Iron Maiden Queen

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか

第十九話 黄金の林檎(2)

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   ◆◆◆

 翌日――

「……失礼します」

 呼び出しを受けたアルフレッドは緊張の面持ちで大きなテントの幕をくぐった。
 中には、この軍において最上位と呼べる人物達が集まっていた。
 ルイスにシャロン、そしてサイラスだ。
 大将格の指揮官達もいる。
 そんな人物たちが円卓を囲んでいた。
 これからここで、今後の戦い方についての議論が行われるからだ。
 ゆえに円卓の上には大きな地図が置かれていた。
 その地図には、現在の敵の配置を示す駒が置かれている。
 一体どうしてもう敵の配置がわかっているのか、その理由は簡単に想像がついた。
 おそらく、あのルイスの奇妙な友人によるものだろう。
 しかしなぜこの場に自分が呼ばれたのか、アルフレッドにはわからなかった。
 だからアルフレッドは緊張していた。
 そして最初に口を開いたのは、その緊張をやわらげたいと思ったルイスであった。

「心配しなくていい。ここに呼んだのは君にとって悪い話をするためじゃない。むしろ君のために呼んだんだ」

 自分のために呼んだ? いったい何の話をするつもりなのか? そんな思いに対してルイスは答えるように口を開いた。

「君を呼ぶ前に君のことについて話した。この場にいる全員が君が抱えている問題を知っている」

 その言葉に対して、アルフレッドはやはり嫌な予感しか抱けなかった。
 だが、その予感は杞憂であることをルイスは声に出した。

「だから我々は君が抱えているその問題を逆に利用してやろうと考えたのだ」

 理解できない攻撃を利用する? アルフレッドには意味がわからなかった。
 だからルイスは説明のために続けて口を開こうとした。
 が、シャロンが喋りだすほうが早かった。

「なぜかはまだわからないけれど、あなたはその正体不明の何かによく狙われているわ。だからそれを逆手にとって相手を釣りだすのよ」

 この時、シャロンは少しだけウソをついた。
 なぜかはまだわからない、の部分だ。
 見当はついていた。
 その見当はルイスとサイラスも同意するところであり、ゆえにサイラスが言葉を付け加えた。

「君の活躍次第では、敵全体を陽動するなんてことも出来るかもしれない」

 さらにサイラスは続けて口を開き、予想されるもう一つの利点についても述べた。

「しかもこれまでの君に対しての攻撃の内容から察するに、敵は君を殺すつもりは無いように思える。ならば、君を前に出すことで敵の攻勢を弱めることができる可能性がある」

 この時、サイラスも少しだけウソをついた。
 敵の指揮系統は一つでは無い可能性が高い。
 アルフレッドを狙っている敵は別の指揮官から送り出された刺客、という可能性もある。
 その場合はアルフレッドは盾にならない。
 事実、先の戦いではアルフレッドが最前に立っても敵の攻勢が弱まることは無かった。
 つまりサイラスが言っていることは、アルフレッドに気持ちよく納得してオトリをやってもらうための、都合の良い理由付けであった。
 が、

「……」

 残念ながらアルフレッドは優秀であった。
 アルフレッドは感知能力に頼らずにサイラスの言葉の裏を読んでいた。
 だが、それでもアルフレッドは納得していた。
 何にしても、自分が前に立ったほうがいい、それはよく分かっていた。
 だからアルフレッドは答えた。

「わかりました。やってみます。最前で派手に暴れればいいんですね?」

 物分かりがよくて助かる、そんな思いを含めてサイラスは口を開いた。

「ああ、その通りだ」

 だが、納得はしてもアルフレッドにはまだ聞きたいことがあった。
 もしも釣りが成功し、敵が自分に何かをしたとして、それを押さえることはできるのか、と。
 されるがままで何もできないのであれば、釣りだす意味が無い。
 アルフレッドはそれを尋ねようとしたが、その質問を感じ取ったルイスが聞かれるより早く答えた。

「この作戦は推論の上に立てられたものだ。すべてがハズレに終わる可能性もある。だが、それでも成功率を上げるための手は打ちたい」

 何か手があるのか? アルフレッドは期待感を抱いた。
 しかしそれは手では無く、「彼」であった。

「そこで、君には彼と同行してもらうことになる」

 彼? それが誰かはすぐに察しがついたが、その彼はこの場にはいないようであった。
 が、直後、

「ここだよ」
「!」

 アルフレッドの真横から、右下から声がした。
 驚いて視線を向けると、地面からナチャが生え伸びた。
 まるで植物が急成長したかのような登場。
 その登場にアルフレッドが驚いていると、ナチャはアルフレッドに向かって口を開いた。

「いま見せた通り、ボクは擬態が得意でね。今のは薄く広がって地面に擬態していたんだけど、なかなかだっただろう?」

 その言葉には頷くしか無かった。なかなかどころか、完璧だった。ただの地面にしか思えなかった。
 アルフレッドがその擬態の技術に感心していると、ナチャはアルフレッドに向かって右手を差し出しながら口を開いた。

「ボクが君に同行して現場を押さえる。よろしく頼むよ」

 アルフレッドはその右手を握り返した。
 いや、実際に握ったわけでは無い。相手は魂の集合体。握ることはできない。だからアルフレッドは肌を触れ合わせただけだ。
 その奇妙な握手を交わしながら、ナチャは笑顔を作って言った。

「正確に言えば、同行じゃなくて君の中に住まわせてもらう。というわけで、仲良くしようね二人とも」

 その挨拶はアルフッドだけで無く、アリスにも向けられたものだった。
 だからアリスはいまの正直な思いを答えた。

「変なことをしたらすぐに追い出すからね」

 これに、ナチャは本当の笑顔で答えた。

「ひどいなあ。少しは信用してくれよ」

 これにもアリスは正直な気持ちで答えた。

「残念だけど、それは無理な相談ね」
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