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2章
31.
しおりを挟む「申し上げます!モーリス子爵が数日前から行方不明との事です!」
騎士の言葉に部屋全体が緊張感に包まれる。
いなくなったって、逃げたってこと!?
「なっ!それは本当か!?」
「はい。子爵夫人の話では、今までも1~2日帰らない事はあったそうですが、もう1週間程帰宅していないようです。」
「ライアン、ニコラス。モーリス子爵を最近城で見たか?」
「いえ、最近は執務室に篭っておりましたので・・・。」
「俺も見ていない。表彰式や剣舞の確認で演習場で過ごす事が多かったからな。式典前で城の中も慌ただしくしていたし、モーリス子爵の動向を確認できていなかった・・・!」
2人の発言に陛下の表情がより一層険しくなる。そして、今後の方針を定める為に父様と共に部屋を出て行った。
ライアン様は騎士団総動員での捜索を命じ、各隊の捜査場所や配列等を決める為、騎士団の詰所へとレイドを含め戻っていく。
現段階では、モーリス子爵が逃げたのか、何者かによって連れ去られたのか判断する事ができない。子爵夫人が嘘をついて匿っている可能性もあるし、そもそも1週間も前からいないとなると、今頃国外に逃亡しているかもしれない。
目の前で慌ただしく繰り広げられる展開に、私はただ立ち尽くす事しか出来ずに次々と悪い方へと考えてしまう。
くい、と服の裾を引っ張られ我に返ると、マーリャ様が不安そうに私を覗き込んでいる。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
いけない。マーリャ様にまで心配をかけてしまった。むしろ今の状況はマーリャ様の方が心細いはずなのに。私が弱っている場合じゃないわ。
「大丈夫です。マーリャ様は、私と一緒にここで待ちましょうね。」
子どもの私に出来る事は何もない。勝手な行動をした結果、先程迷惑をかけたばかりなのだから。
私が安心させるように微笑むと、マーリャ様がコクンと頷く。
「俺もいる。不安に思う事があるのなら、俺に吐き出せば良い。」
セリオス様が私の正面へと歩いてくる。その強い眼差しは、私の心を見透かしているようだ。
「1人で抱え込まないでくれ。何かあれば俺を頼ってほしい。」
「・・・ふふっ。」
「何かおかしかったか?」
「いえ、以前レイドにも同じ事を言われたなと思いまして。」
「・・・そうか。レイドに先を越されたか。」
セリオス様は少し拗ねたような顔をする。こういう所は年相応というか、可愛らしいなと思う。
その後、私は迎えの馬車が来て屋敷へと帰る事になった。マーリャ様は、今塔に戻るのは危険だという事で、暫くはセリオス様の私室で過ごす事になったらしい。王室の警備も更に強化された。
父様は当分の間帰れないそうで、ケイトが寂しそうにしている。早く捕まってほしいという願いも虚しく、時間だけが過ぎていった。
セリオス様やレイドも自分の出来る範囲で動いているようだし、何もできない自分がもどかしい。
「お嬢様、お見えになりました。」
「今行くわ。」
リンナから声がかかり、定期的に報告に来てくれるレイドを客間へと案内する。
「モーリス子爵の行方はまだ分からないのよね。」
「ああ、リンナにも協力してもらって子爵家の中も隈なく探したけど、見つからなかった。もしかすると、もうこの国にはいないのかもな。」
「そう・・・。」
あれからひと月が経ち、騎士団は日夜問わず捜索を続けているが、未だに何の手掛かりも掴めないでいた。どこへ逃げたか分からない状態で他国へ要請するわけにもいかないし、捜索範囲を広げようにも情報が少なすぎる。
騎士団の中にもだんだんと諦めムードが広がっているらしい。
「俺は絶対に諦めねーけどな。」
「私もよ。何もできなくて申し訳ないけど。」
「そんな事ねーよ。こうやって話聞いてもらうだけで俺は落ち着けるんだよ。」
「それなら良かった。」
サリー様の話を聞いて以降、自分の気持ちに整理をつける間もなく捜査に駆り出されているレイドには、今この場だけでも気負う事なく過ごしてほしい。
「そういえば今日はリンナにも話があるんだった。」
「リンナに?」
レイドはリンナが実の叔母だと知って以来、若干気まずそうにしていた。まぁ、父親の恋人じゃないかと盛大に勘違いしていたものね。
その誤解ももう解けたし、モーリス子爵の事でまだ聞きたい事でもあるのかと首を傾げると、レイドが寂しげに笑う。
「ああ。実は俺、母さんの墓参りに行った事がなくてさ。リンナに場所を聞きたかったんだ。今の状況じゃ父さんに聞けそうもないしな。」
「そう・・・ねぇレイド、そのお墓参りに私も一緒に行ってもいい?」
「え、別に構わねーけど。んじゃ、セリオスも誘ってみるか。」
「そうしましょう。」
セリオス様もサリー様のお墓に手を合わせたいはずだ。
私はしばらく予定もないので、レイドがセリオス様と予定を合わせてまた来てくれる事になった。
帰る時間になり、レイドがここまででいいと言うので玄関で見送る。
「墓参りの日までに捕まえたいけどな。母さんに良い報告をしたいし。」
「そうね。でも身体も大切にしてね。最近あまり寝てないんじゃない?何だか顔色が良くない気がするもの。レイドが倒れたら意味ないのよ?」
「・・・ばれてたか。リザベルには敵わねーな。分かった。ちゃんと寝るようにするよ。」
「絶対よ。」
「ああ、約束する。」
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「おい!話が違うじゃないか!」
「話?何の事だ。」
「ふざけるな!お前の指示通り、金で雇った奴らにガキを拐うよう命令もした!」
「だが失敗している。」
「っ!それは、私のせいじゃない!」
「まぁそんな事はどうでもいい。アーガス伯爵家から資金援助がなくなったと泣きついてきたから、利用できるうちは金を融通してやっただけだ。だがもうお前に用はない。ああ、貸した金は返さなくても良いぞ。当主がいなくなった後はさぞ大変だろうからなぁ。」
「ま、まて。私をどうする気だ?」
「娘の元へ行かせてやるんだ。有り難く思うんだな。」
「まさか、サリーもお前が・・・?」
痩せぎすの男が、これから自分の身に起こるだろう結末を想像してガタガタと震える。
目の前の男はにやりと笑うと、これでもう話は終わりだと言わんばかりに扉の取っ手を握る。
「本当に目障りな親子だ。さっさと私の前から消えろ。」
そうして扉は固く閉ざされ、男の叫びは最後まで誰の耳にも届く事はなかった。
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