21 / 32
ツイノベ
看守と囚人
しおりを挟む
「なぁ…、看守さん? これ、食べさせてくれよ」
俗に言うイケボと言うやつだろう。低く腹の底に響くような色っぽい声に、吸い込まれそうな瞳。
オレの目を真っ直ぐ見据えたまま、物欲しそうにちらりと目の前に置かれた皿に視線をやった。
鋭い瞳に撃ち抜かれ、まるで遠隔操作されているように、こちらが意図しない形で首を縦に振りそうになる。
「……っ、なに、言ってんだ。自分で食べられるだろう?」
あやうく、行動をコントロールされそうになったところで踏みとどまり、チッと舌打ちをした。
「えー。なんでだよー。俺、これじゃあ食べられねーんだけど」
危うくコントロールされそうになった鋭い視線は急に緩み、肩をすくめながら見せてきたのは、手錠で繋がれた自身の両手だ。
「お前がおとなしくしていないから、拘束されたんだ。自業自得だろ」
「そりゃ分かってるさー。けど、食事もろくに取れねーじゃん。このままだと、空腹で倒れちまうー」
広げられない両手を上にあげると、緊迫感のないおどけた口調で言葉を続ける。
「捕まって囚人になったら看守さんにお世話してもらえるっていうからさー、素直に自首したってのに、話が違うじゃねーかー」
おいおいと大げさに泣き真似をする。
反省の色なんてないじゃないか。
囚人と看守、二人を隔てているのは、本来は真っ黒だったであろう、所々赤黒い錆の目立つ鉄格子。
その鉄格子の向こうに見えるのは、同じく真っ黒く大きな生き物。
闇に浮かび上がるように、目だけがギロリとこちらを見る。
優雅な暮らしをしていたのだろう、全身を覆ったそれは、ツヤツヤとした上等な毛並みだった。
「看守さんにお世話されるために、わざわざ捕まってやったんだ。それが叶わないなら、俺はここを出るぜ」
ガチャガチャッ
拘束されていたはずの両手はいつしか自由になっていて、赤黒く錆びついた格子をガッチリと掴んでいた。
「……っ?! おまえ、何やって!」
「お前ら人間を拘束するには充分かもしれないが、俺らゴリラにはこんな格子壊すのなんて、朝飯前さ」
先程のおどけた様子はどこへ行ったのか、再び鋭い視線でオレを刺したあと、ハッと鼻で笑った。
このままでは、逃げられてしまう。
力でゴリラ獣人に敵うわけがないんだ。
ひ弱な人間なんて、ひとひねりだ。
しばし考え込んで、オレは一つの提案をすることにした。
「じゃあお前は、オレに世話されたいということだな?」
「んあ? ……まあ、看守さん俺の好みだから、世話してもらえたら嬉しいけどよー」
「分かった。……では、取引をしよう」
「取引?」
「オレがお前の身元引受人になろう。そして、ここから出してやる。……その代わり、捜査に協力しろ」
最近は、底辺のゴリラ獣人による事件が多発していた。
逮捕されるのは、末端のみ。トカゲの尻尾切りのように、使い捨てだ。
警察も頭を悩ませていて、ゴリラ獣人に少しばかり詳しいオレにも、協力の依頼が来ていた。
だから、捕まえたゴリラ獣人から情報を得られないかと、看守をしながら様子をうかがっていたのだ。
「それ、俺が看守さんの家に行けるってこと?」
「そうだ。しばらくは監視のために一緒に住むことになる」
「やった! それ、ラッキーじゃね?」
パっと目を輝かせ、掴んでいた格子から手を離した。
少しだけ一緒に住むという話だったのに、気付けば何年も共に過ごすことになるのだが、その時のオレはまだ知らない。
(終)
✤✤
看守(人間)と囚人(ゴリラ獣人)
俗に言うイケボと言うやつだろう。低く腹の底に響くような色っぽい声に、吸い込まれそうな瞳。
オレの目を真っ直ぐ見据えたまま、物欲しそうにちらりと目の前に置かれた皿に視線をやった。
鋭い瞳に撃ち抜かれ、まるで遠隔操作されているように、こちらが意図しない形で首を縦に振りそうになる。
「……っ、なに、言ってんだ。自分で食べられるだろう?」
あやうく、行動をコントロールされそうになったところで踏みとどまり、チッと舌打ちをした。
「えー。なんでだよー。俺、これじゃあ食べられねーんだけど」
危うくコントロールされそうになった鋭い視線は急に緩み、肩をすくめながら見せてきたのは、手錠で繋がれた自身の両手だ。
「お前がおとなしくしていないから、拘束されたんだ。自業自得だろ」
「そりゃ分かってるさー。けど、食事もろくに取れねーじゃん。このままだと、空腹で倒れちまうー」
広げられない両手を上にあげると、緊迫感のないおどけた口調で言葉を続ける。
「捕まって囚人になったら看守さんにお世話してもらえるっていうからさー、素直に自首したってのに、話が違うじゃねーかー」
おいおいと大げさに泣き真似をする。
反省の色なんてないじゃないか。
囚人と看守、二人を隔てているのは、本来は真っ黒だったであろう、所々赤黒い錆の目立つ鉄格子。
その鉄格子の向こうに見えるのは、同じく真っ黒く大きな生き物。
闇に浮かび上がるように、目だけがギロリとこちらを見る。
優雅な暮らしをしていたのだろう、全身を覆ったそれは、ツヤツヤとした上等な毛並みだった。
「看守さんにお世話されるために、わざわざ捕まってやったんだ。それが叶わないなら、俺はここを出るぜ」
ガチャガチャッ
拘束されていたはずの両手はいつしか自由になっていて、赤黒く錆びついた格子をガッチリと掴んでいた。
「……っ?! おまえ、何やって!」
「お前ら人間を拘束するには充分かもしれないが、俺らゴリラにはこんな格子壊すのなんて、朝飯前さ」
先程のおどけた様子はどこへ行ったのか、再び鋭い視線でオレを刺したあと、ハッと鼻で笑った。
このままでは、逃げられてしまう。
力でゴリラ獣人に敵うわけがないんだ。
ひ弱な人間なんて、ひとひねりだ。
しばし考え込んで、オレは一つの提案をすることにした。
「じゃあお前は、オレに世話されたいということだな?」
「んあ? ……まあ、看守さん俺の好みだから、世話してもらえたら嬉しいけどよー」
「分かった。……では、取引をしよう」
「取引?」
「オレがお前の身元引受人になろう。そして、ここから出してやる。……その代わり、捜査に協力しろ」
最近は、底辺のゴリラ獣人による事件が多発していた。
逮捕されるのは、末端のみ。トカゲの尻尾切りのように、使い捨てだ。
警察も頭を悩ませていて、ゴリラ獣人に少しばかり詳しいオレにも、協力の依頼が来ていた。
だから、捕まえたゴリラ獣人から情報を得られないかと、看守をしながら様子をうかがっていたのだ。
「それ、俺が看守さんの家に行けるってこと?」
「そうだ。しばらくは監視のために一緒に住むことになる」
「やった! それ、ラッキーじゃね?」
パっと目を輝かせ、掴んでいた格子から手を離した。
少しだけ一緒に住むという話だったのに、気付けば何年も共に過ごすことになるのだが、その時のオレはまだ知らない。
(終)
✤✤
看守(人間)と囚人(ゴリラ獣人)
20
あなたにおすすめの小説
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる