Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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最終章

第五十四話 魔王上陸(19)

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   ◆◆◆

 その変化をアランは遠方で感じ取った。
 そしてその後は予想した通りになった。
 街の守備隊と海岸線の防衛隊が混ざり合って大通りを後退。
 逃げる市民を逆に押すような勢い。
 そうなる理由は感じ取るまでも無かった。
 大通りに沿って黒煙が上がっている。
 敵の中にいる炎使いがかなり暴れているようだ。
 その熱気に兵士達は押されている。
 ゆえに、しんがりに近い市民達は物資を捨てて逃げ始めた。
 だがそのおかげで後退が早まった。
 もうじきそのしんがり達が皆の視界に入る。この平野に飛び出してくる。
 だからアランは息を吸い込み、

「騎馬隊、前進しろ!」

 バージル達が街の出口に近づいたのを計って(はかって)、声を上げた。
 彼らを援護せよという思いを込めて。
 その思いにアンナとレオンは、

「「ハイラッ!」」

 気勢で応えた。

   ◆◆◆

 同時刻――

 港には本隊が到着していた。
 総大将である魔王は足を下ろすと同時に、

「ふむ、なかなか良いところではないか」

 正直な感想を漏らした。
 そして魔王は少し遅れて船を下りてきた側近に対して尋ねた。

「そなたにとっては久しぶりの『故郷』であろう。懐かしいのではないか?」

 これに側近は、ラルフは首を振った。

「自分は外界から連れてこられた奴隷だったので……あまりそういう感情は沸きません」

 これに魔王は「そうか」と淡白な返事をした後、街の方に視線を戻した。
 そして魔王は再び思った。
 ここは完全に制圧すれば外界への良い玄関口になるな、と。
 だがそのために必要なものが失われていることも感じ取っていた。
 ゆえに魔王は忌々しげに口を開いた。

「……しかし物が何も残っておらんな。見事な逃げ足だ」

 だから魔王は続けて参謀に尋ねた。

「船の兵糧はどれくらい残っている?」

 参謀は即答した。

「途中で別れた遊撃部隊の船の分が不明ですが、ここにあるだけだと一ヶ月ももたないかと」

 ならば進軍して奪うしか無い。
 だから魔王は続けて尋ねた。

「『音楽隊』の準備は?」

 これにも参謀は即答した。

「あと十分ほどで完了の予定でございます」

 その答えに満足した魔王は、少し声色を良くしながら口を開いた。

「終わり次第前進させろ」

 これに参謀は礼を返し、指示のための虫を飛ばした。

   第五十五話 逢魔の調べ に続く
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