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11.俺、掃除を終える
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――――まぁ、あれだ。ここへ問答無用で連れて来られて、俺もストレス溜まってたんだろうな。
ひとまずギリギリ及第点というところまで掃除したところで、俺は我に返った。正直、シャラウィにはすまなかったと思っている。だが、掃除を手伝わずに道具だけ置いて逃げたので、やっぱり面と向かって謝るのはやめておこう。
まだシャラウィは戻る様子を見せないので、俺は勝手に氷室の中を確認させてもらうことにする。予想よりは無事な食材が多かったため、遠慮なく使わせてもらおう。やたらと根菜類が多いのは、保存期間が長いからだろうな。
「厨房を利用しない研究員も多いって言ってたっけ。何人分ぐらい作ればいいんだ?」
本来の食事当番であるシャラウィに確認できればいいんだが、まだ戻ってくる様子はない。まぁ、足りなければ追加で作ればいいか、と割り切って、研究員の半分が食べると仮定して分量を決める。大麦を茹で、サツマイモとジャガイモを蒸し、干し肉でスープのだしを取り、ややしなびかけていた葉物野菜をちぎって軽く塩もみし……なんだか楽しくなってきた。
「パン……も、焼かなきゃいけないのか?」
ふっくらしたパンを作るには確かそのための種が必要だったはずだ。氷室にはそれっぽいものは見当たらなかった。まぁ、どのみち生地を発酵させる時間はない。
オーブンの中は、ほとんど使われていなかったせいか、逆にきれいだった。腐部屋の中で唯一きれいだった場所と言っていいかもしれない。まぁ、話を聞く限り、オーブンを使うような料理を作れなかったんだろう。
オーブンの使い方は後でシャラウィが戻ってきたら聞くことにして、俺はパン生地を先に作るべく小麦粉と塩をオリーブオイルと水で混ぜてこね始めた。不思議なもので、こうして料理をしているときは無心になれる。
掃除もそうだが、料理をしているときは、これから先、自分がどうなってしまうのかという不安を忘れていられる。お邸で散々こき使われたおかげで身に付いた技が、こんなところで役に立つとは思わなかった。様々な仕事を押しつけられることで培われた掃除と料理と庭仕事と帳簿つけ、それから根性。これを駆使して俺は魔族だらけのこの研究所で生き抜けるんだろうか。
ボウルの中でなめらかになった生地を濡れ布巾で覆い、俺はサッと手を洗った。スイッチに手をかざすだけで水が出てくるとか、この厨房の様々な仕掛けはすごいと思う。魔族ならではの技術なんだろうか。うちの国に売り出したら、すごく稼げそうな気もするんだが。
生地を休ませている間に、サラミやパプリカ、ピーマンにタマネギといった具材をスライスしていく。これを先ほどのパン生地に乗せて焼けば、まぁそれなりの味と栄養になるはずだ。
茹で上がった大麦に蒸したサツマイモを角切りにしたもの、軽く塩もみした野菜をさっくり混ぜ、塩こしょうでサラダの完成。同じく蒸し上がったジャガイモをひたすら潰し、牛乳とバターで少し伸ばしてこれも塩こしょうで味付けすれば、マッシュポテトの完成だ。だしを取っておいた大鍋には、目についた根菜類をサクサク切ってスープに仕立て上げる。少し肌寒い気がするのでジンジャーもアクセントに加えておいた。
「あとはオーブンだな、うん」
研究室に戻ってシャラウィを探すか、と大きく伸びをしたところで、俺はようやく彼に気づいた。
「シャラウィ?」
探しに行こうと思っていたシャラウィが、厨房の入り口で口をあんぐり開けて立ち尽くしていた。
「こ、これは、なにがあったんだねぃ!」
「なにって、……あ、もしかして使っちゃいけない食材とかがあったのか? マズいな。それは確認するの忘れてた」
「違うんだねぃ! 厨房はきれいになってるし、美味しそうな匂いはプンプンしてるし、どういうことなんだねぃ!」
どういうこともなにも、俺が掃除して料理しただけなんだが。
「えぇと、シャラウィ。オーブンの使い方を知ってたら教えてくれないか?」
「オーブン! まさか、まだ作るのかねぃ!」
「作るっていうか、パンを焼きたいんだが」
俺の説明に、シャラウィの少し尖った耳がぴこぴこっと揺れた。え、耳って動くの?
「すごい! ミケーレは単なるモルモットじゃなかったんだねぃ!」
シャラウィにさえ実験動物と認識されていた俺は、思わず崩れ落ちそうになったが、喜々としてオーブンの扱い方を説明してくれるので、それはなんとか頭にたたき込んだ。
ひとまずギリギリ及第点というところまで掃除したところで、俺は我に返った。正直、シャラウィにはすまなかったと思っている。だが、掃除を手伝わずに道具だけ置いて逃げたので、やっぱり面と向かって謝るのはやめておこう。
まだシャラウィは戻る様子を見せないので、俺は勝手に氷室の中を確認させてもらうことにする。予想よりは無事な食材が多かったため、遠慮なく使わせてもらおう。やたらと根菜類が多いのは、保存期間が長いからだろうな。
「厨房を利用しない研究員も多いって言ってたっけ。何人分ぐらい作ればいいんだ?」
本来の食事当番であるシャラウィに確認できればいいんだが、まだ戻ってくる様子はない。まぁ、足りなければ追加で作ればいいか、と割り切って、研究員の半分が食べると仮定して分量を決める。大麦を茹で、サツマイモとジャガイモを蒸し、干し肉でスープのだしを取り、ややしなびかけていた葉物野菜をちぎって軽く塩もみし……なんだか楽しくなってきた。
「パン……も、焼かなきゃいけないのか?」
ふっくらしたパンを作るには確かそのための種が必要だったはずだ。氷室にはそれっぽいものは見当たらなかった。まぁ、どのみち生地を発酵させる時間はない。
オーブンの中は、ほとんど使われていなかったせいか、逆にきれいだった。腐部屋の中で唯一きれいだった場所と言っていいかもしれない。まぁ、話を聞く限り、オーブンを使うような料理を作れなかったんだろう。
オーブンの使い方は後でシャラウィが戻ってきたら聞くことにして、俺はパン生地を先に作るべく小麦粉と塩をオリーブオイルと水で混ぜてこね始めた。不思議なもので、こうして料理をしているときは無心になれる。
掃除もそうだが、料理をしているときは、これから先、自分がどうなってしまうのかという不安を忘れていられる。お邸で散々こき使われたおかげで身に付いた技が、こんなところで役に立つとは思わなかった。様々な仕事を押しつけられることで培われた掃除と料理と庭仕事と帳簿つけ、それから根性。これを駆使して俺は魔族だらけのこの研究所で生き抜けるんだろうか。
ボウルの中でなめらかになった生地を濡れ布巾で覆い、俺はサッと手を洗った。スイッチに手をかざすだけで水が出てくるとか、この厨房の様々な仕掛けはすごいと思う。魔族ならではの技術なんだろうか。うちの国に売り出したら、すごく稼げそうな気もするんだが。
生地を休ませている間に、サラミやパプリカ、ピーマンにタマネギといった具材をスライスしていく。これを先ほどのパン生地に乗せて焼けば、まぁそれなりの味と栄養になるはずだ。
茹で上がった大麦に蒸したサツマイモを角切りにしたもの、軽く塩もみした野菜をさっくり混ぜ、塩こしょうでサラダの完成。同じく蒸し上がったジャガイモをひたすら潰し、牛乳とバターで少し伸ばしてこれも塩こしょうで味付けすれば、マッシュポテトの完成だ。だしを取っておいた大鍋には、目についた根菜類をサクサク切ってスープに仕立て上げる。少し肌寒い気がするのでジンジャーもアクセントに加えておいた。
「あとはオーブンだな、うん」
研究室に戻ってシャラウィを探すか、と大きく伸びをしたところで、俺はようやく彼に気づいた。
「シャラウィ?」
探しに行こうと思っていたシャラウィが、厨房の入り口で口をあんぐり開けて立ち尽くしていた。
「こ、これは、なにがあったんだねぃ!」
「なにって、……あ、もしかして使っちゃいけない食材とかがあったのか? マズいな。それは確認するの忘れてた」
「違うんだねぃ! 厨房はきれいになってるし、美味しそうな匂いはプンプンしてるし、どういうことなんだねぃ!」
どういうこともなにも、俺が掃除して料理しただけなんだが。
「えぇと、シャラウィ。オーブンの使い方を知ってたら教えてくれないか?」
「オーブン! まさか、まだ作るのかねぃ!」
「作るっていうか、パンを焼きたいんだが」
俺の説明に、シャラウィの少し尖った耳がぴこぴこっと揺れた。え、耳って動くの?
「すごい! ミケーレは単なるモルモットじゃなかったんだねぃ!」
シャラウィにさえ実験動物と認識されていた俺は、思わず崩れ落ちそうになったが、喜々としてオーブンの扱い方を説明してくれるので、それはなんとか頭にたたき込んだ。
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