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第二章 アリスは不思議の国にて待つ
第十話 神と精霊使い(5)
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◆◆◆
「で? たかが木材のためになんでこんなところにまで? 近くにある木を適当に切ればそれで済む用事だろう?」
毛皮であつらえた椅子に腰掛けたアルフレッドがお茶を一口含んだのを確認してから、バークは尋ねた。
バークには答えの予想がついていたが、あえてアルフレッドの返事を待った。
アルフレッドは口内に広がったお茶の味を楽しんだあと、口を開いた。
「いつも通りさ。神官だよ。連中がまた規制をかけたんだ」
それは予想通りの答えだった。
だからバークは笑顔で口を開いた。
「やっぱりな。そう思ってたよ。しかし木材なんて何に使うんだ? 何か作るのか?」
アルフレッドは首を振って答えた。
「いいや、修理だよ。床がぬけたんだ」
これにバークは「そりゃまずい」と言いたげな顔で口を開いた。
「古い家だからなあ。とうとう床が抜けたか。次は雨漏りが始まるんじゃないか?」
次は雨漏り、その予想にアルフレッドは自虐的な笑みで答えた。
「雨漏りならもうなってるよ」
「……」
床だけじゃなく屋根も腐ってる、そのありさまにバークは何も言えなかった。
だからバークは一つ提案しようと思った。
だがその提案はいきなり切り出しても断られる可能性があった。
だからバークは外堀を埋めるところから始めた。
「両親とは相変わらず上手くいっていないのか?」
アルフレッドは頷いた。
「実はここに来る前に、木材をわけてないかと思って訪ねたんだけど、見事にダメだったよ」
これはわかっていた返事であった。
バークはより有利に提案をもちかけるために、その予想通りの返事に対して口を開いた。
「今の家は廃屋だったものだったよな? たしか、実家を出たお前が自分で探して移り住んだんだったか?」
アルフレッドが「ああ、そうだよ」と頷いたのを確認してから、バークは再び口を開いた。
「そのとき両親は何もしてくれなかったんだろう? ひどい話だな。裕福なんだから家の一軒くらい融通できたはずだ。神官になるのを拒否したくらいでそんなに怒ることは無いだろうに」
これにアルフレッドは複雑な表情をしながら、
「もう気にしてないよ。ありがとう」
と、同情に対してのお礼を述べた。
感知能力者でもあるバークはアルフレッドの心がやわらいだのを感じ取った。
提案するならば今だ、そう思った。
直後にバークの口は開いていた。
「……なあアルフレッド、こっちに移り住まないか?」
「……」
アルフレッドの口は開かなかった。
表情は複雑なまま。
迷っている、それを感じ取ったバークはその迷いを断ち切らせるために言葉を重ねた。
「私だけでなく、町の連中もお前を慕っている。みんな歓迎するぞ?」
それは迷う要素の無い提案に思えた。
アルフレッドは既に自給自足の生活をしている。
両親との関係は良くない。改善する気配も無い。
だから迷う必要は無いはずであった。
が、
「それは、嬉しいけど……」
アルフレッドは迷っていた。
そのとき、
(……?)
変だ、バークはそう思った。
アルフレッドの心を読んでいるのだが、迷いの原因がつかめないのだ。
迷いの根拠自体が無いように感じられる。
まるで食欲や睡眠欲のような迷いだ、バークはそう思った。
本能から条件反射で生じているかのような迷い。
アルフレッドは意味も理由も無く迷っている。
理由を本人も忘れているのだろうか?
そう思ったバークは、その手がかりとなる記憶を呼び起こさせるために質問しようとしたが、
「族長、よろしいですか?」
部屋に入ってきた男の一声によって話は中断された。
「なんだ」
バークが尋ねると男は答えた。
「また町の家畜がやられました」
「またか。これは見過ごせないな。戦士を呼び集めろ」
そう言って立ち上がったバークに、アルフレッドは尋ねた。
「なにがあったんだ?」
バークは答えた。
「熊だ。町の周囲に最近出没するようになってな。被害も出ているからこれから狩りに行く。すまないがここで待っていてくれ。夕食までには戻る」
ここでお茶を楽しみながらゆっくりする、それも悪くなかったが、アルフレッドは口を開いた。
「俺もいくよ」
「で? たかが木材のためになんでこんなところにまで? 近くにある木を適当に切ればそれで済む用事だろう?」
毛皮であつらえた椅子に腰掛けたアルフレッドがお茶を一口含んだのを確認してから、バークは尋ねた。
バークには答えの予想がついていたが、あえてアルフレッドの返事を待った。
アルフレッドは口内に広がったお茶の味を楽しんだあと、口を開いた。
「いつも通りさ。神官だよ。連中がまた規制をかけたんだ」
それは予想通りの答えだった。
だからバークは笑顔で口を開いた。
「やっぱりな。そう思ってたよ。しかし木材なんて何に使うんだ? 何か作るのか?」
アルフレッドは首を振って答えた。
「いいや、修理だよ。床がぬけたんだ」
これにバークは「そりゃまずい」と言いたげな顔で口を開いた。
「古い家だからなあ。とうとう床が抜けたか。次は雨漏りが始まるんじゃないか?」
次は雨漏り、その予想にアルフレッドは自虐的な笑みで答えた。
「雨漏りならもうなってるよ」
「……」
床だけじゃなく屋根も腐ってる、そのありさまにバークは何も言えなかった。
だからバークは一つ提案しようと思った。
だがその提案はいきなり切り出しても断られる可能性があった。
だからバークは外堀を埋めるところから始めた。
「両親とは相変わらず上手くいっていないのか?」
アルフレッドは頷いた。
「実はここに来る前に、木材をわけてないかと思って訪ねたんだけど、見事にダメだったよ」
これはわかっていた返事であった。
バークはより有利に提案をもちかけるために、その予想通りの返事に対して口を開いた。
「今の家は廃屋だったものだったよな? たしか、実家を出たお前が自分で探して移り住んだんだったか?」
アルフレッドが「ああ、そうだよ」と頷いたのを確認してから、バークは再び口を開いた。
「そのとき両親は何もしてくれなかったんだろう? ひどい話だな。裕福なんだから家の一軒くらい融通できたはずだ。神官になるのを拒否したくらいでそんなに怒ることは無いだろうに」
これにアルフレッドは複雑な表情をしながら、
「もう気にしてないよ。ありがとう」
と、同情に対してのお礼を述べた。
感知能力者でもあるバークはアルフレッドの心がやわらいだのを感じ取った。
提案するならば今だ、そう思った。
直後にバークの口は開いていた。
「……なあアルフレッド、こっちに移り住まないか?」
「……」
アルフレッドの口は開かなかった。
表情は複雑なまま。
迷っている、それを感じ取ったバークはその迷いを断ち切らせるために言葉を重ねた。
「私だけでなく、町の連中もお前を慕っている。みんな歓迎するぞ?」
それは迷う要素の無い提案に思えた。
アルフレッドは既に自給自足の生活をしている。
両親との関係は良くない。改善する気配も無い。
だから迷う必要は無いはずであった。
が、
「それは、嬉しいけど……」
アルフレッドは迷っていた。
そのとき、
(……?)
変だ、バークはそう思った。
アルフレッドの心を読んでいるのだが、迷いの原因がつかめないのだ。
迷いの根拠自体が無いように感じられる。
まるで食欲や睡眠欲のような迷いだ、バークはそう思った。
本能から条件反射で生じているかのような迷い。
アルフレッドは意味も理由も無く迷っている。
理由を本人も忘れているのだろうか?
そう思ったバークは、その手がかりとなる記憶を呼び起こさせるために質問しようとしたが、
「族長、よろしいですか?」
部屋に入ってきた男の一声によって話は中断された。
「なんだ」
バークが尋ねると男は答えた。
「また町の家畜がやられました」
「またか。これは見過ごせないな。戦士を呼び集めろ」
そう言って立ち上がったバークに、アルフレッドは尋ねた。
「なにがあったんだ?」
バークは答えた。
「熊だ。町の周囲に最近出没するようになってな。被害も出ているからこれから狩りに行く。すまないがここで待っていてくれ。夕食までには戻る」
ここでお茶を楽しみながらゆっくりする、それも悪くなかったが、アルフレッドは口を開いた。
「俺もいくよ」
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