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第七章 アランが父に代わって歴史の表舞台に立つ
第五十一話 勇将の下に弱卒なし(1)
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◆◆◆
勇将の下に弱卒なし
◆◆◆
「雄雄ォッ!」
ケビンはあらん限りの勇気を叫びに変えて、走り出した。
が、
「ぐっ!?」
その足は直後に止まった。
視界が激しく明滅し、目の前にあった木々がなぎ倒されていく。
遮蔽物が無くなり、目に新たな白が、太陽の光が差し込む。
ケビンはその陽光から逃げるように、新たな日陰を求めて地を蹴った。
されど新しく放たれた嵐がそれをなぎ払う。
しかしそこにケビンは既にいない。
影へ影へ移動し続ける。
こんなことをケビンは既に十回は繰り返していた。
されどケビンはただ逃げているだけでは無かった。
走りながら光弾を放つ。
だがそれはラルフに対しての反撃では無かった。
ケビンを迂回してリリィを追いかけようとする者達への攻撃だ。
ラルフが一対一を望んだ理由はこれなのだ。
「はぁ、はっ、くそ!」
息が上がり、足が草にとられる。
もう逃げてもいいのではないか、そんな考えがケビンの脳裏に浮かぶ。
ケビンはそれを振り払うように、心の中で叫んだ。
(駄目だ、もっと粘らなくては!)
リリィとの距離はまだそれほど離れていない。
その理由は単純、ラルフが放つ嵐に押されて自分も後退し続けているからだ。ラルフの足はまったく止まっていない。
そしてそれは追っ手の足も同じ。
そも、今のケビン一人の攻撃で止められる人数では無い。
それでも放置は出来ない。併走するように後退する。
だから状況がまったく好転しないのだ。
ケビン自身がリリィを追いかけているように見える有様。
「ぜっ、はぁっ、この……っ!」
だから荒い息遣いの中に悪態が混じりかける。
しかしその悪態は言葉になる前に、
「っ!?」
嵐に吹き飛ばされた。
生来持つ勇気と競り合うかのように恐怖の色が心に滲む。
しかしその色が放つ警告は至極真っ当であり、ゆえにケビンはその色が放つ声を素直に飲み込むことが出来た。
このままではいつか嵐に飲み込まれる、その色はそう言っていた。
だから、ケビンはいつの間にか剣を抜いていた。
これでなんとかするしかない、『あの時の二人のように』、そんな言葉が脳裏に浮かんだ瞬間、ケビンはその刀身を発光させた。
そして警告は直後に現実のものとなった。
ラルフが鋭い踏み込みと共に嵐を放ったのだ。
眼前にある木々の数は、障害物は十分であるように見えたが、
(マズい!)
という本能の叫びに、ケビンの体は従った。
鋭く後方に地を蹴る。
そしてその足が再び地面に着くよりも早く、視界は白く染まった。
光る剣で迎え撃つ。
が、
「ぐっ!」
ケビンの体に鋭い痛みが走った。
しかしこれは覚悟していたことであった。
切り払ったのは直撃が許されない大きな蛇のみ。
小さな白蛇は無視した。そうせざるを得なかった。
だが、小さな傷でも積もればいつかは致命傷と化す。
やはり、自分ではあの時の『二人』のようにはなれないのだろうか?
そんな思いが浮かんだと同時に、ケビンの足は再び動いていた。
ケビンは間違いに気付いたのだ。
自分は『一人』なのだ。工夫無しに二人分の仕事が出来るわけが無い。
つまり手数が足りない。
しかしこれは敵から武器を奪うことによって補える。
ゆえに、ケビンの目標は迂回しようとしている追跡部隊の一つ。
接近に対し、部隊が迎撃の光弾を放つ。
これをケビンは木や防御魔法を利用して突破。
止められない、そう判断した部隊が一斉に抜刀する。
しばらく接近戦になる、その場にいる全員がそう思っていた。
双方が密着すればラルフは嵐を撃てなくなるからだ。
が、その考えは外れていることをラルフは直後に行動で示した。
(何っ?!)
双方の刃がぶつかり合う、その瞬間を狙ってラルフは嵐を放った。
「うあぁっ?!」
閃光の中に赤が滲み、悲鳴が響き渡る。
しかしその中にケビンの声は無かった。
敵を盾にして上手くやり過ごしたケビンは、安堵を覚えるよりも早く叫んだ。
「このくそ野郎!」
躊躇無く味方ごとなぎ払いやがった、その驚きを軽蔑に変えてラルフに叩き付ける。
「……」
しかしラルフは動じなかった。
そしてラルフはその無表情のまま構えた。
勇将の下に弱卒なし
◆◆◆
「雄雄ォッ!」
ケビンはあらん限りの勇気を叫びに変えて、走り出した。
が、
「ぐっ!?」
その足は直後に止まった。
視界が激しく明滅し、目の前にあった木々がなぎ倒されていく。
遮蔽物が無くなり、目に新たな白が、太陽の光が差し込む。
ケビンはその陽光から逃げるように、新たな日陰を求めて地を蹴った。
されど新しく放たれた嵐がそれをなぎ払う。
しかしそこにケビンは既にいない。
影へ影へ移動し続ける。
こんなことをケビンは既に十回は繰り返していた。
されどケビンはただ逃げているだけでは無かった。
走りながら光弾を放つ。
だがそれはラルフに対しての反撃では無かった。
ケビンを迂回してリリィを追いかけようとする者達への攻撃だ。
ラルフが一対一を望んだ理由はこれなのだ。
「はぁ、はっ、くそ!」
息が上がり、足が草にとられる。
もう逃げてもいいのではないか、そんな考えがケビンの脳裏に浮かぶ。
ケビンはそれを振り払うように、心の中で叫んだ。
(駄目だ、もっと粘らなくては!)
リリィとの距離はまだそれほど離れていない。
その理由は単純、ラルフが放つ嵐に押されて自分も後退し続けているからだ。ラルフの足はまったく止まっていない。
そしてそれは追っ手の足も同じ。
そも、今のケビン一人の攻撃で止められる人数では無い。
それでも放置は出来ない。併走するように後退する。
だから状況がまったく好転しないのだ。
ケビン自身がリリィを追いかけているように見える有様。
「ぜっ、はぁっ、この……っ!」
だから荒い息遣いの中に悪態が混じりかける。
しかしその悪態は言葉になる前に、
「っ!?」
嵐に吹き飛ばされた。
生来持つ勇気と競り合うかのように恐怖の色が心に滲む。
しかしその色が放つ警告は至極真っ当であり、ゆえにケビンはその色が放つ声を素直に飲み込むことが出来た。
このままではいつか嵐に飲み込まれる、その色はそう言っていた。
だから、ケビンはいつの間にか剣を抜いていた。
これでなんとかするしかない、『あの時の二人のように』、そんな言葉が脳裏に浮かんだ瞬間、ケビンはその刀身を発光させた。
そして警告は直後に現実のものとなった。
ラルフが鋭い踏み込みと共に嵐を放ったのだ。
眼前にある木々の数は、障害物は十分であるように見えたが、
(マズい!)
という本能の叫びに、ケビンの体は従った。
鋭く後方に地を蹴る。
そしてその足が再び地面に着くよりも早く、視界は白く染まった。
光る剣で迎え撃つ。
が、
「ぐっ!」
ケビンの体に鋭い痛みが走った。
しかしこれは覚悟していたことであった。
切り払ったのは直撃が許されない大きな蛇のみ。
小さな白蛇は無視した。そうせざるを得なかった。
だが、小さな傷でも積もればいつかは致命傷と化す。
やはり、自分ではあの時の『二人』のようにはなれないのだろうか?
そんな思いが浮かんだと同時に、ケビンの足は再び動いていた。
ケビンは間違いに気付いたのだ。
自分は『一人』なのだ。工夫無しに二人分の仕事が出来るわけが無い。
つまり手数が足りない。
しかしこれは敵から武器を奪うことによって補える。
ゆえに、ケビンの目標は迂回しようとしている追跡部隊の一つ。
接近に対し、部隊が迎撃の光弾を放つ。
これをケビンは木や防御魔法を利用して突破。
止められない、そう判断した部隊が一斉に抜刀する。
しばらく接近戦になる、その場にいる全員がそう思っていた。
双方が密着すればラルフは嵐を撃てなくなるからだ。
が、その考えは外れていることをラルフは直後に行動で示した。
(何っ?!)
双方の刃がぶつかり合う、その瞬間を狙ってラルフは嵐を放った。
「うあぁっ?!」
閃光の中に赤が滲み、悲鳴が響き渡る。
しかしその中にケビンの声は無かった。
敵を盾にして上手くやり過ごしたケビンは、安堵を覚えるよりも早く叫んだ。
「このくそ野郎!」
躊躇無く味方ごとなぎ払いやがった、その驚きを軽蔑に変えてラルフに叩き付ける。
「……」
しかしラルフは動じなかった。
そしてラルフはその無表情のまま構えた。
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