目に見えているものが真実とは限らない

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 レイリー様は、「わかったよポーリーン」と言った。
 先ほどまで会って話をしていたエレナ王女と、レイリー様を比べると真実はわからないが、彼が浮気をするような人柄にはとても見えなかった。

「……ところで、君のご両親に挨拶がしたいんだけど、変に勘違いされると後々困るだろう?」

 確かにその通りだ。
 レイリー様と親しくしていたら、そういった関係だと勘違いされてしまう。
 それに、オーランドとの婚約破棄をする時に、こちらに落ち度があると周囲に思わせてしまいそうだ。

「そうですね。あの、両親は来ていないんです」
「は?」

 親が来ていない事をレイリー様に伝えると信じられない。と言わんばかりの表情をした。
 野宿もできるし、簡単な護身くらいならできるし、暗器も持ち歩いている。
 女の独り歩きってそんなに危険なのかしら……?

「……今、すぐに来ることができないというか。家族は私のエスコートのために来る予定なんです」

 誰一人としてこちらに来る予定はないけれど、私は彼の反応を見てデビュタントに誰も付き添いができないと事実を伝えるのはやめた。
 後々大問題になりそうな気がしたからだ。

「それは困ったな」

 レイリー様は腕を組み考え込むそぶりを見せた。

「あの男との破談の手続きも、早くしないといけないからな。事情は僕からも説明するから早く家族と合流しないといけないな」
「そうですね」

 確かにその通りだ。
 家族に事情を説明する手紙を送らなくてはならない。
 次の婚約相手の目星があるのなら、家族も婚約破棄について何も言わないはずだ。
 いや、私のことを大切に思っているから、婚約破棄を渋ることはしないと思う。

「もしも、破談の手続きを渋られたら僕が協力する。アイツよりもいい家の男なら文句なんて出ないだろう」
「は、はい」

 レイリー様は面倒なことでしかないのに、協力してくれるようだ。

「それまでは、僕が面倒を見よう」
「はい?」

 面倒を見るとはどういうことなのだろうか。

「荷物をまとめて、使用人がいるなら声をかけて」
「えっと」

 レイリー様は私を取り残してどんどん話を進めていく。
 こんなにも世話焼きな人だったのか。
 何というか、殺そうとしたことにもの凄い罪悪感を持ってしまう。

「ここの治安は悪くないけど、トラブルがないわけじゃない。君は世間知らずだろうし」

 レイリー様の心配の仕方が完全に子供の一人歩きに対してのそれだ。
 だが、同じ屋敷で私が過ごすことになったらそれはそれで問題なのではないか。

「……でも、変な噂とかになりませんか?
「繋がりのある貴族が未婚の令嬢のお世話をすることはよくあることだよ」

 あー、お金持ちの人がよくやるやつですね。
 シャペロンってやつよね。でも、それって女性がやるやつじゃないのかしら。

「は、はあ、それって」
「決まりだ。荷造りの準備をしてきなさい」

 私が続きを言おうとしたら、レイリー様は強引に話を被せてきた。
 早く準備しなさい。という無言の圧力は領地の子供と本気で遊んで泥だらけになって帰ってきた兄に怒る義姉の恐ろしさによく似ていた。
 私は、ああいう人を怒らせると怖いことを知っているので従うことしかできなかった。
 すごすごとホテルから出ていく準備をした。

「使用人一人もつけずにきたのか?」

 荷物をまとめてレイリー様のところへと向かうと、怒りとも呆れとも違う。
 純粋な心配からくる質問をしてきた。
 
「はい。野宿もできますし、護身術もできますし」

 はしたない気がしたので暗器を持ち歩いているとは言わなかった。

「……信じられないな。せめて親でも付き添うべきだ」

 レイリー様は、私に対してというよりも親に対して腹を立てているように見えた。
 
「義姉が出産を控えておりまして」
「だから、君は気を遣ったのか?何かあってからじゃ遅いのではないか?」

 そう言われれると何も言い返せない。

「は、はい、申し訳ありません」
「手紙を出そうにも折り返しが来るまで、かなり時間がかかるな。ご家族が来た時に僕から説明しよう」

 レイリー様は、本来なら使用人がする事なのに私のトランクを軽々と持ち上げて歩き出した。
 
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