Iron Maiden Queen

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

文字の大きさ
58 / 545
第一章 火蓋を切って新たな時代への狼煙を上げよ

第七話 美女と最強の獣(6)

しおりを挟む
   ◆◆◆

 一方、シャロンは傷の手当を行っていた。
 破いた服を包帯がわりにして右肩の傷口にきつく巻きつける。

「……っ」

 しめつけによる痛みに、シャロンの顔が歪む。
 だが、歪んだ理由は痛みだけでは無かった。
 いくら考えても、先の疑問の答えが浮かばないのだ。
『前の自分』についての記憶。
 全てが思い出せないわけでは無い。
 そもそも、全ての記憶を引き継ぐのは非効率であり、記憶領域にも限界がある。
 だから生まれ変わる時には記憶を整理する。
 その作業をやっているのはルイスだ。生まれ変わりについてはほとんど彼に任せている。
 ルイスのことはおおむね信用している。
 だが、今回は失敗しているのではないか? そんな気がしてならない。
 強力な戦闘技術など、消してはいけないものまで消してしまったのではないか、そう思えてならない。
 だが、勘違いである可能性も高い。雑多な記憶が混じって組み合わされてしまっている可能性は十分にある。見聞きしただけの他人の技をかつての自分のものだと思い込んでいるだけかもしれない。そのような記憶の混乱の経験は一度や二度では無い。
 だからシャロンはただの気のせいだと、そう思い込むことにした。
 が、次の瞬間、

“本当にそうかしら?”

 謎の声が頭の中に響いた。

「!?」

 驚いて耳を澄ます。
 だが、その警戒に意味が無いことは分かっていた。
 既に奇襲に備えて周囲に虫を展開している。聞き漏らすことはありえない。音波は響いていない。
 じゃあ今の声は?
 まさか自分の頭の中だけで響いたのだろうか? 幻聴?
 これは一度ルイスにちゃんと見てもらったほうが良さそうね、シャロンがそう思った直後、

「!」

 虫から届いた警告のしらせに、シャロンは反射的に身構えた。
 ついにあいつが動き始めたのか、そんな自分の心の声と共に恐怖が沸きあがり始める。
 その邪魔な感情をねじ伏せながら、銃を構える。
 次の魔王に戦いを仕掛けた以上、あいつと対峙することになるのはわかりきっていたこと。覚悟はとうに出来ている。
 シャロンはその覚悟と共に、路地の奥に銃口で狙いをつけた。
 普通に近づいてくるのであれば、やつはこの長い直線の奥に姿を現すことになる。
 奇襲するとしたら屋根上からくらいだが、そっちへの警戒も既に万全。
 シャロンはそう考えていた。
 が、

「?!」

 直後、耳に届いた音にシャロンは驚いた。
 その音はシャロンの左手側にある壁の向こうから鳴り響いていた。
 音は一度では無く、立て続けに何度も響いた。
 硬いものを砕く音。
 金属音も混じっている。
 そしてその音はこちらに近づいてきていた。
 まさか、と思うよりも早く、シャロンはその場から離れた。
 家の中にも虫を配置しておいて正解だった。
 だが、一つ誤算があった。
 相手を振り切れないのだ。
 逃げるこちらを常に直線で追って来ている。
 とんでもなく速い。もうすぐ追いつかれる。
 そして破壊音がうるさいほどに近づいたと同時に、シャロンは迫る音に向かって銃を構えた。
 そして直後、やつはシャロンが思った通りに登場した。

「破ッ!」

 気勢と共に繰り出された体当たりのような大盾の一撃で、オレグは壁を突き破ってきた。
 その強引な突破によって放たれた石壁の散弾を、鋭くかつ大きく横に跳んで避けるシャロン。
 そして横っ飛びになりながら、緩慢な時間の中でシャロンは狙いを定めた。
 やはり大盾のせいで正面はまったく射線が無い。
 ゆえの大きな横っ飛び。
 そして間も無く、

(見えた!)

 盾の横からのぞき見えたわき腹に向けて、シャロンは射撃した。
 が、

「!?」

 オレグは射撃と同時に鋭くシャロンのほうに向き直り、銃弾を大盾で弾いた。
 その動きはこちらの心を読んでのものなのか、それとも単純にこちらを追尾しただけのたまたまの防御なのか、シャロンには判断がつかなかった。
 なぜなら、オレグの心は読めないことが多いからだ。
 オレグの脳内はまるで闇夜のように暗く静か。脳がほとんど活動していない。
 ならば、彼はどうやって動いているのか。
 反射では無い。それならば本能の領域が活動する。
 相手の脳波を読んで裏を突くという、感知能力者がよく使う手はこのオレグにはほとんど役に立たない。
 そしてゆえに、

「!」

 シャロンも当然のように反応が遅れる。
 シャロンは直後にオレグが繰り出した盾による反撃の一撃を跳び直して避けようとしたが、

「がはっ!」

 地を後方に蹴り直した直後、大盾による突き飛ばしがシャロンの体に炸裂した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

リアルフェイスマスク

廣瀬純七
ファンタジー
リアルなフェイスマスクで女性に変身する男の話

処理中です...