恋の終わらせ方

毛蟹

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食事を済ませて、割り勘で会計を済ませると、高梨に「こっち」と言われて突然、腕を掴まれた。
半ば引きずられる形で連れて行かれた所は駐車場だ。

「車で来たんだね」
「まあ、この天気だしね」

高梨は車で来ていた。いつ雨が降るかわからない空模様だし、雨に濡れたくなければその選択は正しい。

「久しぶりに見るわね」

艶やかな濃紺の車体に写るのは、土偶とモデルだ。
こうやって見ると高梨は華奢なようで、意外と体つきががっしりしている気がする。
彼のミニバンは何度も乗った記憶がある。ある事がきっかけで乗らなくなったけれど。

「久しぶりのデートだし、移動しやすい物に乗ってた方がいいでしょ?」

高梨は当初の予定を全く忘れているようだ。

「話し合いじゃなかった?」
「そうとも言うけど。話し合いが終わればほぼデートのようなもんでしょ」

全く悪びれる様子はない。
彼がそう思うならそれでもいいのだが、とてつもなく居心地の悪さと申し訳なさを感じてしまう。
私は彼の事をまだ友達としてしか見ていない。

「うん、だけど」

『私はデートだなんて思っていない。この車には乗れない』と全ては言わせて貰えなかった。

「まあ、とりあえず。こんな空だし外には出られないね」

高梨が苦笑いまじりに空を指差す。見上げるといつ降ってもおかしくないくらいの曇天だ。
そこに、ポツリと一粒の雨粒が私の頬に落ちた。
少し冷たい。

「あ、雨が降り出した」

高梨がそう言うなり雨の勢いが増す。

「濡れちゃうから乗って!」

私は言われるままに、彼の車の助手席に乗ってしまった。

「どこか、遊びに行こうにも、これじゃ、外に出るだけでびしょ濡れになりそうだ」

フロントを叩きつけるのは雨粒というよりも、バケツをひっくり返したような雨だ。
屋内で遊びに行くにしても、傘をさしてもフクが濡れてしまいそうだ。

「僕の家行く?」

提案は予想通りのもので思わず身構える。
別に彼が不埒な事をするなんて微塵も思わないけれど、逢うのを控えていた理由を考えると素直に『うん』とは言えなかった。

「変に身構えなくても大丈夫だよ。前と変わらないんだから。由寿さんも由寿さんで強情だよね」

「区切りはしておきたいから」

私は困った顔をしている高梨から目を逸らした。
一度だけ彼に好きと言われた事がある。
もちろん断ったが、彼は今までと変わらない付き合いをしたいと話していたが、私がそれを断ったのだ。
自分の物にならない相手と友人付き合いを続けるのは辛い事を良く知っているから。

「だけど、僕も諦めるつもりはないよ。チャンスがあるなら、友達としてでも会いたいよ」

高梨はヘラヘラ笑いながらそう言い出す。これも、告白をされた時にもおなじ事を言われた気がする。

「強いのね」
「僕なんかより十年以上ひとりの男を想い続ける君の方がずっと」
「しぶとい?」
「いいや、純粋なんだよ」

高梨はそう言って車を走らせた。目的地は言わなくてもどこなのかすぐにわかった。

「どうぞ」

連れて行かれた高梨の部屋は、以前にお邪魔した時と変わらず。緑を基調として家具が揃えられていた。窓際に置かれた多肉植物や、無造作に2人がけのソファに置かれたクッション。雑然と片付けられている。
生活感がなく片付けられていると、かえって居心地の悪いもので。部屋の中に入ると肩の力が抜けていくのを感じた。

「お邪魔します」

人の部屋だというのを忘れて、このままソファにあるクッションと共に溶けてしまいたい。
彼の部屋は麻薬的な居心地がいい。それに。

「ココア飲む?」

計算し尽くされた。私の好きな飲み物まで置いてあるのだ。

「ありがとう。でも、甘い物好きじゃないでしょ?」

高梨は甘い飲み物が好きではない。用意してあるということは誰かが来ることを想定してあるということだ。

「まあね、だけど、由寿さんがいつくるかわからないでしょう?」

もう、隠すことをやめた好意を前面に押し出されると、こちらの方がかえって恥ずかしくなる。

「……」
「面白いB級映画あるんだけど観る?」

そう言われると、もはやこの部屋から出て行きたくなくなる。恐ろしい男。
差し出されたDVDのパッケージには『殿vsエイリアンvs口裂け女』と記されている。

この部屋に来るたびに、ここの家の子供になりたいくらい居心地いい。
それは、彼が気遣ってくれる事が多いからというのも大きいだろう。

「最高の引き留め文句ね」
「だろう?由寿さんって実は剽軽だよね」

私のこういう一面を良く知っているのは高梨だけしかいない。

「そうかも」

だからこそ、ずっといい友達でありたかったのだ。
きっと、このまま続けたら私は彼の事を好きになる。それが怖くて正孝を理由にして彼と会わないようにしたのだ。

彼と過ごす時間は、魔法のようにあっという間に過ぎていく。それなのに、何もかもが楽しくて印象に残ってしまう。


「今日はありがとう」

結局、断ったけれど土砂降りを理由に私は彼にアパートまで送ってもらっていた。

「こっちこそありがとう。何か心境の変化があったら、これからも2人で会おうよ」

そう言われると、つい、甘えてしまいたくなる。
だけど、自分の中で区切りをつけないと人の好意に甘え続ける卑怯な人間になってしまう。
それだけは嫌だった。

「ありがとう。何かあったらね。まだ、気持ちの整理がつかないんだけど」

「待ってる」

高梨はそう言って私に抱きついてきた。
彼が今までの距離感を越えてこんな事をするのは初めてだったので、私は目を白黒させた。
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