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最終章 そして戦士達は人類の未来のための戦いに挑む
エピローグ(4)
しおりを挟む◆◆◆
ルイス様やサイラス様のような人達は例外だ。新しい困難な道を歩み始めたり、多忙な日々を続けたりしている。
だけど俺は違う。ナンティと一緒に穏やかな生活を送り続ける、いま自分にある望みはそれだけで、それはこれからも変わらず、大きな何かが起こることは無い、そう願ってる。
だけど残念なことに、俺のその願いは届いていなかったようだ。
ある日、俺はある人物に呼び出された。
それは特殊な呼び出し方だった。
特定の人物の名前を出さずに呼び出すやり方だ。
あの最後の戦いに参加していた者への特別報酬について――たしか、そんな理由で呼び出されたはず。
俺が約束の場所に行ってみると、待っていたのはアルフレッドとベアトリスだった。
会った直後に俺は精密検査をされた。脳の中を隅から隅まで調べられた。
「なぜ俺にこんな検査を?」
俺がそう尋ねると、アルフレッドとベアトリスはあることを話し始めた。
その話の内容の真偽について、アルフレッドは「ほぼ間違い無いと考えている」と言った。
だが俺は納得できなかった。信じられなかった。いや、信じたく無かったんだ。
しかし、その情報の出どころはあまりにもあんまりなものだった。だから強く否定できなかった。
結局、俺は要求を承諾し、アルフレッドとベアトリスを連れてナンティのところに戻ることにしたんだ。
◆◆◆
ナイアラの笑みには確固とした理由があった。
クトゥグアのやり方には参考になる部分が色々あった。
まず第一に、クトゥグアはとても安全かつ狡猾なやり方で保険を作っている。
物事がどのような結果に終わっても安定が得られる保険、クトゥグアがかけている保険はそういうものだ。
具体的にそれはどのようなものか? それは単純だ。一部の人間もやっていることであり、敵の中に身内を置くことだ。人間社会で言うところの政略結婚が近い。表面上の同盟関係を結ぶためのそれと似ている。
やり方は色々だ。単純な色仕掛けで済ませることもあれば、時間をかけて信頼を作ることもある。
戦闘時においてはわかりやすい。一緒に戦えばいいのだ。
だが、その奮闘によって本来の目標が潰されては意味が無い。だから肝心なところで身を引く。本当に危険な場面はできるだけ避ける。重要な一戦にはついていかない。
我々も保険を色々とかけるが、こういうやり方をするのは今のところクトゥグアだけだ。ヨグ=ソトースは家ごと乗っ取ったりはするが、普通の人間と生活を密にしようとはしない。
ヨグ=ソトースなどのやり方は人間を騙すやり方だが、クトゥグアはまったくの逆。送り込まれたクトゥグアの分身は自身のことをクトゥグアだと認識していない。自身のことを人間だと思い、愛する人と生活を共にする。クトゥグアであるということを自覚するのはある条件を満たした時だけだ。
だからとても参考になった。だからナイアラは笑っていた。
◆◆◆
ナンティは台所で包丁を使っていた。
トントントンと、包丁が野菜を刻む音が心地よく響いていた。
いつものリズム。いつもの調子。
なのに、俺は違和感を抱いた。
何かが違う。そう思った。
鋭い二人はその違和感の正体をはっきりと感じ取れているようだった。
だから二人とも戦闘態勢だった。
いつでも抜刀して迎撃できる、そんな態勢でアルフレッドは野菜を刻むナンティの背中に声をかけた。
「少し体を調べさせてもらいますが、よろしいですね? 痛みは与えません。約束します」
「……」
ナンティは答えなかった。
だが、アルフレッドとベアトリスは問答無用らしく、蝶の精霊を展開した。
そしてアルフレッドはナンティに近づき、ある程度の距離を置いたところで立ち止まった。
この距離ならばどんな攻撃が来ても対処できる、その自信を維持できる距離。
その距離はフレディから見れば大げさすぎる距離に見えた。
ナンティはそんなに鋭く動けない、そう思っていた。
が、
「っ!?」
アルフレッドが蝶を放った直後に見せたナンティの動きはフレディの知っているそれでは無かった。
速かった。これまでに見たナンティのどの動きよりも。
気付けば、炎をまとったナンティの包丁がアルフレッドの二刀とぶつかり合っていた。
アルフレッドが言ったことは正解だった。
ナンティの中にはクトゥグアの種が埋め込まれていたのだ。
情報の出所はキーラ。
キーラもクトゥグアに乗っ取られていたことがあった。それを治療したのはアルフレッド。その時にアルフレッドはクトゥグアの種の存在などを知ったのだ。
思い返してみればおかしいところはあった。ナンティの動きは戦いの状況に合わせたかのように突然良くなることがあった。
その時のナンティは今でも時々夢に見る。
その戦いの中でナンティが見せた動きは、どれも俺が知るナンティのものでは無かった。
炎の魔法も凄まじかった。ナンティは本当はこんなに強かったのかと驚かされた。
だが、この戦いの結末に関しては俺の願いは届いていた。
アルフレッドとベアトリスはナンティに大きな傷を負わせること無く無力化し、その頭の中にあった異物を白い球で取り除いてくれたんだ。
ナンティを救ったあと、アルフレッドとベアトリスは休むこと無く次の目的地に向かって出発した。
ナンティと一緒に暮らしていた部族の仲間にも同じ種が埋め込まれている可能性が高いからだ。
あの二人に普通の生活が訪れるのはかなり先のことになりそうだ。
だがしょうがない。誰にでもできる仕事じゃない。だから俺には、二人が普通の幸せを手に入れられるように祈ることくらいしかできなかった。
さて、これでほとんど話し終わったと思うが――
ああ、そうだった。あと一人いたな。あいつなら――
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