クトゥルフの魔法少女アイリスの名状しがたき学園生活

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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第二話 其は狂おしく美しい花の女王なり (5)

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   ◆◆◆

 昼食後は訓練が別のものに変更された。
 熱い砂浜の上で、ブルーンヒルデさんはこう言った。

「まずは、今のあなたの能力や素質を調べさせてもらうわ」

 どうやって? それをわたしが尋ねるより早く、ブルーンヒルデさんは既に始めていた。
 ブルーンヒルデさんの周りに何かが集まってくる。
 見えない。でも感じ取れる。
 多く、大きい。島中から見えない何かがブルーンヒルデさんのもとに集合している。
 その集合が完了した気配と共に、ブルーンヒルデさんは再び口を開いた。

「見えてはいないけど感じ取れてはいるようね。わかりやすいように、光魔法で色をつけてあげるわ」

 その言葉の直後、小さな熱風がわたしの体を撫でた。
 何の風? それを考える間も無く、周囲の景色は変わり始めた。
 見えない何かが七色に輝き始め、周囲の景色を埋め尽くす。
 姿を現したそれらは、花だった。
 バラ、百合、蓮、紫陽花、そして彼岸花など様々だが、ブルーンヒルデさんの趣が色濃く表れた花園が咲き乱れる。
 その眩い花々の輝きを浴びながら、ブルーンヒルデさんは口を開いた。

「炎の魔力を酸素と反応させて熱を生み、その熱で光魔法を活性化させたのよ。精霊で屈折率を調整すれば色を自由に変えることもできる……と言っても、今のあなたにはまだわからないでしょうから、この言葉は記憶の片隅にとどめておく程度でいいわ」

 本当にさっぱりわからなかった。記憶の片隅にとどめておく自信すら無かった。
 そんなわたしの自信の無さを知ってか知らずか、ブルーンヒルデさんは次のように言葉を続けた。

「あなたにはこれをできるようになってもらう。つまり、精霊使いの技を習得してもらうということよ」

 え? これを? 無理です。出来る気がしません。と思ったけど、それを口に出すようなことはしなかった。
 けど、そんなわたしの心は完全に読まれてしまっていたのであった。

「……やる前からあきらめられては困るわ。安心して。ちゃんと一から丁寧に教えてあげるから。そのためにもう一つ質問するわね。魔法はどれくらい使える?」
「一応使えますけど、これくらいしか……」

 答えながら、わたしは両の手の平を光らせた。
 本当にこれだけ。光らせて終わり。
 学校の授業では先生が手から光の弾を放ったり、傘を開くように手から光の盾を生み出していたりしていた。クラスメイトにも同じことができた子がいる。けれど、わたしはこれで精いっぱい。
 そんな残念なわたしに対し、ブルーンヒルデさんは、

「光魔法を手に充填させることしかできないということね。それじゃあ、一番簡単なやつから使いましょう」

 と言いながら、砂浜の上に置いてあったかばんを持ち上げた。
 ゴルフでクラブを持ち運ぶのに使うキャディーバッグのようなそのかばんの中から、ブルーンヒルデさんは一本の棒状のものを取り出し、わたしに差し出した。
 渡されたのは剣だった。
 ファンタジー小説に出てきそうなキレイな装飾が施された剣。

(カッコいい……)

 でもちょっと重いなあ。受け取ったわたしがそんなことを考えていると、ブルーンヒルデさんは口を開いた。

「それに魔力を流し込んでみて」

 言われるがままに、わたしはやってみた。
 娯楽小説に出てくる騎士のように剣を正面に構え、握り手から魔力を流し込む。
 間も無く刀身が銀色に染まり、輝き始めた。
 これでいいのかな? そんな疑問が浮かぶのと同時に、ブルーンヒルデさんの声が響いた。

「どんな風に感じる?」

 一瞬、質問の意味がわからなかった。だから危うく「いい感じだと思います!」などという馬鹿な答えを返しそうになった。
 馬鹿な答えを返す寸前に気付いた。
 手に違和感がある。いや、違和感なんてものじゃない。はっきりと感じる。
 わたしはその感覚を言葉にした。

「揺れてる感じがします」

 手から振動が伝わってくる。
 振動は少しずつ強くなってる気がする。証拠に手が震えてきてる。
 その震えに対し、ブルーンヒルデさんは声を上げた。

「その振動が小さくなるように、魔力を調整して」

 言われるがまま、わたしは目を閉じて手の平に意識を集中させた。
 手に魔力を充填させるのとは逆の要領で魔力を調整する。
 できた! わたしにもちゃんとできる! そんな言葉を心の中で響かせた直後、再びブルーンヒルデさんの声が響いた。

「じゃあ、その振動を乱さずに素振りして。まずは安定させたまま1000回を目標にしてみましょう」

 え? 1000? ケタを一つ間違えてませんか? 思わずそう聞き返しそうになったが、わたしの心を読んでいるブルーンヒルデさんは先手の言葉を響かせた。

「疲れていても十分な性能が発揮できるほどの練度でなければ意味が無いから。だから1000回なのよ」

 言いながらブルーンヒルデさんはわたしに背を向け、かばんの中から何かを取り出した。
 あ、モリだ。これから夕食用の魚を獲りにいくということか。
 あ、じゃあ、わたしは一人で素振りをするということか。なら休憩は自由にとれるということか。よかったあ。
 わたしがそう考えた直後、ブルーンヒルデさんは振り返って口を開いた。

「念のために言っておくけど、精霊に監視させてるから。サボろうとしちゃダメよ」

 え? 精霊? あの花のこと? あれに目がついてるの? そんなぁ……。じゃあしょうがない……がんばろう……。
 
 この日以降、わたしは毎日太陽が沈むまで光る剣を振り続けることになった。
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