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「いや~、収まるところに収まりましたね」
スッと忍者のように現れた柏木が私に話しかけてきた。
「そ、そうね」
突然現れた柏木に驚きながら返事をする。
「でも、二人が急接近するとは思わなかったんだけどな、水津は全く相手にしてなかったし、最初からずっと後輩として可愛がってましたけど、それ以上には見えなかったんだけどな」
コピー室でキスしていた状況を見ていた私は柏木の見立てとの違いに驚く。
気配りのできる彼も恋愛ではその観察力は発揮できないのかしれない。
水津に彼女がいないと思っていた私はそれ以上に酷いと思うが。
「そうなの?」
「最近は、表面上じゃわからないけど。進藤さんにたいして面倒くさそうに接してたし」
全然気が付かなかった。しかし、たとえ好きでも進藤みたいな態度を取られ続けると疲れるのはわかる気がする。
「知らなかった」
「諦めたのかな。どうせ彼居なくなっちゃうし。進藤さんしつこそうだし」
なるほど、水津はあと2年すれば離れられるから付き合う事にしたかもしれない。
昨日の彼女の態度を思い出すと、キスして『やっぱり付き合いません』となったら彼女が何をするのか想像も出来ない。
仕事上は何もしていなくても、彼女は私の事を敵認識している。それが、水津に向かったら大変なことになりそうだ。
適当に付き合って自然消滅を狙っているのかもしれない。弄ばれたような形になる進藤は気の毒だけれど。
「確かに、ここで下手なことをして逆上したら大変ですものね」
柏木の意見に納得するしかなかった。
「本当にお疲れ様でしたね。二人に巻き込まれて」
「私はいいのよ。別にそれよりも柏木くんに迷惑かけてしまって申し訳ないなって思ってた」
寄りを戻すなら私を巻き込んで欲しくなかった。
しかも、これからずっと付き合っていく進藤に目の敵にされて何一ついいことなんてない。
進藤との付き合いも考えないといけないし悩みが増えた。
「凛子さんは、完全に被害者ですからね。何もしてないのに、あんなこと言われて、怒ってもいいくらいです!」
「私はいいのよ。慣れてるから」
「顔に出ないからといって、傷ついたり辛かったりする事はあるでしょう?」
「出せないでしょ。疲れてるとか辛いとかなんてね。大切な部下を不安がらせたくないわ」
疲れた顔や辛い顔をした上司は部下だって見たくないものだと思う。
「もっと僕も精進しないといけないですね」
柏木はボソリと何か呟いたが私には聞き取れなかった。
「何?」
「何でもないですよ。何があっても遠慮なく言ってくださいね。あと、僕も見て見ぬ振りはしません」
柏木は考えを読み取らせない笑みを浮かべた。
「これ以上頼りになったら私は降格ね」
しみじみと私が言うと、柏木は慌てて「そんなつもりないですからね!」と否定を始めた。
「凛子さんって面白いな、やっぱり」
柏木は楽しそうに笑い声を上げた。
柏木から私は言葉には出来ない何かを感じた。友情とかそういう類いのものだと思う。
「私が?面白い?」
堅物の私よりも柏木の方がずっと面白いと思うのだけれど。
「もっと話したいな」
その言葉尻には名残惜しさがふくまれているような気がした。
「ね、今度。そうですね。年末休み入って予定が空いてたら食事でもしませんか?」
ふと思い付いたように言う柏木の申し出に私は面食らう。しかし、話してみたい。という気持ちもあった。
進藤の事をどうしようか相談したかった。いつも自分でウジウジ悩むよりも他人の意見を聞いてみるのもありかもしれない。
「いいわね。それ、女子会っぽくて」
私が頷くと、柏木は目を見開いて驚いた表情になった。
それと、4月に異動になる柴多へのプレゼントを選ぶのも付き合って貰いつつ相談しよう。
「あと、お願いがあるんだけど、同期が異動するから何か渡したくて、買い物に付き合って欲しいんだけど」
「えぇ、構いません。僕が役にたてればいいけど」
柏木は面倒くさそうな表情をすることもなく、にっこり笑い頷いた。
良かった。面倒だと言われるかもしれないと思っていたので助かった。
柏木ならセンスのいいものを選んでくれそうな気がした。
「いや、助かる!女ならまだ大丈夫だけど、男の人って好みわからないし」
私の言葉に柏木は一瞬だけピキッと表情を凍りついたけれど元に戻った。
もしかしたら、独り身の私に春が来たと勘違いしているのかもしれない。
「同期って、柴多さん?」
確認するように柏木に聞かれたので、私は素直にそれを認めた。
「そうだけど。」
「じゃあ、一緒に選びましょうかね。役に立てるといいな」
柏木がやっぱり何を考えているのか読み取れない笑顔を私に向けて返事をした。
「分かりあえたら、僕達きっといい友達になれると思いますよ」
柏木は何を考えているのか読み取れない笑顔を私に向けた。
「そうね。きっと。私もそう思うわ」
柏木の言う通り私達はいい友達になれそうな気がした。予定は案外早く決まり。12月27日になった。
スッと忍者のように現れた柏木が私に話しかけてきた。
「そ、そうね」
突然現れた柏木に驚きながら返事をする。
「でも、二人が急接近するとは思わなかったんだけどな、水津は全く相手にしてなかったし、最初からずっと後輩として可愛がってましたけど、それ以上には見えなかったんだけどな」
コピー室でキスしていた状況を見ていた私は柏木の見立てとの違いに驚く。
気配りのできる彼も恋愛ではその観察力は発揮できないのかしれない。
水津に彼女がいないと思っていた私はそれ以上に酷いと思うが。
「そうなの?」
「最近は、表面上じゃわからないけど。進藤さんにたいして面倒くさそうに接してたし」
全然気が付かなかった。しかし、たとえ好きでも進藤みたいな態度を取られ続けると疲れるのはわかる気がする。
「知らなかった」
「諦めたのかな。どうせ彼居なくなっちゃうし。進藤さんしつこそうだし」
なるほど、水津はあと2年すれば離れられるから付き合う事にしたかもしれない。
昨日の彼女の態度を思い出すと、キスして『やっぱり付き合いません』となったら彼女が何をするのか想像も出来ない。
仕事上は何もしていなくても、彼女は私の事を敵認識している。それが、水津に向かったら大変なことになりそうだ。
適当に付き合って自然消滅を狙っているのかもしれない。弄ばれたような形になる進藤は気の毒だけれど。
「確かに、ここで下手なことをして逆上したら大変ですものね」
柏木の意見に納得するしかなかった。
「本当にお疲れ様でしたね。二人に巻き込まれて」
「私はいいのよ。別にそれよりも柏木くんに迷惑かけてしまって申し訳ないなって思ってた」
寄りを戻すなら私を巻き込んで欲しくなかった。
しかも、これからずっと付き合っていく進藤に目の敵にされて何一ついいことなんてない。
進藤との付き合いも考えないといけないし悩みが増えた。
「凛子さんは、完全に被害者ですからね。何もしてないのに、あんなこと言われて、怒ってもいいくらいです!」
「私はいいのよ。慣れてるから」
「顔に出ないからといって、傷ついたり辛かったりする事はあるでしょう?」
「出せないでしょ。疲れてるとか辛いとかなんてね。大切な部下を不安がらせたくないわ」
疲れた顔や辛い顔をした上司は部下だって見たくないものだと思う。
「もっと僕も精進しないといけないですね」
柏木はボソリと何か呟いたが私には聞き取れなかった。
「何?」
「何でもないですよ。何があっても遠慮なく言ってくださいね。あと、僕も見て見ぬ振りはしません」
柏木は考えを読み取らせない笑みを浮かべた。
「これ以上頼りになったら私は降格ね」
しみじみと私が言うと、柏木は慌てて「そんなつもりないですからね!」と否定を始めた。
「凛子さんって面白いな、やっぱり」
柏木は楽しそうに笑い声を上げた。
柏木から私は言葉には出来ない何かを感じた。友情とかそういう類いのものだと思う。
「私が?面白い?」
堅物の私よりも柏木の方がずっと面白いと思うのだけれど。
「もっと話したいな」
その言葉尻には名残惜しさがふくまれているような気がした。
「ね、今度。そうですね。年末休み入って予定が空いてたら食事でもしませんか?」
ふと思い付いたように言う柏木の申し出に私は面食らう。しかし、話してみたい。という気持ちもあった。
進藤の事をどうしようか相談したかった。いつも自分でウジウジ悩むよりも他人の意見を聞いてみるのもありかもしれない。
「いいわね。それ、女子会っぽくて」
私が頷くと、柏木は目を見開いて驚いた表情になった。
それと、4月に異動になる柴多へのプレゼントを選ぶのも付き合って貰いつつ相談しよう。
「あと、お願いがあるんだけど、同期が異動するから何か渡したくて、買い物に付き合って欲しいんだけど」
「えぇ、構いません。僕が役にたてればいいけど」
柏木は面倒くさそうな表情をすることもなく、にっこり笑い頷いた。
良かった。面倒だと言われるかもしれないと思っていたので助かった。
柏木ならセンスのいいものを選んでくれそうな気がした。
「いや、助かる!女ならまだ大丈夫だけど、男の人って好みわからないし」
私の言葉に柏木は一瞬だけピキッと表情を凍りついたけれど元に戻った。
もしかしたら、独り身の私に春が来たと勘違いしているのかもしれない。
「同期って、柴多さん?」
確認するように柏木に聞かれたので、私は素直にそれを認めた。
「そうだけど。」
「じゃあ、一緒に選びましょうかね。役に立てるといいな」
柏木がやっぱり何を考えているのか読み取れない笑顔を私に向けて返事をした。
「分かりあえたら、僕達きっといい友達になれると思いますよ」
柏木は何を考えているのか読み取れない笑顔を私に向けた。
「そうね。きっと。私もそう思うわ」
柏木の言う通り私達はいい友達になれそうな気がした。予定は案外早く決まり。12月27日になった。
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