私のことは愛さなくても結構です

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悪夢2

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サブリナの悪夢2

 結婚式当日。
 意にそぐわない結婚式だったのだろう。ジークムントは私を見ようともしなかった。
 その代わり、彼は別の人を見ていた。

 アルネだ。

 アルネは、真っ白なワンピースを着ていた。
 そのワンピースは、私が着ているウエディングドレスよりもずっと手の込んだ作りになっていた。
 ウエディングドレスに見えないように仕立て直したのだろう。
 それでも、彼女の美しさが際立っていた。
 華奢な指に輝いて見えるのは、ジークムントと同じ色のブルーダイアモンドの指輪だった。
 クラウスが隣にいたら空気の読めない参列者に見えたはずだろう。
 けれど、この日、クラウスは血を吐いて寝込んでいた。

 私はまるで引き立て役のように、ジークムントの隣に立っている。

 アルネは、花婿が迎えに来てくれるのを待つ花嫁のように綺麗だった。

 これじゃあ、どっちが花嫁かわからないわね。

 怒る気力もなかった。ただ、悲しかった。
 天国のクラリスも私の姿を見て悲しんでいる気がしたからだ。

 泣きたい気持ちを抑えて、結婚式を終えた。

 手伝いもなくドレスを脱いで、部屋で寛いでいると唐突に扉が開いた。

「……あの」

 そこにいたのはアルネで今にも泣き出しそうな顔で私を見ている。

「あの、何か?」
「私、知らなくて、白いドレスを着たらいけない事を」
「それが何か?」
「使用人が用意してくれたから、それを着たのよ。そんなつもりじゃなかったんです」

 まるで、何も知らなかったかのような口ぶりだ。
 ……いや、公爵家にいた時はとても甘やかされていた。と聞いた事があるので、もしかしたら本当に知らなかったのかもしれない。

「だから、それが何だというんですか?貴女が何一つ悪くないと言えばそれで満足ですか?」

 いまは話したくないという気持ちが強くて、嫌な物言いをしてしまう。
 けれど、嫌な気分にさせられたのは事実で、許したくないけれど、どうせ許さなくてはいけなくなるのだ。
 ならば、せめて、相手にとって嫌な気分にさせてやりたかった。

「その物言いは何なんですか!私たちの失敗をアルネ様は謝るために来たというのに」

 使用人が、まるで私が悪いかのような怒り方をした。

「……王族の結婚式でも同じ間違いをするんですか?その尻拭いをアルネ嬢にさせるつもりなんですか?」
「わ、わたしが悪かったんです」

 使用人に言い返すと、アルネはハラハラと涙を流して、自分が悪いと言い出した。
 もう、話にならない。

「何の騒ぎだ?」

 そこに、ジークムントがわざわざやってきた。
 何しに来たのだろうか。

「おぼっちゃま、そのサブリナ嬢がアルネ様に……」

 使用人は私が全て悪いかのようにジークムントに説明した。
 今まできっとこんな感じで、私の事を貶めて来たのだろうか。
 でも、どうでもいい。

「サブリナ、君からも説明を……」

 ジークムントがなぜか私に説明をするように言ってきた。
 どうせ信じないくせに。自分が悪者になりたくないからそう言ってきたのだろうか。

「あら、そんな必要あります?大好きな使用人の言う事だけ信じていればいいと思いますよ。貴方に何か言うだけ時間の無駄ですから。あの、うるさいのでどこかに行ってもらえますか?」
「サブリナ、私を許してくれる?」

 アルネは、私の頼みを無視してそう言ってきた。

「許さないとどうせ泣き出すんでしょう?話し合うだけ無駄なので許しますよ。ええ、貴女はそうやって死ぬまで自分の手を汚さず被害者でいればいいわ。偽善者」
「……」

 何が言いたげな顔のジークムントを無視して私はみんなを追い出した。

 とにかく虚しかった。

 数日後、両親から手紙が届いた。
 私の結婚式があまりにも酷くて心配になったのだろう。
 帰ってきてもいい。と言われてその言葉に縋りつきたくなった。
 けれど、それはできなかった。
 クラウスの体調があまり良くないのだ。

 
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