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空気が変わるのがわかった。さっきまでの甘いものとは全く違うものになり私は急に怖くなる。
水津は子羊を見る狼のような目で私を見ている。
「お願い、やめて」
「何言ってるの?」
私は怖くなって身体を反らすが、水津は私の右手を離すと今度は私の後頭部を掴んだ。咄嗟に髪の毛を引っ張られると覚悟をしたが、そんな痛みはなかった。
その代わりに、頬にしっとりと濡れた息を感じて、反射的に目を閉じると頬に柔らかい唇の感触がした。
水津は表情とは裏腹に優しく私の顔に唇を降らせ続けた。その息に顔が濡れてしまいそうだ。
「貴女が俺の事どう思ってるのか、俺が一番知ってるから」
水津は切なそうに笑い、私の胸の上に手を乗せて服越しからやわやわと揉み始めた。
「お願い……、離して。人が来るから」
こんなのお互いのためにならない、もし、見付かったら。破滅が待っている。
私が冷静になってほしくて声をかけても、水津は構わない様子だった。
「だから何……?」
水津は大きく息を吐き出しながら、今度は私の胸を強く掴んだ。
「っ……」
その痛みに声が漏れそうになり、身体がギクリと硬直する。彼は手を止める事はなく、私の胸に顔を埋めた。手の動きは我武者羅で、水津の苛立ちを表しているようだ。
『うるさい、静かにしろ』
不意に、頭の中で水津の声が響いた。あの日、部屋で抱かれた時……。
「やめて……」
私はあの時の事を思い出していた。合意していたけれど、抱かれた痛みは忘れられなかった。
怖い……!
恐怖と頭の痛みで私は訳がわからなくなっていた。
悪意を向けられる事になれていても、痛みだけは簡単に思い出すことができるから。きっと、ずっと忘れられないだろう。
あの時も、押さえつけられて、人としての尊厳を奪われた。何を言ってもみんな私の事を無様だと嘲笑った。
……私はいつまでも地面に踏みつけにされる芋虫だ。
「……ぃや」
口から出たのは小さく喘ぐような息だけだ。せめて、頭痛さえなければ逃げられるのに、どれだけ我慢しても引くことはない。自然と目からは涙が溢れ出てきて、視界が滲んでいく。
「だったら、ダラダラしてないでさっさと、済ませましょう?」
もう、立っていられない。今は気力でなんとか持ちこたえていたが、私の両足は大きく震えていく。
「いや」
ポキリと心が折れるように、私は足の力が抜けてそのまま後方に倒れた。力なく転んだといっても身体をぶつけるのには変わらず、私は痛みを覚悟した。
「……」
しかし、痛みは襲って来なかった。水津が私を引き寄せるように床に降ろしてくれたおかげなのか、どうやら身体をぶつけないで済んだ。
「何、協力してくれるの?」
水津は愉しそうに笑い私の顔を見て、顔色を変えた。意地悪そうに引き上げられた唇は瞬く間に引き下がり、驚愕と不安が入り交じったような表情で私を見ている。
「あたまいたいの。やめて……おねがいよ。こわいの」
私は自分の年齢や役職なんて忘れて、水津の前だというのに恥を捨てて、舌足らずな言葉で訴える。
「うっ、うぅ」
顔が涙でぐちゃぐちゃだ。それなのに、涙は止まる様子がなくて、どうしたらいいのかわからない。
「凛子?大丈夫……!?」
水津が慌てて私の胸から顔と手を離した。
「もう、なに……もしな……い?」
私は怖くて涙声混じりで問いかけた。足には力が入らないくせに身体は痛みに怯えるように強張っている。
「ごめん、なにもしない。怖かったよね?」
水津は冷静になったようで、申し訳なさそうな表情で謝ってくれた。そのおかげでようやく私は身体の力を抜くことができた。
彼はアイツらとは違うんだ。そう思うと少しだけ安心できた。
水津は伸し掛かったままだが、その節くれ立った指が気遣わしげに私の頬を撫でてくれた。
私は水津の優しい手に安堵して目を閉じた。
彼は何もしない。きっと、大丈夫。そう思った矢先だった。
「何してるんですか……!?」
責め立てるような進藤の声がコピー室に響いた。
水津は子羊を見る狼のような目で私を見ている。
「お願い、やめて」
「何言ってるの?」
私は怖くなって身体を反らすが、水津は私の右手を離すと今度は私の後頭部を掴んだ。咄嗟に髪の毛を引っ張られると覚悟をしたが、そんな痛みはなかった。
その代わりに、頬にしっとりと濡れた息を感じて、反射的に目を閉じると頬に柔らかい唇の感触がした。
水津は表情とは裏腹に優しく私の顔に唇を降らせ続けた。その息に顔が濡れてしまいそうだ。
「貴女が俺の事どう思ってるのか、俺が一番知ってるから」
水津は切なそうに笑い、私の胸の上に手を乗せて服越しからやわやわと揉み始めた。
「お願い……、離して。人が来るから」
こんなのお互いのためにならない、もし、見付かったら。破滅が待っている。
私が冷静になってほしくて声をかけても、水津は構わない様子だった。
「だから何……?」
水津は大きく息を吐き出しながら、今度は私の胸を強く掴んだ。
「っ……」
その痛みに声が漏れそうになり、身体がギクリと硬直する。彼は手を止める事はなく、私の胸に顔を埋めた。手の動きは我武者羅で、水津の苛立ちを表しているようだ。
『うるさい、静かにしろ』
不意に、頭の中で水津の声が響いた。あの日、部屋で抱かれた時……。
「やめて……」
私はあの時の事を思い出していた。合意していたけれど、抱かれた痛みは忘れられなかった。
怖い……!
恐怖と頭の痛みで私は訳がわからなくなっていた。
悪意を向けられる事になれていても、痛みだけは簡単に思い出すことができるから。きっと、ずっと忘れられないだろう。
あの時も、押さえつけられて、人としての尊厳を奪われた。何を言ってもみんな私の事を無様だと嘲笑った。
……私はいつまでも地面に踏みつけにされる芋虫だ。
「……ぃや」
口から出たのは小さく喘ぐような息だけだ。せめて、頭痛さえなければ逃げられるのに、どれだけ我慢しても引くことはない。自然と目からは涙が溢れ出てきて、視界が滲んでいく。
「だったら、ダラダラしてないでさっさと、済ませましょう?」
もう、立っていられない。今は気力でなんとか持ちこたえていたが、私の両足は大きく震えていく。
「いや」
ポキリと心が折れるように、私は足の力が抜けてそのまま後方に倒れた。力なく転んだといっても身体をぶつけるのには変わらず、私は痛みを覚悟した。
「……」
しかし、痛みは襲って来なかった。水津が私を引き寄せるように床に降ろしてくれたおかげなのか、どうやら身体をぶつけないで済んだ。
「何、協力してくれるの?」
水津は愉しそうに笑い私の顔を見て、顔色を変えた。意地悪そうに引き上げられた唇は瞬く間に引き下がり、驚愕と不安が入り交じったような表情で私を見ている。
「あたまいたいの。やめて……おねがいよ。こわいの」
私は自分の年齢や役職なんて忘れて、水津の前だというのに恥を捨てて、舌足らずな言葉で訴える。
「うっ、うぅ」
顔が涙でぐちゃぐちゃだ。それなのに、涙は止まる様子がなくて、どうしたらいいのかわからない。
「凛子?大丈夫……!?」
水津が慌てて私の胸から顔と手を離した。
「もう、なに……もしな……い?」
私は怖くて涙声混じりで問いかけた。足には力が入らないくせに身体は痛みに怯えるように強張っている。
「ごめん、なにもしない。怖かったよね?」
水津は冷静になったようで、申し訳なさそうな表情で謝ってくれた。そのおかげでようやく私は身体の力を抜くことができた。
彼はアイツらとは違うんだ。そう思うと少しだけ安心できた。
水津は伸し掛かったままだが、その節くれ立った指が気遣わしげに私の頬を撫でてくれた。
私は水津の優しい手に安堵して目を閉じた。
彼は何もしない。きっと、大丈夫。そう思った矢先だった。
「何してるんですか……!?」
責め立てるような進藤の声がコピー室に響いた。
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