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67.意外な貞操(前)

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「だって、ありえないでしょう? もうこっちは『魔力は桁外れ、体は大人、対話能力は子ども以下』って相手の手綱をとって、何とか上手くやってくしかないかーって腹くくっていたんですよ?」
「なかなか良い表現ですね。確かに彼の方を言い表すのに的確ですわ」
「別に無理に体の関係迫ってくるわけでもなし、これは友愛とかそっちなんでしょうねって理解して、それじゃ、これからどう持っていこうか、なんて考えてたところだったんですよ」

 塔の1階、待合室はもはや休憩室となり、私の愚痴の吐き捨て場所になっていました、まる。シジーナさんの相槌がまた絶妙で話しやすいのよ。

「意外ですね。とっくに食べられているものだと思っていましたけど」
「本人の話を聞いていると、性欲なしというわけでもなさそうですねー。ただ、私の同意を得ずにそういう行為に及ぶと、確実に何かが壊れるって察知してるんじゃないですか? そもそも私に会ったのだって、昔の占いを試した結果だって言ってましたし、案外、そういう魔法か何かあるのかも」
「自分で察知しているのか、魔法で判断しているのか、結果は同じでも随分と評価が変わるところですね。後者だとしたらなかなか最低です」
「ですよねー!」

 確かに、何でもかんでも魔法で判断してたら最悪だ。さすがにそこまでアレではないと信じたい。

「だいたい、他人の夢を覗き見して、幼い頃の初恋相手に腹立てるっておかしくないですか? あるじゃないですか、子どもの頃特有の、年上の異性に憧れる通過儀礼が」
「ありますわね。わたくしの場合は独身の叔父でした。父には散々アレだけはやめておけと止められたものですわ」
「アレって、どんな叔父様だったのか聞いてもいいですか?」
「別に今となっては昔のことですから、構いませんよ。特定の相手を作る様子もなく、ふらふらとしているからと言われただけですから。騎士として独り立ちしていましたし、人間性に問題はないと今でも思っていますが」
「え、人間性以外で問題な部分があったとか、ですか?」
「そうですね。一言で表せば男色だったというだけですわ」
「……それは、お父様も止めますね。出る芽がないんですから」

 そっかー、この世界にもあるのね、男色。……ということは、薄い本? 薄い本はありますか? もしくは薄い本の需要は? この際、王太子殿下×グース卿の主従CPでも……って、さすがに不敬か。そこまでBLに傾倒してるわけじゃないから、いいんだけど。

「……驚きました」
「はい?」
「いえ、皆様、わたくしのこの話を聞くと、一様に眉を顰められますから」
「えーと、男色のことについてですか?」
「えぇ。意味がない。気持ち悪い。色々と言われたことがあります」
「世の中、色々な人がいますから……。たとえば、家のたった一人の跡取りが、という話であれば大変なことになってしまいますけど、そういった実害? 弊害? がなければ構わないと思ってます」

 前世の歴史を紐解いたら、寺とか武将とか、まぁ、色々出てくるから、もともとハードルが低いと言われればそれまでだけど。それに、テレビでLGBTとか特集組まれてたこともあったし。LGBTQだったっけ? LGBTIQQとかもあった気が……。

「ありがとうございます。叔父は今でも独身ですが、わたくしが憧れた頃と変わらず騎士を勤めていて、自慢の叔父なのです」
「その叔父が男色だってこういう場で話しちゃっても大丈夫なんですか?」
「王都からは離れた場所におりますし、当人も別に隠すつもりはないようですから」

 すごいな。もう開き直ってるのか。いや、それともその叔父様が所属している騎士団では男色が横行してるとか、いや、さすがにそれはないか。逆にあるのか? あったとしたらそれはそれでロマンの花が咲くんだけど。

「申し訳ありません。私事で脱線しましたね。……聞き捨てならないのは、夢を覗くということです」
「そもそも例の呪法を使う羽目になったのもそこ絡みだったわけだし、本当にやめて欲しいんですけどね。今回は、私がイヤな夢を見て声出して飛び起きてしまったことが発端なので、あまり強くも言えませんけど」
「この塔は、そんなに音が響くのですか? 石造りですよね?」
「ヨナとは別の階に寝てるから、確かにそこは不自然……あー、もしかしたら、盗聴の魔法とかあるかもしれませんね」

 嫌な結論にたどり着いてしまった。深いため息をついた私を、シジーナさんが同情の眼差しで見ている。
 変な方向に振り切れているヨナのことだ。私の寝室が不可侵だというのなら、そのすぐ隣なら大丈夫だろうみたいに判断して、盗聴なり監視なりしてるに違いない。あぁ、気付きたくなかった。

「個人的には、彼の方は男性として『ない』と思っているのですが、リリアン様は許せてしまうんですね」
「いや、許したくはないですよ? ただ、親が承諾した縁談ですから、そうそう逃れられないと思っていますし、それならそれで、ある程度の折り合いは付けていかないと、って考えてるだけですから」
「そうですわね。確かにわたくしも父に決められたのであれば、相手が誰であれ前向きに取り組みますわ。申し訳ありません、変なことをお伺いしました」
「そんな謝ることじゃないですよ。それに、実家を切り捨てるぐらいに無理とまでは思っていないわけですし」
「そういえば、以前、身近でそんな話がありましたね」
「え、駆け落ちですか?」
「ふふ、リリアン様もこういった話には興味が?」
「もちろんです。他人のコイバナを聞くのは好きですよ?」
「もう5年程前のことですし、名前は伏せさせていただきますが――――」

 シジーナさんは、きっちり2時間、しゃべり倒して帰って行った。

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