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絶望
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サブリナの絶望
クラウスの容態は日に日に悪くなっていった。
「クラウス様」
「やあ、もう実家に帰ったらどうだい?」
「帰るわけにはいきませんわ」
クラウスの軽口に私は首を振る。
「毎日のように来てくれて、どっちが妻かわからないね。まあ、僕がアルネに来ないでくれって頼んでいるんだけどね」
弱った姿を見せたくないのだろう。
クラウスは、冗談めかしてそう言う。
「……あのさ、僕が死んだら帰った方がいいよ」
澄んだ青い目が私を見据えている。
純粋な心配から言っていることに気がついた。
彼が、彼だけが私に優しくしてくれたのだ。
せめて、最後まではそばにいたかった。
けれど、クラウスはあっけなく亡くなった。
これ以上に、耐えがたい苦しみを味わったのは、クラリスを亡くした時以来だった。
熱を出した彼女の看病をしている間に、うたた寝をしていて、気がついたらクラリスは冷たくなっていた。
「クラウス様」
アルネがポロポロとクリスタルのような涙を流して、クラウスを亡くしたことを悲しんでいる。
でも、わたしにはそれが演技にしか見えなくなっていた。
なぜなら、アルネとジークムントにとっての邪魔者は、クラウスと私なのだから。
クラウスの葬儀も終わり落ち着いた頃に、アルネが毒を飲み苦しんでいると知った。
その薬を飲ませたのは私らしい。
なんでも、アルネの近しい侍女が私に脅されてやったそうだ。
それに、私の家族も絡んでいるようだ。
当然身に覚えがない。
何もかも全てが馬鹿馬鹿しくなっていた。
「サブリナ、話をしてくれないか?本当の事を話してくれたら死なずに助ける事ができる」
私がやったと信じて疑わない口調。
「貴方と話す意味がありますか?どうせ親しい人の言う事しか信用しないのでしょう?時間の無駄だわ。さっさと殺しなさいよ」
「……」
「貴方とアルネがお互いに配偶者がいるくせに思い合ってるのを私は知っているわ。汚らしい」
「……!」
「人を裏切って、汚らしい人たちね。こうならないように行動だってできたはずなのに、恥ずかしくないのかしら?」
「この……!」
ジークムントは、私の腕を掴むと地下牢へと連れて行った。
「本当の事を話せば助けてやるから」
何を言っているのだろうか、人の話など聞かない偽善者のくせに!
だったら、私は……。
「どうしてっ、許さない!アルネを殺してやる!」
ジークムントを愛するふりをして、殺されてやろうと思った。
後になって自分たちがした仕打ちを知ればいい。
調査をすれば偽造した証拠の粗など全て見つかるはずだ。
「君を愛さなかった事は、申し訳ないと思っている」
やっと聞けたジークムントの本音に、私は声を出して笑いそうになった。
人の人生を巻き込んで、何人もの人を不幸にして成り立つ幸せなど存在しない!
「偽善者、そうやって死ぬまで他人のせいにして生きていろ!」
「アルネを手にかけようとしたことは許せない」
ジークムントは、腰にかけていた剣を取り出して瞬く間に私の首に剣先が届く。
全てが終わると思った瞬間。
走馬灯が流れた。
自分の人生に絶望はない。生きる気力も死ぬ気力もなかったから。
後悔と深い絶望があるとしたら、それはクラリスだ。
ひっそりと息を引き取ったあの子。
誰よりも大切な一目見ただけで愛さずにはいられないあの子。
何よりも大切なあの子。
……誰か助けて欲しい。私を助けて欲しいのではない。クラリスを助けて欲しい。
私は死んで消えてしまってもいい。
私は、誰からも、クラリスからも愛されなくても結構だ。
誰でもいいから、あの子を助けて、そして、誰よりもあの子を愛してほしい。
クラリスがくれた指輪がある場所が熱くなった気がした。
首と胴が離れたのを感じた。
視界はすぐに真っ暗になり。意識は光に包まれた。
意識が光に溶け込む瞬間。
なぜわからないけれど、誰かが私に「なり損ないの魔女、君の願いは聞き入れた。対価はもらうけど」と声をかけてくれたような気がした。
再び目を覚ました時、私は私になっていた。
正確に言えば、私の意識の一部になっていたのだ。
私の体には別の意識が入っていた。
そして国王からの縁談話が持ち込まれた日、私は私の中に完全に取り込まれた……。
「クラリス!」
私は勢いよく飛び起きた。
頭は恐ろしいほどにクリアになっていて、今なら大嫌いな数学の文章問題もスラスラと解けそうな気がする。
ガチャリと唐突にドアが開いた。
ドアを開けたのは、いつもお世話になっている使用人で、笑顔で「おはよう」と声をかけると、人ができないような顔芸をした。
「ぎぁぁぁあ!?」
使用人は断末魔のような悲鳴をあげて部屋から飛び出して行った。
「元気ねぇ」
何も知らない私は呑気にそんな事を呟いていた。
~~~
魔女が異世界から連れてきた。逆境に強い屈強な別人の魂だったってオチでした。
クラウスの容態は日に日に悪くなっていった。
「クラウス様」
「やあ、もう実家に帰ったらどうだい?」
「帰るわけにはいきませんわ」
クラウスの軽口に私は首を振る。
「毎日のように来てくれて、どっちが妻かわからないね。まあ、僕がアルネに来ないでくれって頼んでいるんだけどね」
弱った姿を見せたくないのだろう。
クラウスは、冗談めかしてそう言う。
「……あのさ、僕が死んだら帰った方がいいよ」
澄んだ青い目が私を見据えている。
純粋な心配から言っていることに気がついた。
彼が、彼だけが私に優しくしてくれたのだ。
せめて、最後まではそばにいたかった。
けれど、クラウスはあっけなく亡くなった。
これ以上に、耐えがたい苦しみを味わったのは、クラリスを亡くした時以来だった。
熱を出した彼女の看病をしている間に、うたた寝をしていて、気がついたらクラリスは冷たくなっていた。
「クラウス様」
アルネがポロポロとクリスタルのような涙を流して、クラウスを亡くしたことを悲しんでいる。
でも、わたしにはそれが演技にしか見えなくなっていた。
なぜなら、アルネとジークムントにとっての邪魔者は、クラウスと私なのだから。
クラウスの葬儀も終わり落ち着いた頃に、アルネが毒を飲み苦しんでいると知った。
その薬を飲ませたのは私らしい。
なんでも、アルネの近しい侍女が私に脅されてやったそうだ。
それに、私の家族も絡んでいるようだ。
当然身に覚えがない。
何もかも全てが馬鹿馬鹿しくなっていた。
「サブリナ、話をしてくれないか?本当の事を話してくれたら死なずに助ける事ができる」
私がやったと信じて疑わない口調。
「貴方と話す意味がありますか?どうせ親しい人の言う事しか信用しないのでしょう?時間の無駄だわ。さっさと殺しなさいよ」
「……」
「貴方とアルネがお互いに配偶者がいるくせに思い合ってるのを私は知っているわ。汚らしい」
「……!」
「人を裏切って、汚らしい人たちね。こうならないように行動だってできたはずなのに、恥ずかしくないのかしら?」
「この……!」
ジークムントは、私の腕を掴むと地下牢へと連れて行った。
「本当の事を話せば助けてやるから」
何を言っているのだろうか、人の話など聞かない偽善者のくせに!
だったら、私は……。
「どうしてっ、許さない!アルネを殺してやる!」
ジークムントを愛するふりをして、殺されてやろうと思った。
後になって自分たちがした仕打ちを知ればいい。
調査をすれば偽造した証拠の粗など全て見つかるはずだ。
「君を愛さなかった事は、申し訳ないと思っている」
やっと聞けたジークムントの本音に、私は声を出して笑いそうになった。
人の人生を巻き込んで、何人もの人を不幸にして成り立つ幸せなど存在しない!
「偽善者、そうやって死ぬまで他人のせいにして生きていろ!」
「アルネを手にかけようとしたことは許せない」
ジークムントは、腰にかけていた剣を取り出して瞬く間に私の首に剣先が届く。
全てが終わると思った瞬間。
走馬灯が流れた。
自分の人生に絶望はない。生きる気力も死ぬ気力もなかったから。
後悔と深い絶望があるとしたら、それはクラリスだ。
ひっそりと息を引き取ったあの子。
誰よりも大切な一目見ただけで愛さずにはいられないあの子。
何よりも大切なあの子。
……誰か助けて欲しい。私を助けて欲しいのではない。クラリスを助けて欲しい。
私は死んで消えてしまってもいい。
私は、誰からも、クラリスからも愛されなくても結構だ。
誰でもいいから、あの子を助けて、そして、誰よりもあの子を愛してほしい。
クラリスがくれた指輪がある場所が熱くなった気がした。
首と胴が離れたのを感じた。
視界はすぐに真っ暗になり。意識は光に包まれた。
意識が光に溶け込む瞬間。
なぜわからないけれど、誰かが私に「なり損ないの魔女、君の願いは聞き入れた。対価はもらうけど」と声をかけてくれたような気がした。
再び目を覚ました時、私は私になっていた。
正確に言えば、私の意識の一部になっていたのだ。
私の体には別の意識が入っていた。
そして国王からの縁談話が持ち込まれた日、私は私の中に完全に取り込まれた……。
「クラリス!」
私は勢いよく飛び起きた。
頭は恐ろしいほどにクリアになっていて、今なら大嫌いな数学の文章問題もスラスラと解けそうな気がする。
ガチャリと唐突にドアが開いた。
ドアを開けたのは、いつもお世話になっている使用人で、笑顔で「おはよう」と声をかけると、人ができないような顔芸をした。
「ぎぁぁぁあ!?」
使用人は断末魔のような悲鳴をあげて部屋から飛び出して行った。
「元気ねぇ」
何も知らない私は呑気にそんな事を呟いていた。
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