Iron Maiden Queen

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか

第十九話 黄金の林檎(34)

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   ◆◆◆
 
 当の残骸は仕掛けがバレてしまったことにまだ気づいていなかった。
 危機が迫っていることも知らず、残骸は考え事をしながら飛行していた。
 これからどうするかについてだ。
 おぼろげな過去に対しての執着心はまだ消えていない。
 この執着心がはたして本物なのか、大神官に植え付けられた偽物の感情ではないのか、それは結局わからないまま。
 しかし真偽はどうあれ、この感覚が行動力に繋がることは間違い無い。
 要は大神官のために何かをしなければいいというだけの話なのだ。
 これからは自分のために行動すればいい、それだけの話なのだ。
 そう考えれば、感情の真偽についてはどうでもいいと言える。

(……さて、)

 さて、そうと決まったらどうするべきか。
 やはりまずは魂を集めるべきだろう。
 私の執着は言い換えれば、「大量の魂で大きなことをやりたい」というもの。
 幸いなことに、今は戦いの気配が濃い。
 ならば今すぐ始めるべきだ、残骸はそう思った。
 ここが自分の新たな出発点、残骸はそう考えていた。

   ◆◆◆

 一方、港町での出航の準備は終わりが見え始めていた。
 船の改造作業の音は明らかに減っていた。
 そんな静けさを取り戻しつつある港町の中で、アルフレッドはナチャにある話を持ちかけていた。
 ナチャは分身を使ってアルフレッドを監視していたゆえに、その話の内容も事前に知っていたが、それでも確認のために尋ねた。

「本当にいいのかい?」

 これにアルフレッドは頷きを返し、口を開いた。

「ええ。十分に話し合って決めたことです。俺の中にいるアリスをそちらで預かってほしい」

 話し合いがあったこともナチャは知っていたが、それでも本人に確認を求めた。

「アリスも本当にそれでいいんだね?」

 アリスは頷きのイメージを送り返しながら、思念を響かせた。

「ええ、構わないわ」

 アリスがそう答えた後、アルフレッドが再び口を開いた。

「これから戦いはきっとさらに激しくなります。俺の力ではアリスを守れきれる保証が無いんです。だからお願いします」

 言いながら、アルフレッドはかつての自分の愚かさを感じていた。
 あれはたった一人の力でどうこうできるものでは無い。
 ドラゴンを少し作れる程度ではどうにもならない。
 そんな連中に自分は一人で立ち向かおうとしていた。
 命知らずなんてものじゃない。ここまでくるとただの馬鹿だ。
 他の人が巻き込まれるのを恐れるあまり、愚かな選択肢に固執していたのだ。
 そんな思念を滲ませながら、アルフレッドはそう言った。
 そしてその言葉に対し、

「……」

 ベアトリスは少し悲しげな、難しい顔をしていた。
 ベアトリスにとって一番大事なのはアルフレッドだ。
 ゆえに、アルフレッドにはこれ以上危ない目には遭ってほしく無いと思っている。
 だから、船には乗ってほしく無いと思っている。
 だが、そんなことは言えない。そんな勇気は生まれない。
 そんなことを言ったら嫌われるかもしれない。それが怖くてたまらない。
 でもアルフレッドが船に乗ることも怖い。
 だから自分はついていく。自分にはそれくらいしかできない。
 だから少し悲しい。
 自分にもシャロンさんみたいな強さがあれば――そんな思いが心の奥底から響いていた。
 ナチャはそれらの感情をすべて汲み取っていた。
 ゆえに答えは決まっていた。

「わかった。僕の命をかけてアリスを守ることを約束しよう」

 その言葉は、アリスにとっては少し意外だった。
 昔の彼からは絶対に出てこない言葉だ。
 だからアリスは少し間をおいてから尋ねた。

「……お返しに何を渡せばいいかしら?」

 直後に返ってきた言葉はさらに意外なものであった。

「いらないよ。タダで守ってあげるよ」

 その言葉に、アリスは素直に驚いた。
 どうして? アリスは思わずそんな思念を響かせた。
 その思いをナチャは受け取ったが、

「……」

 ナチャはすぐには答えられなかった。
 しばらくして、ナチャは声を響かせた。

「……君たちは重要な戦力だ。だから今の君達から何かを奪うことはしたくない」

 言いながらナチャは気づいた。
 これはとっさに作った思い付きの答えだと。
 ルイスならそう言うかもしれない、そう思ったから――

(……それも違う気がする)

 これまで、自分は多くの人間の魂を集めてきた。その人生を見てきた。
 その中でも特に眩しい人生を送ったあの者達ならきっとそう答える、そう思ったのだ。
 知らずのうちに、自分は彼らの影響を受けていたのだ。
 だが、悪い気はしない。
 思い切って彼らのようになれるように自分を改造してみるのも面白いかもしれない。
 そんな思いを暗号化させた秘密の心の中で響かせたあと、ナチャは口を開いた。

「……まあ、そうだね。タダは欲が無さすぎか。一つ貸し、程度に思っておいてくれればいいよ」

 言ってからナチャは再び気づいた。
 これはきっと照れ隠しというやつだと。
 自分が変わり始めていることを隠すための偽りの言葉だと。
 だからナチャはあえて三人の心を読まなかった。
 もしも照れ隠しであることがバレていたら、どんな態度を取ればいいかわからなくなるからだ。
 だからナチャはあえて心の目を閉じた。
 知らない方がいいこともある、それをナチャはこのとき痛感していた。
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