婚約破棄された令嬢の細やかな異世界生活

20

　第二王子アーガイル様に従って私たちは進行を開始した。

「正義を貫く者はこの私に続け！」

　アーガイル様は叫んだ。王宮に入る前に他の兵士たちも合流した。馬を2頭準備していた。

「カナエ殿は・・・乗馬が得意であったな？」

　確かに昔は良く乗馬をやっていた。公爵家の広大な敷地で馬と遊ぶことが多かったから・・・最近はほとんど乗らなくなったけれども。順番的にはアーガイル様が乗馬されて、その次はやはり私であった。

「怖くはないのか？」

　シュトルツが尋ねる。

「まあ、乗るくらいなら、そんなに難しくはないけれど・・・」

　私はゆっくりと馬に乗り掛かった。景色が少し変わった。なんとなく子供の頃の思い出が蘇った。今はもう全て失い、取り戻すことはできないのだが。

「カナエ様、かっこいいですわっ！」

　カレンが言った。かっこいいのか？私には分からなかった。

「さてさて・・・それでは我に続けっ！」

　アーガイル様が叫び、兵が動き始めた。

「こう言う展開を待っていたのよ！」

　カレンもまた血気盛んな娘になっていた。

「この貴族社会に大きな穴を開けてやるんだからっ！」

「そう言うことだったら、私も協力するぞっ！」

　シュトルツもまた、期待しているようだった。

　最初は100名程度の数であったが所々で兵隊や恐らくは一般市民と思われるが、武器を持った者たちも列に加わって最終的には大きな群衆となった。私は懐から小刀を取り出した。公爵家に伝わる伝統的な小刀・・・自ら最期を迎える時に用いる物であった。

「私に最後の力を与えくださいませっ・・・」

　私は小刀の鋒に口付けをした。

「わあっ、やっぱりカナエ様はカッコいいですうっ！」

　カレンはどうやら、私の姿に惚れ込んでいるようだった。

「バカなこと言っていないで・・・このままアーガイル様に続くわよっ！」

　久しぶりの乗馬であったが、私は馬の息遣いを感じ取ることが出来た。最期を迎える時まで、このまま私を導いてくれることを確信した。