね」

 言われてみればその通りだ。
 断る理由を考えるけれど、結局何も思い浮かばない。

「ほら、おいで」
「はい」

 私は言われるままに馬車に乗る事にした。

「元気がないけど、何かあったの?」
「何でもありません。何も」

 レイリー様に問いかけられても、何もいえなかった。
 エレナ王女と彼は以前交際していた。
 彼がエレナ王女をどう思っているのかは知らないけれど、一度愛した人の悪口を聞かされるのは嫌なはずだ。

「ふーん」

 レイリー様は、それ以上は何も聞いてはこなかった。
 しつこく聞かれてもこちらとしては困ってしまうのだけれど。
 レイリー様に、優しくされて少しだけ落ち着いた。
 まず自分にできる事はなんだろう。
 とりあえずオーランドとの婚約の破棄だ。それと、新しく結婚相手を見つける事。
 幸いなのか、レイリー様が私の婚活を手伝う。と先日豪語していた。
 それなら……、助けてもらうしかない。
 
「あの、協力して欲しいんですけど」
「何を?」

 レイリーは、協力という言葉に対して少し警戒心を見せた。
 警戒されても協力するって話していたし!
 レイリー様ならツテがあるから、私と誠実な下位貴族との縁談話をまとめてくれるかもしれない。
 正直、誠実な人で私を妻として大切にしてくれる人ならば年齢が離れていてもよかった。

 ……オーランドなんかと結婚するよりもそちらの方がずっと幸せだと思うから。

「わ、私の婚活です!」
「やっとその気になってくれたんだね」

 レイリーは、私の協力要請に嫌な顔一つせずに頷いた。

「あの、レイリー様の部下で、あるいは平民の方でこう、私のような見窄らしい女でも大丈夫。という物好きな方はいませんかね」

 言いながら惨めになってきた。
 見窄らしい私なんか愛されるはずがない。
 
「あー、君に部下は紹介したくないね」

 レイリーは、部下には紹介したくない。と言います。
 やはり、私は見窄らしくて恥になるから誰かを紹介したくないのかもしれない。

「僕が婚活のサポートをするなら、もっと良い相手を探してあげるよ。元婚約者さんよりもいい男じゃなきゃダメだよね」

 レイリー様はイタズラっぽく微笑む。
 不誠実なオーランドに対して何かしら思うところがあるのかもしれない。

「……っ、はい」

「とりあえずデビュタントの準備をしようか」

 レイリーが唐突にデビュタントの話をし始めた。
 なぜ、そこが重要なのか。

「デビュタントが一番相手に対しての記憶に残りやすい。だから、何よりもデビュタントが重要だと思ってほしい」

 私はレイリーに言われた通りに従うことにした。
 どちらにしても自分でできるのことなんてされているけれど。
 でも、一つだけできることがある。

「あの。うちは金銭的に余裕がなくて……、デビュタントのドレスを新調するのは難しいんです」

 正直なところお金をあまり使いたくなかった。
 ドレスがないわけではないけれど母のもので、買い換えるなんてとてもむりだった。
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