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その2

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王宮の間……王家の人間がパーティーなどを主催する時以外は、立ち入ることができないとされている空間だった。贅沢にあつらえられた調度品や絵画は、この世界の繁栄と美しさを物語っていた。

ファンコニーの招きで、リンプルは王宮の間に足を踏みいれた。今までパーティーに招待されたとしても、実際に参加することなんてなかったから、今回が初めてだった。

「君がリンプル君かね?」

「まあ、なんて可愛らしいのでしょう!」

部屋の一番奥に、二人の姿があった。ファンコニーの父と母、つまり、皇帝陛下と皇后陛下であった。

リンプルは、二人から大部間合いをとって、深々とお辞儀をした。

「お初にお目にかかります。15代公爵ボアジエが長女リンプルでございます」

リンプルは、あまりに緊張しすぎて、正式な挨拶をこれ以上続けることができなかった。本来ならば、この後、麗しき皇帝皇后陛下……云々と続いていくのだが、頭が真っ白になってしまったので、そのままとどまっていた。

「硬い挨拶はいらないよ。さあ、こっちに来てくれたまえ……」

皇帝陛下がそっと手招きした。リンプルは、ファンコニーの顔を見た。

「さあ、前に出て!」

ファンコニーに促されて、リンプルは皇帝陛下との距離を1メートルほどに詰めた。

「どうしたんだ?ほら、もっと近づいてごらんよ!」

「あなた!リンプルちゃんの顔を見て御覧なさい!緊張してらっしゃるんですよ!ほら、もっと笑顔で!」

皇后陛下が、皇帝陛下に注意した。リンプルにはすごく不思議な光景に見えた。

「そうか、すまないね。ほら、リンプル君。私の脈をとってくれないかい?」

突然の提案に、リンプルは再び頭が真っ白になった。

「どうしたんだい?さあ、君は薬師なんだろう?お願いするよ」

皇帝陛下は、リンプルの前に太い腕を出した。

「リンプル!父上の脈をとってくれないかい?」

ファンコニーにそう促されて、リンプルは極度の緊張をもったまま、中指、薬指、人差し指で脈をとった。

「……どうかな?」

「はい!あの……少しだけ脈の立ち上がりが遅いと思うんですが……ひょっとして、普段から息切れなどを自覚されていらっしゃいますか?」

リンプルがこう言うと、二人は目を見合わせた。

「どうして分かるんだい?」

「いえ、なんとなく私の指が語っているんです。薬をお出ししましょう。そうじゃないと、そのうち心臓の機能が落ちてしまいます!」

リンプルは、薬草の入った小さな箱から幾つか取り出して、薬を生成した。

「私が作る薬を飲み続けけてくだされば、これ以上心臓は悪くなりません。ご安心ください!」

薬師の仕事モードに入ると、リンプルはそれまでの緊張を忘れて、立派な仕事を成し遂げた。

「はははは……ファンコニー。文句の付け所がないな!」

「父上、それでは、認めてくださるのですか?」

「ああ、長年ファンコニーの薬師として仕えてくれたことだけでも、婚約に値すると思うが、リンプル君はそれ以上だな……。いや、恐れ入ったよ!」

「それに……こんなに小さくて可愛いお嬢ちゃんなんですもの、私も気に入ったわ!」

皇后陛下が、リンプルをぎゅっと鷲掴みにした。

「皇后陛下……!くるしいですぅ…………」

「あらあら?私のことはお母さんって呼んでいいのよ?」

皇后陛下もまた、ファンコニーとリンプルが婚約することに大層満足なようだった。

「どうだね?リンプル。君は私たちからこれだけ歓迎を受けても、まだ断ると言うのかね?」

しかし、やはり一人で決められる問題ではなかった。

「一度、家族で相談してまいります!皇帝陛下、私にしばしのお暇をお与えください!」

「いいだろう!いい返事を待っているぞ!」

こうして、リンプルはボアジエ公爵の元へ一度帰ることになった。
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