Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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最終章

第五十五話 逢魔の調べ(1)

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   ◆◆◆

  逢魔の調べ

   ◆◆◆

「走れ!」「逃がすな!」

 追う者達と追われる者達の声が重なる。

「隊列を乱すな!」

 そこに守る者達の声が割り込む。
 だが、その者達の足取りは追われる者達のそれとあまり変わらない。
 ゆえにケビンとバージルは声を上げた。

「もうすぐだ!」「踏ん張れ!」

 何がもうすぐなのか。
 それは周囲の景色に現れていた。
 家屋の数がまばらになっている。
 街の終わりである。
 さらにそれは既に耳にも聞こえ始めていた。
 戦闘音に混じっていたが、それは確かに耳に届いていた。
 数え切れないほどの蹄の音。
 騎馬隊が近づいてくる音だ。
 そしてその音をはっきりと捉えたある兵士が声を上げた。

「騎馬隊だ!」

 その声を合図に、全員の視線がそちらへ向いた。
 道を挟んで右からレオン達が、左からアンナ達が駆け迫る様が皆の瞳に映る。
 そしてその視線を感じ取った二人は同時に声を上げた。

「「散開!」」

 この指示に騎兵達は声無く応えた。
 各々の間隔を大きく広げる。
 かつてレオンに見せた騎馬戦を想定した形。
 そして騎兵達は「次の指示」を待った。

 次の戦いではリックのように動ける敵が大勢いる、その情報を聞いたアンナとレオンは次の日からある訓練を始めた。
 馬に迫る速度で動ける連中を想定した訓練である。
 これには実際にリックに手伝ってもらった。
 その結果、分かったことが一つあった。
 接近戦、すなわち乱戦への対策が必要であるということだ。

 直後にアンナとレオンはその成果を声に出した。

「「構え!」」

 その声に応じて騎兵達が背中から取り出したるは槍。
 先端に刃がついているものとは違う。
 細長い円錐状の「ランス」と呼ばれるものであった。 
 握り手を脇の下に置き、地に対して水平に構える。
 対し、アンナとレオンの武装は違っていた。
 アンナは馴染みの長剣であるが、レオンが握るは穂先が十字型をしている十文字槍。
 受けや払いに優れた形状であるが、刺突の際にひっかかりやすいという問題も抱えている。
 だが、レオンは指揮官である自分が早く倒れることはあってはならないと考え、それを選んでいた。
 そしてアンナとレオンはバージル達と心を繋げた。
 これからどうするのか、「どこを通るのか」の事前連絡。
 アンナとレオンはその相談によって決まった経路を、同じ心の声で騎兵達に伝達すると同時に叫んだ。

「「突撃(チャージ)!」」

 その声が響いたのとほぼ同時に、騎兵達は前に構えたランスの先端から光の傘を展開した。
 バージルが見せる「槍斧突撃」と同じ攻防一体の型。

「「「!」」」

 その圧倒的な重量差による威圧感に、キーラ達が目を見開く。
 驚きながらもキーラ達は彼らの経路を盗み読み、それぞれの判断で地を蹴った。
 直後、アンナ達は敵を食い止めるバージル達に右斜め後ろから突っ込んだ。
 前を走る市民達にはそう見えた。
 違うことはすぐに分かった。しかし目の前の現実が信じられなかった。
 聞こえてくるのは敵の悲鳴のみ。
 アンナがかつて見せた共感を利用したすれ違い。
 その奇跡のような技に、さらなる奇跡が重なった。
 一呼吸遅れて到達したレオン達が左斜め後ろから突っ込む。
 しかし当たらない。馬同士が、仲間同士が一切接触しない。
 すなわち、動かなければやりすごせる安全地帯が存在する。
 回避行動が間に合った敵はそこに逃げ込んでいたが、

「ぐぅあ?!」「がぁっ!」

 後続の騎兵達がすれ違い様にランスでそれを突き、なぎ払う。
 その攻撃に反応できた一部の影は防御魔法でそれを受けたが、

「ぅごえっ!?」

 その防御に意味は無かった。
 重量差が違いすぎる。
 盾は一瞬で砕けた。
 そうなることは影にも分かっていた。しかし刃では無いからなぎ払いであれば生身の両腕で受け止められるのでは、と影は思っていた。
 それが愚かな判断であることは自分の腹から生まれた痛みで分かった。
 食い込んだ腕に圧迫されたことによる痛み。
 その感覚の鋭さと強さから、何かの内臓が破裂したことは明らかだった。
 そして影はその激痛の中でさらなる新たな経験をした。
 魔法力では無い、ただの重さと速さの力だけで自身の体が高く浮かされたのだ。
 なぎ払いで当てたランスをそのまま振り上げた、たったそれだけのことで軽々と。
 影は浮遊感の中で成す術も無く、ただ中空から見渡すことしか出来なかった。
 自分と同じように浮かされた仲間達の姿が見える。

「!」

 瞬間、影は恐ろしいものを見た。
 中空から落ち始めたある仲間が、下からランスで串刺しにされたのだ。
 まさか自分も?
 それが最後の思考となり、

「ぐぇっ!」

 直後の悲鳴が最後の言葉となった。
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