1 / 5
1 渡せなかったチョコレート
しおりを挟む
「さようなら……か」
僕は、渡せなかった小さな紙袋をじっと見つめ、ため息をついた。
今日はバレンタイン。憧れの先輩に渡そうと思って準備したチョコレートも、手元に残ったままだ。
先輩の最後の言葉は『海外に引っ越すから……ごめんね、ありがとう。さようなら』だった。
先輩はやっぱり最後まで優しかった。
もっと早く告白していたら、結果は違ったのかな。
深く息を吸い込むと、いつもと違う風の匂いが鼻をかすめ、顔を上げた。
「……ここ、どこ……?」
辺りを見回すと、木々に囲まれた見知らぬ森の中だった。上を見上げると、隙間からわずかに空が見える。そんな中に、僕はポツンと一人で立っていた。
どういうこと? だって僕はさっきまで学校にいたはずだ。
入学式の時に一目惚れした先輩に、勇気を出してチョコレートを渡そうとしたけどできなかった。
失意の中、とぼとぼと家に帰る途中だったんだ。
……なのに、なぜ? ここはどこ?
戸惑いながらしばらく歩いてみたものの、やっぱり何の情報も得られなかった。
「こんなところで何やってんだ!」
途方に暮れてその場に立ち尽くしていると、突然怒鳴り声が聞こえてきた。
静けさの中に響く声はすごく大きく感じ、思わずビクッと肩を振るわせた。
え? 何……?
僕が確認するようにゆっくり振り返ると、そこには異世界アニメに出てくる冒険者のような格好をした男が立っていた。
「この辺りは夜になるとモンスターが出る。気温も一気に下がるのにそんな格好でうろついていたら、あっという間にやられるぞ」
見たことのないような格好をした、僕より一回り大きな男からの圧に、僕は一瞬怯んでしまった。
けど、自分の置かれた状況を少しでも知りたくて、少し怖いけど、思い切って男に問いかけた。
「……それは僕が聞きたいよ。……ここはどこなの? なんで僕はこんなところにいるの? 教えてよ!」
一度言葉にしたら、もう止まらなかった。怒鳴り返されるかもしれないけど、今聞けるのはこの人しかいない。
半分涙目になって問いかける僕を見て、ただごとではないと察してくれたのかもしれない。
「お前、迷子か?……それとも記憶を失っているのか……?」
男は近づいてきて、腰を屈めて僕の顔を覗き込んだ。
迷子だって? そんなことあるわけないじゃないか。学校の近くにも、僕の家の近くにも、こんな場所はない。
記憶喪失? それもあり得ない。ちゃんと自分の名前も家族のことも、通っている学校だってわかっている。
「家に帰ろうとしていたんだよ。そしたらこんな知らないところにいて……何もわかんないんだ」
僕はそう言いながら急に心細くなって、頭を抱えて座り込んだ。
「……わかった。ここは危ないから、俺の家に行こう。話はそれからだ」
さっきまであんなに怒鳴っていたのに、心細そうな僕に気づいたのか、男の人は優しく声のトーンを落としてくれた。
この人を信じてついていっていいのかなんて考える余裕もなく、僕はただ黙って小さく頷いた。
男の人はアランと名乗った。彼は冒険者で、この街に長期で滞在しているらしい。だから一軒家を借りているのだと言った。
……いや、冒険者って何? そう言えばさっき、モンスターとか言ってたよね?
アランから聞く話は、僕が生きてきた中で、遭遇することのない話だった。
だからここは、僕の知っている世界ではなく、異世界なんだと思う。
何の解決にもなっていなかったけど、これから起きる出来事は、僕の常識の中では収まらないことだけはわかった。
森から出てしばらく歩くと、小さな街にたどり着いた。まるで異世界アニメに出てくるような街並みだった。
建物も、すれ違う人たちも、全てが僕の生まれ育った場所とは違う。やっぱりここは異世界なんだと考える他なかった。
キョロキョロしながらアランについていくと、街の片隅に建つ屋敷に案内された。
「俺以外は住んでいないから、気兼ねなくゆっくりしてくれ」
アランは、屋敷の二階の部屋を僕に用意してくれた。
完全に安全だと決まったわけではないけど、しばらく滞在できる場所が決まったのは本当に良かった。
きっとこの人になら話しても大丈夫。僕はそう思って、アランに全てを話した。アランは僕の信じ難い話をじっくり聞いてくれた。
アランは疑うこともなく、嘲笑うこともなく、僕の話を信じると言ってくれた。
「こんな嘘みたいな話を、信じてくれてありがとう」
「ああ……。見たこともない格好をしているし、この世界のことを知らなすぎるし、到底嘘をついているとは思えないからな」
そう。僕は制服のまま、異世界に転生してしまったらしい。
僕から見たら、アランの格好が不思議に思えるのと同じで、アランからしたら僕の着ている制服は全く見慣れないものだろう。
「これは、学校の制服なんだ。色々と学ぶ場所。その帰り道に、こっちの世界に迷い込んでしまったみたくて……」
僕は自分の格好を改めて眺めた。
あれ? そういえば……。
僕は、帰り道に持っていたはずのカバンがないことに気づいた。転移の際に落としてしまったのか、異空間に消えてしまったのかわからないけど、僕の手元には小さな袋しか残されていなかった。
僕は、渡せなかった小さな紙袋をじっと見つめ、ため息をついた。
今日はバレンタイン。憧れの先輩に渡そうと思って準備したチョコレートも、手元に残ったままだ。
先輩の最後の言葉は『海外に引っ越すから……ごめんね、ありがとう。さようなら』だった。
先輩はやっぱり最後まで優しかった。
もっと早く告白していたら、結果は違ったのかな。
深く息を吸い込むと、いつもと違う風の匂いが鼻をかすめ、顔を上げた。
「……ここ、どこ……?」
辺りを見回すと、木々に囲まれた見知らぬ森の中だった。上を見上げると、隙間からわずかに空が見える。そんな中に、僕はポツンと一人で立っていた。
どういうこと? だって僕はさっきまで学校にいたはずだ。
入学式の時に一目惚れした先輩に、勇気を出してチョコレートを渡そうとしたけどできなかった。
失意の中、とぼとぼと家に帰る途中だったんだ。
……なのに、なぜ? ここはどこ?
戸惑いながらしばらく歩いてみたものの、やっぱり何の情報も得られなかった。
「こんなところで何やってんだ!」
途方に暮れてその場に立ち尽くしていると、突然怒鳴り声が聞こえてきた。
静けさの中に響く声はすごく大きく感じ、思わずビクッと肩を振るわせた。
え? 何……?
僕が確認するようにゆっくり振り返ると、そこには異世界アニメに出てくる冒険者のような格好をした男が立っていた。
「この辺りは夜になるとモンスターが出る。気温も一気に下がるのにそんな格好でうろついていたら、あっという間にやられるぞ」
見たことのないような格好をした、僕より一回り大きな男からの圧に、僕は一瞬怯んでしまった。
けど、自分の置かれた状況を少しでも知りたくて、少し怖いけど、思い切って男に問いかけた。
「……それは僕が聞きたいよ。……ここはどこなの? なんで僕はこんなところにいるの? 教えてよ!」
一度言葉にしたら、もう止まらなかった。怒鳴り返されるかもしれないけど、今聞けるのはこの人しかいない。
半分涙目になって問いかける僕を見て、ただごとではないと察してくれたのかもしれない。
「お前、迷子か?……それとも記憶を失っているのか……?」
男は近づいてきて、腰を屈めて僕の顔を覗き込んだ。
迷子だって? そんなことあるわけないじゃないか。学校の近くにも、僕の家の近くにも、こんな場所はない。
記憶喪失? それもあり得ない。ちゃんと自分の名前も家族のことも、通っている学校だってわかっている。
「家に帰ろうとしていたんだよ。そしたらこんな知らないところにいて……何もわかんないんだ」
僕はそう言いながら急に心細くなって、頭を抱えて座り込んだ。
「……わかった。ここは危ないから、俺の家に行こう。話はそれからだ」
さっきまであんなに怒鳴っていたのに、心細そうな僕に気づいたのか、男の人は優しく声のトーンを落としてくれた。
この人を信じてついていっていいのかなんて考える余裕もなく、僕はただ黙って小さく頷いた。
男の人はアランと名乗った。彼は冒険者で、この街に長期で滞在しているらしい。だから一軒家を借りているのだと言った。
……いや、冒険者って何? そう言えばさっき、モンスターとか言ってたよね?
アランから聞く話は、僕が生きてきた中で、遭遇することのない話だった。
だからここは、僕の知っている世界ではなく、異世界なんだと思う。
何の解決にもなっていなかったけど、これから起きる出来事は、僕の常識の中では収まらないことだけはわかった。
森から出てしばらく歩くと、小さな街にたどり着いた。まるで異世界アニメに出てくるような街並みだった。
建物も、すれ違う人たちも、全てが僕の生まれ育った場所とは違う。やっぱりここは異世界なんだと考える他なかった。
キョロキョロしながらアランについていくと、街の片隅に建つ屋敷に案内された。
「俺以外は住んでいないから、気兼ねなくゆっくりしてくれ」
アランは、屋敷の二階の部屋を僕に用意してくれた。
完全に安全だと決まったわけではないけど、しばらく滞在できる場所が決まったのは本当に良かった。
きっとこの人になら話しても大丈夫。僕はそう思って、アランに全てを話した。アランは僕の信じ難い話をじっくり聞いてくれた。
アランは疑うこともなく、嘲笑うこともなく、僕の話を信じると言ってくれた。
「こんな嘘みたいな話を、信じてくれてありがとう」
「ああ……。見たこともない格好をしているし、この世界のことを知らなすぎるし、到底嘘をついているとは思えないからな」
そう。僕は制服のまま、異世界に転生してしまったらしい。
僕から見たら、アランの格好が不思議に思えるのと同じで、アランからしたら僕の着ている制服は全く見慣れないものだろう。
「これは、学校の制服なんだ。色々と学ぶ場所。その帰り道に、こっちの世界に迷い込んでしまったみたくて……」
僕は自分の格好を改めて眺めた。
あれ? そういえば……。
僕は、帰り道に持っていたはずのカバンがないことに気づいた。転移の際に落としてしまったのか、異空間に消えてしまったのかわからないけど、僕の手元には小さな袋しか残されていなかった。
0
あなたにおすすめの小説
出戻り王子が幸せになるまで
あきたいぬ大好き(深凪雪花)
BL
初恋の相手と政略結婚した主人公セフィラだが、相手には愛人ながら本命がいたことを知る。追及した結果、離縁されることになり、母国に出戻ることに。けれど、バツイチになったせいか父王に厄介払いされ、後宮から追い出されてしまう。王都の下町で暮らし始めるが、ふと訪れた先の母校で幼馴染であるフレンシスと再会。事情を話すと、突然求婚される。
一途な幼馴染×強がり出戻り王子のお話です。
※他サイトにも掲載しております。
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
邪魔者な私なもので
あんど もあ
ファンタジー
婚約者のウィレル様が、私の妹を食事に誘ったと報告をしてきました。なんて親切な方なのでしょう。でも、シェフが家にいるのになぜレストランに行くのですか?
天然な人の良いお嬢さまが、意図せずざまぁをする話。
春を拒む【完結】
璃々丸
BL
日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。
「ケイト君を解放してあげてください!」
大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。
ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。
環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』
そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。
オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。
不定期更新になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる