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最終章
第五十四話 魔王上陸(19)
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その変化をアランは遠方で感じ取った。
そしてその後は予想した通りになった。
街の守備隊と海岸線の防衛隊が混ざり合って大通りを後退。
逃げる市民を逆に押すような勢い。
そうなる理由は感じ取るまでも無かった。
大通りに沿って黒煙が上がっている。
敵の中にいる炎使いがかなり暴れているようだ。
その熱気に兵士達は押されている。
ゆえに、しんがりに近い市民達は物資を捨てて逃げ始めた。
だがそのおかげで後退が早まった。
もうじきそのしんがり達が皆の視界に入る。この平野に飛び出してくる。
だからアランは息を吸い込み、
「騎馬隊、前進しろ!」
バージル達が街の出口に近づいたのを計って(はかって)、声を上げた。
彼らを援護せよという思いを込めて。
その思いにアンナとレオンは、
「「ハイラッ!」」
気勢で応えた。
◆◆◆
同時刻――
港には本隊が到着していた。
総大将である魔王は足を下ろすと同時に、
「ふむ、なかなか良いところではないか」
正直な感想を漏らした。
そして魔王は少し遅れて船を下りてきた側近に対して尋ねた。
「そなたにとっては久しぶりの『故郷』であろう。懐かしいのではないか?」
これに側近は、ラルフは首を振った。
「自分は外界から連れてこられた奴隷だったので……あまりそういう感情は沸きません」
これに魔王は「そうか」と淡白な返事をした後、街の方に視線を戻した。
そして魔王は再び思った。
ここは完全に制圧すれば外界への良い玄関口になるな、と。
だがそのために必要なものが失われていることも感じ取っていた。
ゆえに魔王は忌々しげに口を開いた。
「……しかし物が何も残っておらんな。見事な逃げ足だ」
だから魔王は続けて参謀に尋ねた。
「船の兵糧はどれくらい残っている?」
参謀は即答した。
「途中で別れた遊撃部隊の船の分が不明ですが、ここにあるだけだと一ヶ月ももたないかと」
ならば進軍して奪うしか無い。
だから魔王は続けて尋ねた。
「『音楽隊』の準備は?」
これにも参謀は即答した。
「あと十分ほどで完了の予定でございます」
その答えに満足した魔王は、少し声色を良くしながら口を開いた。
「終わり次第前進させろ」
これに参謀は礼を返し、指示のための虫を飛ばした。
第五十五話 逢魔の調べ に続く
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