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ツイノベ
みやびーえる
しおりを挟むフォロワーさんの企画『みやびーえる』(雅なBL)に乗っかって、書かせていただいたツイノベです。
✤✤
俺はこの国の皇太子の側仕えをしている。
「蹴鞠やらむ(蹴鞠やろう)」
そう言いながら嬉しそうに鞠を持って近寄ってくるのが、皇太子その人だ。
母親は身体が弱く療養しなくてはならない為、三歳になった頃から俺が身の回りの世話をしている。
慕ってきてくれるその姿は、本当に可愛くて仕方がない。弟か、それ以上に思っている。
「若様、学問をやりしよりにせむかし(若様、勉強をやってからにしましょうね)」
甘やかしたくとも、いずれこの国を背負って立つ人だ。学ばなければならないことはたくさんある。
五歳となった若様は、今まで以上に学びの時間が増え、俺の癒やしの時間がどんどん減っているのが少し悲しい。
「我が学問をこころばまば嬉し?(僕が勉強を頑張ったら嬉しい?)」
小首を傾げて、キュルンとした瞳で見つめられたら、完全ノックアウトだ。
今日も可愛過ぎる。
「さらぞ。こころばまば、ご褒美をあぐればぞ。(もちろんだよ。頑張ったら、ご褒美をあげますからね)」
“ご褒美“は、若様の大好きな俺の手作りの焼菓子だ。愛情をたっぷり込めて作る、自信作だ。
俺の言葉に無邪気に笑い、そして本当に弱音も吐かずに頑張ったと思う。
──そんな、懐かしき日々を思い出していた。
「兄上、今宵も手解き願ひうや?(兄上、今夜も手解きをお願い出来ますか?)」
ちょうど十歳を迎えた頃、自分での処理を教えた。それが何故か“一緒に”する事となり、若様に仕える身としては断るわけにもいかず今日まで来た。
だがそれももう終わり。
十五歳になった若様は、元服の儀も済ませ、成人の仲間入りをした。背丈も俺より頭一つ分大きくなり声変わりもして、幼かった頃のあどけなさはすっかり鳴りを潜めていた。
「いま元服もせれば、今宵よりは添い臥しがつくべし(もう元服もしたのだから、今夜からは添い寝役がつくはずだ)」
帝の体調が思わしくなく、元服の儀を待って若様が即位される事が決まった。それと同時に、幼き頃からの婚約者との正式な婚儀が行われる。
今夜はその婚約者が添い臥しとしてやってくるはずだ。
「今宵の添い臥しはいなびたり。兄上とのほどを妨げられまほしからず(今夜の添い寝役は断ってあります。兄上との時間を邪魔されたくありません)」
「何自由なることせるなり!帝となりこの国を治めゆくべきぞ。さる自由は許されず(何勝手なことをしているんだ!帝となりこの国を治めていかなければならないんだぞ。そんな我儘は許されない)」
俺は慌てて部屋を出ようとした。一体どうなっているのだと確認をしようとしたのだ。
だがその手を強く掴まれる。
「兄上、いづこへ行かるや?(兄上、どこへ行かれるのですか?)」
そう言った声は冷たく、周りの空気さえ重くなったように感じた。
「我とのほどが、しかうたてしや?(私との時間が、そんなに嫌なのですか?)」
「我が弟のごとく愛ほしがれるなれば、うたてしまじ!(俺の弟のように愛おしく思っているのだから、嫌な訳がない!)」
弟のように愛おしいと言われ、嬉しいような寂しいような、そんな複雑な表情を見せる。
「明日よりは帝にて、民守り続くと誓ふ。……なれば、今宵ばかり、我が自由を聞きたまへ(明日からは帝として、民を守り続けると誓います。……だから、今夜だけは、私の我儘を聞いてください)」
まるで壊れ物に触れるかのように、俺を優しくふわりと抱きしめた。
これじゃあまるで、恋人にでも抱きしめられているかのようじゃないか。
そう思ってしまった途端、急に胸が高鳴り、身体の体温が上昇する。
弟のように思っているはずなのに、何故自分はこんな反応をしてしまうのか。
わけが分からず戸惑っていると、『明日よりこころばむ我に、ご褒美をたまへ。(明日から頑張る私に、ご褒美をください)』そう耳元で囁かれた。
(へっ?ご褒美??これから焼菓子作るのか?)
幼い頃から“ご褒美”といえばお手製の焼菓子だった。
だが明らかに、この状況下では違う事を意味していることくらいは、容易に想像できた。
「きみは側仕えなりつつ、我が兄に師匠にもあり、一番やむごとなき人なり。幼い頃よりすがらに偲びたてまつりていました(あなたは側仕えでありながら、私の兄であり師匠でもあり、一番大切な人です。幼い頃からずっとお慕いしていました)」
一度身体から離されると、ふっと微笑み、顔が近付いてきた。
(ずっと、弟のように思ってきたのに……)
頭では否定するのに、拒否する事なんて出来なくて──。
優しく触れる唇を、静かに受け入れていた。
そこからはあまりよく覚えていない。
ただひたすら甘美な夢を見ているかのようだった。
ずっと心に隠していた感情。
今だけはさらけ出しても良いのだと。
全身で思いを受け止めても良いのだと。
今だけは。
心も体も溶け切ってしまえばいい。
生まれて初めて与えられる極上の刺激に、体中が歓喜した。
窓から差し込む光と、小鳥のさえずりで目を覚ます。
「んっ……」
寝起きで身体が硬くなっているのだろうか。どうも全身がだるい。
うーんと、伸びをしようとしたところで、ピキッ腰のあたりに痛みが走る。
……と同時に、昨晩の記憶が、飛び飛びながらも思い出されていく。
(わーーっ!)
急に恥ずかしくなって顔を覆うと、扉の方からクスクスと笑い声が聞こえてきた。
そちらへと顔を向けると、楽しげに笑う若様がいた。
「兄上、体のたよりやいかがなる?(兄上、身体の具合はいかがですか?)」
「安穏なり。このくらきどうなるはあらず(大丈夫だ。このくらいどうってことはない)」
痩せ我慢をしている自覚はあるのだが、ここは年長者としての姿勢を見せないと……なんて、変な見栄を張る自分が可笑しくなってしまう。
「けふはやむごとなき儀式の日なり。支度を手伝はずと(今日は大切な儀式の日だ。支度を手伝わないと)」
無理して起きようとする俺を寝床へ押し戻して言った。
「いや、兄上はやがて寝たりたまへ。儀式は延期定まれり(いや、兄上はそのまま寝ていてください。儀式は延期が決まっています)」
昨日添い寝係の件といい、今日の儀式の延期といい、何か周りの動きがおかしい。
「なんぢ、何か謀りたらぬや?(お前、何か企んでいないか?)」
「安穏なり。兄上はやをら休みたりたまへね(大丈夫です。兄上はゆっくり休んでいてくださいね)」
俺の問いかけに軽く返事をし、ニッコリと笑うと部屋を出ていってしまった。
その後、若様の行動の真意がわかるのだが、それはもう少しだけ先のお話。
✤✤
『みやびーえる アンソロジー』
これをもとに改稿したものを、寄贈させていただきました。
私が参加したのは第三巻の『光編』
現在第一巻がBOOTHで配信中。
https://booth.pm/ja/items/5707871
第三巻(光)第四巻(闇 上下巻)第五巻(官能 上下巻)が制作進行中。
※ 古文風に変換してくれるサイトを利用させていただきました。
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漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
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多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
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