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第二章 アリスは不思議の国にて待つ
第十話 神と精霊使い(14)
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◆◆◆
アルフレッドが牙を向いたという情報は、すぐに神官達の耳に届いた。
「……」
だからベアトリスは自室で黙々と準備していた。
アルフレッドと戦うための準備。
戦闘用の衣装に着替え、防具を身に着ける。
急いでいるのか、手が速い。
そしてその装備はアルフレッドのものと方向性が似ていた。
動きやすさを重視した防具。
しかし武器はまったく違っていた。
それは槍。
だが、ベアトリスの得物は普通の槍とは少し違っていた。
先端の刃の部分が特徴的であった。
まるでナタが長い棒の先端に取り付けられているようであった。
刃の部分が長く、厚い。
全長の三分の一は刃になっている。
ベアトリスは壁に掛けてあったそれを手に取り、足早に部屋を出た。
直後、
「ベアトリス」
廊下を歩き始めたのとほぼ同時に、ベアトリスは背後から声をかけられた。
ベアトリスは振り返りながらその呼び声に応じた。
「なんでしょうか? 大神官様」
大神官と呼ばれたその者は、ベアトリスより一回りほど年上に見える男であった。
大神官は答えた。
「アルフレッドのところに行くつもりだね? ベアトリス」
ベアトリスが「はい」と頷きを返すと、大神官は再び口を開いた。
「すまないが、君には別の仕事をしてもらうことになった」
「別の仕事、ですか?」
「そうだ。バークリックという男のところに行ってもらいたい」
「……それは、どうしても私がやらなければならない仕事なのでしょうか?」
大神官は薄い笑みと共に答えた。
「ああ、そうだ。これは我等が主からの直々の命令だ」
主からの命令、ならばベアトリスに拒否権は無かった。
が、
「……」
それでもベアトリスは快い返事をすることは出来なかった。
大神官はベアトリスの沈黙の理由を理解していた。
だから大神官は口を開いた。
「ベアトリス、君がアルフレッドに好意を抱いていることは、わたしだけで無く主もよく存じておられる」
そして大神官はその顔から表情を消しながら言った。
「我等が主は、アルフレッドの生を『完全に』終わらせよと命じられた。ベアトリス、君にそれができますか?」
この問いにベアトリスは、
「……」
再び沈黙を返すことしかできなかった。
その沈黙が答えだった。心を読むまでも無かった。
だから大神官はそれを尋ねた。
「君はアルフレッドを生け捕りにしようと考えているのでしょう? 残念だが、主はそれをお許しにならない」
「……」
「……ベアトリス、バークリックのところに使いに行っていただけますね?」
「……」
ベアトリスはなんとかして抗おうとした。
だが出来なかった。
頭の中に植えつけられた果実が、彼女の思考をゆがめていた。
ゆえに、
「……はい、わかりました。全ては主の御心のままに」
ベアトリスの口から最後に出た言葉は、了解の返事であった。
◆◆◆
「せぇやっ!」
森の中にアルフレッドの気勢が響く。
しかしそれは一瞬。
瞬く間に嵐の音によってかき消される。
嵐の音はなかなか途切れない。
それほどにアルフレッドは攻撃を連射している。
しかし、アルフレッドに疲れは無い。
アルフレッドは全力を出していない。長期戦を覚悟しているからだ。
アリスはそれを感じ取っていた。
「……!」
そして驚いていた。
アルフレッドがここまで強く成長しているとは知らなかった。
野生の中でたくましく生きていけるように技術を与えたことはある。
だが、ここまでの戦闘技術は教えていない。
アルフレッドは実力を隠していたのだ。感知能力を封印していたように。
その技術を教えたのは自分だ。その技術を応用したのだろう。
アリスがそこまで考えた直後、アルフレッドは答えた。
「すまないな、アリス。俺は君にいろんな隠し事をしていた」
作業のように敵をなぎ払いながら語り始めた。
いや、実際にそれは作業だった。
アルフレッドは適当に作業をこなしながら口を開いた。
「俺はずっと技を磨き続けてきた。君を驚かせるほどには強くなれた。だけどそれを君に教えることは出来なかった。君から敵に情報が漏れる可能性はゼロでは無いように思えたからだ」
長い台詞を喋るほどの余裕がアルフレッドにはあった。
だが、アルフレッドの表情は少しずつ険しくなっていた。
あるものの接近を感じ取っていたからだ。
そしてしばらくしてそれは森の奥から姿を現した。
それは武装した神官達であった。
槍が基本武装らしく、それを得物にしている者が多いが、中にはナタなどの得意武器を持っている者もいた。
アルフレッドは神官達の数と武装を感知能力で調べながら、言葉を続けた。
「こんな日がいつか来るかもしれない。ずっとそう思っていた」
だからこの日のために磨いた技を振るおう、アルフレッドはそんな思いをこめて、
「行くぞ!」
神官達に向かって駆け出した。
第十一話 森の中の舞踏会 に続く
アルフレッドが牙を向いたという情報は、すぐに神官達の耳に届いた。
「……」
だからベアトリスは自室で黙々と準備していた。
アルフレッドと戦うための準備。
戦闘用の衣装に着替え、防具を身に着ける。
急いでいるのか、手が速い。
そしてその装備はアルフレッドのものと方向性が似ていた。
動きやすさを重視した防具。
しかし武器はまったく違っていた。
それは槍。
だが、ベアトリスの得物は普通の槍とは少し違っていた。
先端の刃の部分が特徴的であった。
まるでナタが長い棒の先端に取り付けられているようであった。
刃の部分が長く、厚い。
全長の三分の一は刃になっている。
ベアトリスは壁に掛けてあったそれを手に取り、足早に部屋を出た。
直後、
「ベアトリス」
廊下を歩き始めたのとほぼ同時に、ベアトリスは背後から声をかけられた。
ベアトリスは振り返りながらその呼び声に応じた。
「なんでしょうか? 大神官様」
大神官と呼ばれたその者は、ベアトリスより一回りほど年上に見える男であった。
大神官は答えた。
「アルフレッドのところに行くつもりだね? ベアトリス」
ベアトリスが「はい」と頷きを返すと、大神官は再び口を開いた。
「すまないが、君には別の仕事をしてもらうことになった」
「別の仕事、ですか?」
「そうだ。バークリックという男のところに行ってもらいたい」
「……それは、どうしても私がやらなければならない仕事なのでしょうか?」
大神官は薄い笑みと共に答えた。
「ああ、そうだ。これは我等が主からの直々の命令だ」
主からの命令、ならばベアトリスに拒否権は無かった。
が、
「……」
それでもベアトリスは快い返事をすることは出来なかった。
大神官はベアトリスの沈黙の理由を理解していた。
だから大神官は口を開いた。
「ベアトリス、君がアルフレッドに好意を抱いていることは、わたしだけで無く主もよく存じておられる」
そして大神官はその顔から表情を消しながら言った。
「我等が主は、アルフレッドの生を『完全に』終わらせよと命じられた。ベアトリス、君にそれができますか?」
この問いにベアトリスは、
「……」
再び沈黙を返すことしかできなかった。
その沈黙が答えだった。心を読むまでも無かった。
だから大神官はそれを尋ねた。
「君はアルフレッドを生け捕りにしようと考えているのでしょう? 残念だが、主はそれをお許しにならない」
「……」
「……ベアトリス、バークリックのところに使いに行っていただけますね?」
「……」
ベアトリスはなんとかして抗おうとした。
だが出来なかった。
頭の中に植えつけられた果実が、彼女の思考をゆがめていた。
ゆえに、
「……はい、わかりました。全ては主の御心のままに」
ベアトリスの口から最後に出た言葉は、了解の返事であった。
◆◆◆
「せぇやっ!」
森の中にアルフレッドの気勢が響く。
しかしそれは一瞬。
瞬く間に嵐の音によってかき消される。
嵐の音はなかなか途切れない。
それほどにアルフレッドは攻撃を連射している。
しかし、アルフレッドに疲れは無い。
アルフレッドは全力を出していない。長期戦を覚悟しているからだ。
アリスはそれを感じ取っていた。
「……!」
そして驚いていた。
アルフレッドがここまで強く成長しているとは知らなかった。
野生の中でたくましく生きていけるように技術を与えたことはある。
だが、ここまでの戦闘技術は教えていない。
アルフレッドは実力を隠していたのだ。感知能力を封印していたように。
その技術を教えたのは自分だ。その技術を応用したのだろう。
アリスがそこまで考えた直後、アルフレッドは答えた。
「すまないな、アリス。俺は君にいろんな隠し事をしていた」
作業のように敵をなぎ払いながら語り始めた。
いや、実際にそれは作業だった。
アルフレッドは適当に作業をこなしながら口を開いた。
「俺はずっと技を磨き続けてきた。君を驚かせるほどには強くなれた。だけどそれを君に教えることは出来なかった。君から敵に情報が漏れる可能性はゼロでは無いように思えたからだ」
長い台詞を喋るほどの余裕がアルフレッドにはあった。
だが、アルフレッドの表情は少しずつ険しくなっていた。
あるものの接近を感じ取っていたからだ。
そしてしばらくしてそれは森の奥から姿を現した。
それは武装した神官達であった。
槍が基本武装らしく、それを得物にしている者が多いが、中にはナタなどの得意武器を持っている者もいた。
アルフレッドは神官達の数と武装を感知能力で調べながら、言葉を続けた。
「こんな日がいつか来るかもしれない。ずっとそう思っていた」
だからこの日のために磨いた技を振るおう、アルフレッドはそんな思いをこめて、
「行くぞ!」
神官達に向かって駆け出した。
第十一話 森の中の舞踏会 に続く
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