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第20話
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もう時間もだいぶ遅かったので、朋美さんを家に送り届け僕は自分の寮に帰ることにした。朋美さんのアパートの前で車を停めて朋美さんが助手席から降りる。そしてアパートへと歩きだしたところで、僕は車から降り朋美さんに近付いた。
「朋美さん…ちょっと待って…」
朋美さんは振り返ったが、僕は朋美さんを反対を向かせて後ろから抱き締めた。朋美さんの頭に僕の唇を添えて優しく言った。
「朋美さん…おやすみなさい」
朋美さんは黙って軽く頷いた。朋美さんの柔らかい髪の毛が僕の頬と鼻先をくすぐる。本音を言えば、このまま離したくない、ずっと一緒に居たい…一緒に…生活したい…そう思う程に僕の心の中は朋美さん一色に染まっていた。しかし朋美さんは、
「和ちゃん、明日早いでしょ?もう帰ってゆっくり休んで…」
と、気遣いをしてくれた。いや、そう取らなければあまりにも虚しい…朋美さんも同じ想いでいてくれてる、でも僕のことを考えてそう言ってくれてるんだ…そう自分に言い聞かせなければ、あまりにもあっさりと帰ってという朋美さんの言葉が無情に思えてしまうからだ。僕は欲しい気持ちを優先してしまう。しかし朋美さんは僕のことを心配してくれる気持ちが優先順位は上なんだろう…きっと大人なんだ…
そう解釈することにした。
「朋美さん…じゃあ…また明日…」
そう言って僕は朋美さんから離れ振り返って車に戻ろうとしたその時、朋美さんが僕の腕を掴んでグイッと引っ張って来た。そして僕のことをギュッと抱きしめ目をつむった。僕もそれに応えて朋美さんの薄い唇にキスをした。数十秒か、数分だったのか、お互いの愛を確かめ合うかのように僕も朋美さんも唇を重ね合わせて離れようとはしなかった。それは永遠のように長い時間のようでもあり、一瞬の出来事のようでもあった。
そして朋美さんは振り返り無言のまま歩きだした。途中、一度振り返って軽く手を振り、そしてアパートの階段を上がって行く。僕は朋美さんが玄関を開けて部屋の中へと消えていく姿を見送った。
僕達はきっと愛し合っている。そうだよな…きっとそうだ…
僕は自分で自分を納得させて家に帰った。
次の日、僕は少し寝不足の状態で出社し鮮魚コーナーの売り場で品物を陳列しながら段取りしていた。開店30分前にはいつもの顔ぶれも揃い、お互い挨拶を終えて作業にかかる。開店間際には、パート従業員もみんな準備万端といった形でパートさん同士が少しお喋りする程余裕な姿も見える。それはごくごく普通の日常の始まりだった。
しかし、時間が過ぎて昼休憩が終わった頃に現場には少し奇妙な空気が漂い始めたことに気付いた。僕はそれが何を意味しているのかまでは、その時は全く分からなかったのだが、朋美さんが出社して仕事を始めた時にどうも周りの視線が、どことなく僕と朋美さんに集中しているように思えてならなかった。最初は気のせいかな?とも思っていたのだが、どうも不穏な空気が漂っている。いや、間違いない!パートさん達は僕と朋美さんの様子を伺いながら、こそこそと噂話を囁き合っているに違いない。その時僕は勘づいた。昨日梅田さんが凄い形相で車から降りて出ていったその時の仕返しにきっとあらぬ噂を立てたに違いない!僕は極力朋美さんと接触するのを避けることにした。どうやら朋美さんも何となくこの不穏な空気を悟っているらしく、あまり僕と接触しないようにしているように見えた。僕にとっては心当たりがあっても、朋美さんには全く身に覚えがないはずなのだが、それでも何か感じ取ってくれてるのだろうと僕は勝手に感心していた。しかし午後3時を回ってパートさんが休憩に入った時に、何を思ったのかバックヤードに入っていった僕に朋美さんが急に話しかけてきた。
「和ちゃん、おやつあるから食べてね!」
それはいつもと変わらぬ朋美さんの優しい笑顔だった。僕は状況が状況だけに一瞬顔がこわばってしまった。朋美さんはちゃんと空気を読めていたのかと思っていたが、実は何も感じていなかったのか…僕は一瞬周囲の目が気になり辺りを見回した。すると、やはりと言うべきか近くに居たパートさん達が僕と目が合い、そしてすぐに視線を逸(そ)らした。間違いない…パートさん方はみな目配せしてニヤニヤと頷きあっている。きっと僕と朋美さんとの関係を面白おかしく観察しているのだろう…僕は動揺しながら「ありがとうございます」とだけ言ってその場をすぐに離れた。どうしよう、朋美さんが一人だけ輪の中から外されないだろうか?いや、むしろ何か嫌なことを言われたりはしないだろうか…僕が一番恐れていたことがこんなにも早く現実のものとなるとは思ってもみなかった。僕自身なら何を言われても我慢出来る。しかし、朋美さんが非難されるのはどうしても我慢出来ない!どうすれば良いんだ…どうやって朋美さんを守れば良いんだ…僕は焦り混乱した。
「朋美さん…ちょっと待って…」
朋美さんは振り返ったが、僕は朋美さんを反対を向かせて後ろから抱き締めた。朋美さんの頭に僕の唇を添えて優しく言った。
「朋美さん…おやすみなさい」
朋美さんは黙って軽く頷いた。朋美さんの柔らかい髪の毛が僕の頬と鼻先をくすぐる。本音を言えば、このまま離したくない、ずっと一緒に居たい…一緒に…生活したい…そう思う程に僕の心の中は朋美さん一色に染まっていた。しかし朋美さんは、
「和ちゃん、明日早いでしょ?もう帰ってゆっくり休んで…」
と、気遣いをしてくれた。いや、そう取らなければあまりにも虚しい…朋美さんも同じ想いでいてくれてる、でも僕のことを考えてそう言ってくれてるんだ…そう自分に言い聞かせなければ、あまりにもあっさりと帰ってという朋美さんの言葉が無情に思えてしまうからだ。僕は欲しい気持ちを優先してしまう。しかし朋美さんは僕のことを心配してくれる気持ちが優先順位は上なんだろう…きっと大人なんだ…
そう解釈することにした。
「朋美さん…じゃあ…また明日…」
そう言って僕は朋美さんから離れ振り返って車に戻ろうとしたその時、朋美さんが僕の腕を掴んでグイッと引っ張って来た。そして僕のことをギュッと抱きしめ目をつむった。僕もそれに応えて朋美さんの薄い唇にキスをした。数十秒か、数分だったのか、お互いの愛を確かめ合うかのように僕も朋美さんも唇を重ね合わせて離れようとはしなかった。それは永遠のように長い時間のようでもあり、一瞬の出来事のようでもあった。
そして朋美さんは振り返り無言のまま歩きだした。途中、一度振り返って軽く手を振り、そしてアパートの階段を上がって行く。僕は朋美さんが玄関を開けて部屋の中へと消えていく姿を見送った。
僕達はきっと愛し合っている。そうだよな…きっとそうだ…
僕は自分で自分を納得させて家に帰った。
次の日、僕は少し寝不足の状態で出社し鮮魚コーナーの売り場で品物を陳列しながら段取りしていた。開店30分前にはいつもの顔ぶれも揃い、お互い挨拶を終えて作業にかかる。開店間際には、パート従業員もみんな準備万端といった形でパートさん同士が少しお喋りする程余裕な姿も見える。それはごくごく普通の日常の始まりだった。
しかし、時間が過ぎて昼休憩が終わった頃に現場には少し奇妙な空気が漂い始めたことに気付いた。僕はそれが何を意味しているのかまでは、その時は全く分からなかったのだが、朋美さんが出社して仕事を始めた時にどうも周りの視線が、どことなく僕と朋美さんに集中しているように思えてならなかった。最初は気のせいかな?とも思っていたのだが、どうも不穏な空気が漂っている。いや、間違いない!パートさん達は僕と朋美さんの様子を伺いながら、こそこそと噂話を囁き合っているに違いない。その時僕は勘づいた。昨日梅田さんが凄い形相で車から降りて出ていったその時の仕返しにきっとあらぬ噂を立てたに違いない!僕は極力朋美さんと接触するのを避けることにした。どうやら朋美さんも何となくこの不穏な空気を悟っているらしく、あまり僕と接触しないようにしているように見えた。僕にとっては心当たりがあっても、朋美さんには全く身に覚えがないはずなのだが、それでも何か感じ取ってくれてるのだろうと僕は勝手に感心していた。しかし午後3時を回ってパートさんが休憩に入った時に、何を思ったのかバックヤードに入っていった僕に朋美さんが急に話しかけてきた。
「和ちゃん、おやつあるから食べてね!」
それはいつもと変わらぬ朋美さんの優しい笑顔だった。僕は状況が状況だけに一瞬顔がこわばってしまった。朋美さんはちゃんと空気を読めていたのかと思っていたが、実は何も感じていなかったのか…僕は一瞬周囲の目が気になり辺りを見回した。すると、やはりと言うべきか近くに居たパートさん達が僕と目が合い、そしてすぐに視線を逸(そ)らした。間違いない…パートさん方はみな目配せしてニヤニヤと頷きあっている。きっと僕と朋美さんとの関係を面白おかしく観察しているのだろう…僕は動揺しながら「ありがとうございます」とだけ言ってその場をすぐに離れた。どうしよう、朋美さんが一人だけ輪の中から外されないだろうか?いや、むしろ何か嫌なことを言われたりはしないだろうか…僕が一番恐れていたことがこんなにも早く現実のものとなるとは思ってもみなかった。僕自身なら何を言われても我慢出来る。しかし、朋美さんが非難されるのはどうしても我慢出来ない!どうすれば良いんだ…どうやって朋美さんを守れば良いんだ…僕は焦り混乱した。
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