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01.物騒なプロポーズ(前)
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人間、平々凡々な人生が一番なのではないかと思う。いや、波乱万丈な人生こそが……!という人もいるかもしれないが、それは好みの問題か。
要は、私が「平々凡々な人生こそ最良!」と思っている人間なのだ。
「この手を取ってもらえなければ、俺は世界を滅ぼしてしまうかもしれない」
こんな物騒なプロポーズをしてくる相手と結婚など、もってのほかなのだ!!!
🌸🌸🌸
姓は橘、名前は華。SNSでよく使っていた名前はKIKKA。
よくある会社員夫婦の娘として育ち、そこそこの学校を出て、それなりの会社に勤めていた、至って普通の日本人だった。
そんな普通な私が普通ではなくなったきっかけは、うっかり付き合いで買ったジャンボ宝くじ(連番)。何の間違いか当たってしまった一等前後賞。それをぽろりと彼氏にこぼしてしまったせいで、平凡な私の人生はあっという間にノーロープバンジーになり、あっという間に終了した。
死ぬ間際に思ったよね。当選金をもらったときに一緒にもらったガイドブック。あれに書いてあることをしっかり読み込んでおけば良かったって。
走馬灯を眺めながら思ったよね。来世があるなら、長生きしたかったって。
次に自分というものを意識したとき、私はどうやら異世界転生してしまったらしいことに気づいた。
(いや、平凡な人生に、前世の記憶とかいらないよね!?)
齢3歳にして、アラサーの記憶を持つ私、頑張った。すごく頑張った。どんな羞恥プレイなの?とか思いながら、必死に3歳に擬態した。
その努力の甲斐あって、私は「たまに突飛なことを言うけど、基本的にはいい子」のポジションに何とか収まっている。
なお、今世の私はリリアン・ギース。チョコレートブラウンの髪と、ウォールナッツのような目をした鄙びた領地の子爵令嬢である。要は、茶色の髪に茶色の瞳で地味な色の、十人並みの貴族令嬢だ。すばらしい。二つ下の弟がいるので、後継はそちらになるし、私は近隣の領地の息子と政略結婚か、もしくはどこぞの豪商へと嫁ぐだろう。
うちの領地はこれと言った特産はなく、税収もそれなりだし、余裕があれば不作のときのために蓄財したり、たまに街道や橋を整備するぐらい。贅沢なんて言える懐事情じゃない。
異世界転生と言えば、あるあるの魔法チートが……!と思わなくもなかった。この世界、魔法は確かに存在するけれど、いわゆる火球で敵を一掃したりするなんていうのは、王宮に勤める一握りの魔法使いがそれこそ数人がかりでやるものらしい。あ、でも、最近、とんでもなくチートな魔法使いが誕生したらしく、王宮がわっしょいわっしょいフィーバーフィーバーだったと、王都と領地を唯一行き来しているお父様から聞かされた。弟は目を輝かせて聞いていたけれど、そんな遠い存在のことは、うちには関係がないので、適当に聞き流しておいた。
さて、魔法の話に戻ろう。
実は私も魔法が使える。正直楽しい。といっても、チートができる程じゃない。ちょっと土をぼこりと隆起させる程度だ。平民はほとんど魔法が使えず、貴族が多少使える程度、というのがこの世界の在り方だ。別に魔法を鍛える必要はないのだけれど、私は前世にはなかった魔法を使うのが楽しくて楽しくて、だからと言って、邸の庭をぼこぼこさせるわけにもいかない。考えた結果、お母様にお願いして孤児院の慰問をすることになった。
土ぼっこりと孤児院の慰問の関連性? それはもちろん畑である。
孤児院は自給自足のために畑が併設されている。子どもたちはそこで農作業をし、少しでも日々の糧を得るのだ。そこに私の土ぼっこりの出番である。土ぼっこり魔法を改良し、前世でいうトラクターのような回転をイメージした魔法で、畑を耕し放題だ。林から落ち葉を持って来させて鋤き込んだり、生えっぱなしの雑草と一緒に耕したりしていたら、うまいこと収穫量が上がったようで、喜ばれた。木の太い根なんかは、さすがにぶちっと耕せないので開墾の手伝いはできないが、それでも土をひっくり返すのは重労働だから、十分な働きと言える。
16歳になった今でも、収穫を終えるたびに孤児院に通い、畑を耕すのは私の大切な仕事だ。私は思いきり魔法が使えてすっきりするし、孤児院も重労働を減らせる。WIN-WINの関係なのだけれど、最近はちょっぴりお母様の目が怖い。畑を耕した後は、どうしたって服が汚れるからだ。あと、禁止はされないが、もう少し慎み深く魔法を使って欲しいと注意される。まぁ、魔法で耕すのが楽しいからと「どっせい!」「そいや!」とか言うのは、さすがに私もそろそろやめようと思ってはいる。でも、つい口に出てしまうのを、どう止めればいいんだろう?
16歳で立派に成人を迎えた私は、孤児院を慰問し、針仕事でちょっと小銭を稼ぎ、婚活のためにマナーを復習する日々を過ごしている。え? 知識チート? せいぜいちょっと計算が速いぐらいだけど? 十進法でありがたかったよ? 2進法とか16進法とかだったら詰んだからね。
針仕事――要は刺繍を施して町に卸して稼いだ小銭だけど、私は経済の循環のためにちょこちょこ使っている。えぇ、経済の循環のためですとも。お金は使って回さないといけないからね。
淑女というものは、お酒を飲み過ごしたりしないんですって。飲んでもちょっと舐める程度。ありえなくない? お酒は楽しく飲んでなんぼでしょ、と前世の私が叫ぶので、こっそり家を抜け出して、こっそり町の酒場に顔を出し、ゆったりお酒をたしなんでいる。幸い、鄙びた田舎領地は、あんまり治安も悪くない。せいぜい酔っ払い同士のケンカに気を付ければいい程度。いや、お父様がよく治めているから治安が良いんだろう。うん。
で、昨夜もちょっと邸を抜け出して、回遊魚のようにいくつか周回しているうちの1つのバーに向かって、上機嫌で酔っぱらってこっそり帰ってきた。それで、今朝はちょっぴり頭が重い。それだけだった、……のに。
要は、私が「平々凡々な人生こそ最良!」と思っている人間なのだ。
「この手を取ってもらえなければ、俺は世界を滅ぼしてしまうかもしれない」
こんな物騒なプロポーズをしてくる相手と結婚など、もってのほかなのだ!!!
🌸🌸🌸
姓は橘、名前は華。SNSでよく使っていた名前はKIKKA。
よくある会社員夫婦の娘として育ち、そこそこの学校を出て、それなりの会社に勤めていた、至って普通の日本人だった。
そんな普通な私が普通ではなくなったきっかけは、うっかり付き合いで買ったジャンボ宝くじ(連番)。何の間違いか当たってしまった一等前後賞。それをぽろりと彼氏にこぼしてしまったせいで、平凡な私の人生はあっという間にノーロープバンジーになり、あっという間に終了した。
死ぬ間際に思ったよね。当選金をもらったときに一緒にもらったガイドブック。あれに書いてあることをしっかり読み込んでおけば良かったって。
走馬灯を眺めながら思ったよね。来世があるなら、長生きしたかったって。
次に自分というものを意識したとき、私はどうやら異世界転生してしまったらしいことに気づいた。
(いや、平凡な人生に、前世の記憶とかいらないよね!?)
齢3歳にして、アラサーの記憶を持つ私、頑張った。すごく頑張った。どんな羞恥プレイなの?とか思いながら、必死に3歳に擬態した。
その努力の甲斐あって、私は「たまに突飛なことを言うけど、基本的にはいい子」のポジションに何とか収まっている。
なお、今世の私はリリアン・ギース。チョコレートブラウンの髪と、ウォールナッツのような目をした鄙びた領地の子爵令嬢である。要は、茶色の髪に茶色の瞳で地味な色の、十人並みの貴族令嬢だ。すばらしい。二つ下の弟がいるので、後継はそちらになるし、私は近隣の領地の息子と政略結婚か、もしくはどこぞの豪商へと嫁ぐだろう。
うちの領地はこれと言った特産はなく、税収もそれなりだし、余裕があれば不作のときのために蓄財したり、たまに街道や橋を整備するぐらい。贅沢なんて言える懐事情じゃない。
異世界転生と言えば、あるあるの魔法チートが……!と思わなくもなかった。この世界、魔法は確かに存在するけれど、いわゆる火球で敵を一掃したりするなんていうのは、王宮に勤める一握りの魔法使いがそれこそ数人がかりでやるものらしい。あ、でも、最近、とんでもなくチートな魔法使いが誕生したらしく、王宮がわっしょいわっしょいフィーバーフィーバーだったと、王都と領地を唯一行き来しているお父様から聞かされた。弟は目を輝かせて聞いていたけれど、そんな遠い存在のことは、うちには関係がないので、適当に聞き流しておいた。
さて、魔法の話に戻ろう。
実は私も魔法が使える。正直楽しい。といっても、チートができる程じゃない。ちょっと土をぼこりと隆起させる程度だ。平民はほとんど魔法が使えず、貴族が多少使える程度、というのがこの世界の在り方だ。別に魔法を鍛える必要はないのだけれど、私は前世にはなかった魔法を使うのが楽しくて楽しくて、だからと言って、邸の庭をぼこぼこさせるわけにもいかない。考えた結果、お母様にお願いして孤児院の慰問をすることになった。
土ぼっこりと孤児院の慰問の関連性? それはもちろん畑である。
孤児院は自給自足のために畑が併設されている。子どもたちはそこで農作業をし、少しでも日々の糧を得るのだ。そこに私の土ぼっこりの出番である。土ぼっこり魔法を改良し、前世でいうトラクターのような回転をイメージした魔法で、畑を耕し放題だ。林から落ち葉を持って来させて鋤き込んだり、生えっぱなしの雑草と一緒に耕したりしていたら、うまいこと収穫量が上がったようで、喜ばれた。木の太い根なんかは、さすがにぶちっと耕せないので開墾の手伝いはできないが、それでも土をひっくり返すのは重労働だから、十分な働きと言える。
16歳になった今でも、収穫を終えるたびに孤児院に通い、畑を耕すのは私の大切な仕事だ。私は思いきり魔法が使えてすっきりするし、孤児院も重労働を減らせる。WIN-WINの関係なのだけれど、最近はちょっぴりお母様の目が怖い。畑を耕した後は、どうしたって服が汚れるからだ。あと、禁止はされないが、もう少し慎み深く魔法を使って欲しいと注意される。まぁ、魔法で耕すのが楽しいからと「どっせい!」「そいや!」とか言うのは、さすがに私もそろそろやめようと思ってはいる。でも、つい口に出てしまうのを、どう止めればいいんだろう?
16歳で立派に成人を迎えた私は、孤児院を慰問し、針仕事でちょっと小銭を稼ぎ、婚活のためにマナーを復習する日々を過ごしている。え? 知識チート? せいぜいちょっと計算が速いぐらいだけど? 十進法でありがたかったよ? 2進法とか16進法とかだったら詰んだからね。
針仕事――要は刺繍を施して町に卸して稼いだ小銭だけど、私は経済の循環のためにちょこちょこ使っている。えぇ、経済の循環のためですとも。お金は使って回さないといけないからね。
淑女というものは、お酒を飲み過ごしたりしないんですって。飲んでもちょっと舐める程度。ありえなくない? お酒は楽しく飲んでなんぼでしょ、と前世の私が叫ぶので、こっそり家を抜け出して、こっそり町の酒場に顔を出し、ゆったりお酒をたしなんでいる。幸い、鄙びた田舎領地は、あんまり治安も悪くない。せいぜい酔っ払い同士のケンカに気を付ければいい程度。いや、お父様がよく治めているから治安が良いんだろう。うん。
で、昨夜もちょっと邸を抜け出して、回遊魚のようにいくつか周回しているうちの1つのバーに向かって、上機嫌で酔っぱらってこっそり帰ってきた。それで、今朝はちょっぴり頭が重い。それだけだった、……のに。
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