41 / 70
41
しおりを挟む
「……なにを言ってるの?進藤さん」
水津は私を軽々と持ち上げてそのまま腕に抱き寄せた。人前だということも気にせずに。そして、なんの躊躇もなく私のスマホを返してくれた。
不思議そうに進藤とその友人を見て眉を寄せている。
「なぜ、凛子さんのスマホが必要なんだ?」
水津は何も知らないと言わんばかりの口調だ。私はそれに危うく騙されそうになる。そんな事ないのに。
「え……?」
進藤は信じられないと言わんばかりに水津を見ている。
その様子から、二人が私に何かしようと話し合っていた事は明白だった。
けれど、水津はなぜか彼女の味方をやめてしまった。
その理由はなんだろう。どれだけ考えてもその答えは出ない。私に出来るのは二人のやり取りを見守る事だけだ。
どちらの言い分が真実なのか見極めるために。
「いや、おかしいでしょう?なぜ、君が凛子さんのスマホを欲しがるの?意味がわからない」
水津は明らかに苛立っている様子だ。
「それは……」
進藤はそれに怯えながらも何か言おうと口を開く。
「借りるにしてもあまりにもやり方が乱暴だ」
水津は私の顔を覗き込む。そして、うっすらと浮かべていた笑顔がいきなり消えた。
「何されたの?」
水津は目を見開いて進藤に叩かれた痛む場所に微かに触れた。
「ねぇ、何で凛子さんの頬がこんなに赤いの?もしかして叩いた?」
進藤に向けた水津の声は圧し出したように低く、怒りを抑えているようにも聞こえる。
私は水津の声が怖くて顔を見ることができなかった。
「違うの。貴方が欲しがっていたスマホを渡したくて……」
進藤は水津の様子に慌てたように言い訳を始める。
指示されたようにその単語が出たということは、私の予想通りこの二人で何か弱味を捏造でもする気だったのかもしれない。
そうであったとしても、この場に私の味方になってくれそうな人は誰もいない。
あの女子社員は進藤側の人間だ。この後、事実無根な噂が流れても周囲の人間は私ではなく当事者が多い方を信じるのだろう。
婚約破棄された時と同じように……。
水津は私が怪我をさせられた事を怒っているようだが、それすらも演技のような気がした。
もう、終わりだ。と、私は破滅を覚悟した。
「何言ってるの?」
けれど、水津の返事は予想とは違うものだった。
「え?」
進藤は明らかに動揺したていた。まるで、そんな事を言われるなんて思いもしなかったように。
「俺がなんで凛子さんのスマホを欲しがるの?」
水津は淡々と問いただす。その口調はしらを切っているようにも、こんな事に巻き込まれて怒っているようにも感じとれた。
示し合わせて私の鞄をスマホをとるつもりだったのではないのか。
「水津さんがこの女に、スマホで弱みを握られて脅されて」
進藤はなぜか私が自分のスマホで何かをして水津を脅したと言い出した。
想像もしなかった言葉だったのでパニックになりそうだったが、とにかく自分に落ち着くように言い聞かせ頭の中を整理する。
進藤は私が水津の弱味を握って脅迫していると信じているようだ。
それは、彼女個人がそう思い込んでいるのか、水津にスマホで脅されていると言われたのかわからないけれど。
進藤の言い分だけでは判断ができなかった。
水津はなんとそれに答えるのだろうか。
「俺、凛子さんから脅迫なんてされたこと一度もないよ。何言ってるの?」
水津の軽蔑していると言わんばかりの口調に、進藤は固まる。
私は自分の予想が覆された事と、双方の言い分の食違いに戸惑う。
「だって、だから私と週末一緒に過ごしてくれないって」
進藤は今にも泣き出しそうな表情になり甘えた口調で水津にすがる。
「この女が水津さんを脅して関係を持ったんでしょう?私達、恋人同士なのに週末も一緒にいられないじゃない!」
進藤はまるで休日中の私たちの様子を見ているかのような口調だ。ショッピングモールで感じた視線は、進藤の事だったようだ。
だから、水津を助けるために、その脅しの元凶であるスマホを取ろうとしたのだろう。
それに対して水津はどう答えるのか、確かに進藤と水津が付き合っているという噂は流れていたし、キスをしているところを私は確かに見た。
水津はなんと答えるのだろう。
「それは、そうじゃないか、君はただの同僚なんだから」
彼は何を言っているのだろうか、進藤があれだけ訴えているのに、恋人同士だという事を根底から否定した。私も驚いてしまう。
「え……?」
進藤も泣き出しそうな表情を崩して、呆然とした様子で戸惑いの声をあげた。
「君と付き合ってると思った事なんてない」
「そんな、私の勘違いだっていうんですか?!」
進藤は水津の言い分に食ってかかる。
「否定しなかったのは君が何をするのかわからなかったからだよ。この前のコピー室の件だって物凄い剣幕で凛子さんを怒鳴り付けてきたじゃないか」
水津は進藤との関係を完全に否定した。
もしも、水津の言い分が事実なら、進藤の勘違いの暴走でかなりの迷惑をかけられ続けた事になる。
また何かされると思えば適当に話を合わせる方が穏便に済ませる事ができる。
だが、恋人同士にしか見えない二人を見ていた私からしたら、それが水津の言い訳のように見える。
「……今日だって無関係な凛子さんに怪我をさせているし、君がこうだから適当に妄想に付き合っていたんだよ」
「この女のせいで水津さんは嫌な思いをしているんでしょう?」
「それ、本気で言ってるの?」
冷たく突き放すような言葉を彼は進藤に投げ掛けた。その様子は今まで仲睦しい恋人同士だった事が嘘のようだ。
「当然じゃない。私達、キスしたし付き合っているじゃない!」
水津は私を軽々と持ち上げてそのまま腕に抱き寄せた。人前だということも気にせずに。そして、なんの躊躇もなく私のスマホを返してくれた。
不思議そうに進藤とその友人を見て眉を寄せている。
「なぜ、凛子さんのスマホが必要なんだ?」
水津は何も知らないと言わんばかりの口調だ。私はそれに危うく騙されそうになる。そんな事ないのに。
「え……?」
進藤は信じられないと言わんばかりに水津を見ている。
その様子から、二人が私に何かしようと話し合っていた事は明白だった。
けれど、水津はなぜか彼女の味方をやめてしまった。
その理由はなんだろう。どれだけ考えてもその答えは出ない。私に出来るのは二人のやり取りを見守る事だけだ。
どちらの言い分が真実なのか見極めるために。
「いや、おかしいでしょう?なぜ、君が凛子さんのスマホを欲しがるの?意味がわからない」
水津は明らかに苛立っている様子だ。
「それは……」
進藤はそれに怯えながらも何か言おうと口を開く。
「借りるにしてもあまりにもやり方が乱暴だ」
水津は私の顔を覗き込む。そして、うっすらと浮かべていた笑顔がいきなり消えた。
「何されたの?」
水津は目を見開いて進藤に叩かれた痛む場所に微かに触れた。
「ねぇ、何で凛子さんの頬がこんなに赤いの?もしかして叩いた?」
進藤に向けた水津の声は圧し出したように低く、怒りを抑えているようにも聞こえる。
私は水津の声が怖くて顔を見ることができなかった。
「違うの。貴方が欲しがっていたスマホを渡したくて……」
進藤は水津の様子に慌てたように言い訳を始める。
指示されたようにその単語が出たということは、私の予想通りこの二人で何か弱味を捏造でもする気だったのかもしれない。
そうであったとしても、この場に私の味方になってくれそうな人は誰もいない。
あの女子社員は進藤側の人間だ。この後、事実無根な噂が流れても周囲の人間は私ではなく当事者が多い方を信じるのだろう。
婚約破棄された時と同じように……。
水津は私が怪我をさせられた事を怒っているようだが、それすらも演技のような気がした。
もう、終わりだ。と、私は破滅を覚悟した。
「何言ってるの?」
けれど、水津の返事は予想とは違うものだった。
「え?」
進藤は明らかに動揺したていた。まるで、そんな事を言われるなんて思いもしなかったように。
「俺がなんで凛子さんのスマホを欲しがるの?」
水津は淡々と問いただす。その口調はしらを切っているようにも、こんな事に巻き込まれて怒っているようにも感じとれた。
示し合わせて私の鞄をスマホをとるつもりだったのではないのか。
「水津さんがこの女に、スマホで弱みを握られて脅されて」
進藤はなぜか私が自分のスマホで何かをして水津を脅したと言い出した。
想像もしなかった言葉だったのでパニックになりそうだったが、とにかく自分に落ち着くように言い聞かせ頭の中を整理する。
進藤は私が水津の弱味を握って脅迫していると信じているようだ。
それは、彼女個人がそう思い込んでいるのか、水津にスマホで脅されていると言われたのかわからないけれど。
進藤の言い分だけでは判断ができなかった。
水津はなんとそれに答えるのだろうか。
「俺、凛子さんから脅迫なんてされたこと一度もないよ。何言ってるの?」
水津の軽蔑していると言わんばかりの口調に、進藤は固まる。
私は自分の予想が覆された事と、双方の言い分の食違いに戸惑う。
「だって、だから私と週末一緒に過ごしてくれないって」
進藤は今にも泣き出しそうな表情になり甘えた口調で水津にすがる。
「この女が水津さんを脅して関係を持ったんでしょう?私達、恋人同士なのに週末も一緒にいられないじゃない!」
進藤はまるで休日中の私たちの様子を見ているかのような口調だ。ショッピングモールで感じた視線は、進藤の事だったようだ。
だから、水津を助けるために、その脅しの元凶であるスマホを取ろうとしたのだろう。
それに対して水津はどう答えるのか、確かに進藤と水津が付き合っているという噂は流れていたし、キスをしているところを私は確かに見た。
水津はなんと答えるのだろう。
「それは、そうじゃないか、君はただの同僚なんだから」
彼は何を言っているのだろうか、進藤があれだけ訴えているのに、恋人同士だという事を根底から否定した。私も驚いてしまう。
「え……?」
進藤も泣き出しそうな表情を崩して、呆然とした様子で戸惑いの声をあげた。
「君と付き合ってると思った事なんてない」
「そんな、私の勘違いだっていうんですか?!」
進藤は水津の言い分に食ってかかる。
「否定しなかったのは君が何をするのかわからなかったからだよ。この前のコピー室の件だって物凄い剣幕で凛子さんを怒鳴り付けてきたじゃないか」
水津は進藤との関係を完全に否定した。
もしも、水津の言い分が事実なら、進藤の勘違いの暴走でかなりの迷惑をかけられ続けた事になる。
また何かされると思えば適当に話を合わせる方が穏便に済ませる事ができる。
だが、恋人同士にしか見えない二人を見ていた私からしたら、それが水津の言い訳のように見える。
「……今日だって無関係な凛子さんに怪我をさせているし、君がこうだから適当に妄想に付き合っていたんだよ」
「この女のせいで水津さんは嫌な思いをしているんでしょう?」
「それ、本気で言ってるの?」
冷たく突き放すような言葉を彼は進藤に投げ掛けた。その様子は今まで仲睦しい恋人同士だった事が嘘のようだ。
「当然じゃない。私達、キスしたし付き合っているじゃない!」
13
あなたにおすすめの小説
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
本日、貴方を愛するのをやめます~王妃と不倫した貴方が悪いのですよ?~
なか
恋愛
私は本日、貴方と離婚します。
愛するのは、終わりだ。
◇◇◇
アーシアの夫––レジェスは王妃の護衛騎士の任についた途端、妻である彼女を冷遇する。
初めは優しくしてくれていた彼の変貌ぶりに、アーシアは戸惑いつつも、再び振り向いてもらうため献身的に尽くした。
しかし、玄関先に置かれていた見知らぬ本に、謎の日本語が書かれているのを見つける。
それを読んだ瞬間、前世の記憶を思い出し……彼女は知った。
この世界が、前世の記憶で読んだ小説であること。
レジェスとの結婚は、彼が愛する王妃と密通を交わすためのものであり……アーシアは王妃暗殺を目論んだ悪女というキャラで、このままでは断罪される宿命にあると。
全てを思い出したアーシアは覚悟を決める。
彼と離婚するため三年間の準備を整えて、断罪の未来から逃れてみせると……
この物語は、彼女の決意から三年が経ち。
離婚する日から始まっていく
戻ってこいと言われても、彼女に戻る気はなかった。
◇◇◇
設定は甘めです。
読んでくださると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる