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02 どうしたら帰れる?
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「俺の耳にも聞こえた。……というか、頭の中に響いたみたいな感じ」
「頭の中に響いた?」
「うん、私もそんな感じかな。ちゃんと聞き取れなくてよくわからなかったけど、奏音と二人で力を合わせれば大丈夫だって、感じたんだ」
二人は小さな頃から、言葉を話さなくても、何か通じ合っているのだろうと感じることが多かった。双子というのはそういうものなのだろうか。
「でも、もう聞こえない」
「もし本当にお母さんだったなら、しっかりと声を聞きたかったな。ちゃんと話をしてみたかったな……」
いつも元気いっぱいの初音が、そう言って寂しそうにうつむいた。普段は口に出さないけど、やっぱり母親が恋しいんだろうな。
俺は「そうだな……」と一言だけつぶやくと、口を閉じた。
母さんが亡くなったのは、俺が中学校三年生で、双子が幼稚園の年中の時だった。まだ幼かった二人にとっての母親の記憶は、きっと俺が映したビデオカメラの映像の中の母さんなんだと思う。
その記憶の中の母さんに似た声が頭の中に響いて、嬉しい気持ちになった反面、急に寂しさが込み上げてしまったのかもしれない。
「行こう」
少ししんみりしてしまった俺たちに、奏音が声をかけた。
そうだ、ここがどこなのかさっぱりわかっていないし、さっき逃げたクマがまた現れてしまうかもしれない。
「そうだな、もう少し先まで進もう」
「うん! 行こっか」
俺の声に賛同するようにうなずいた初音の声は、いつもの元気で明るい声に戻っていた。
再び森の中を歩きだした俺たちは、先ほどとは少し風景が変わってきていることに気がついた。
うっそうと生い茂っていた木々が減り始め、なにか手入れされているような森へと変化していた。
そのまま歩き続けると、森から出たのか一気に視界が開けた。
「あ! お兄ちゃん、あそこ見て!」
「ん? なに?」
初音が指をさした方向を見ると、遠くに煙のようなものが立ち上がっているのが見えた。
「もしかして、街か……?」
「誰かいるかもしれないよ。行ってみよう」
「様子をみるだけでいい……」
行く気まんまんだった初音の言葉を制するように、奏音はぼそっと言葉を発した。
「え? なんで? 人がいれば、ここがどこなのか聞けるかもしれないじゃん」
「空が、暗くなり始めている」
「たしかにそうだな。日が落ちてからは一気に暗くなるだろう。その前に、帰る方法を探したほうがいいかもしれないな」
不満そうに言う初音に対して、俺と奏音の意見は一致したようだ。
見えている煙が、人の住む場所とは限らない。街だったとしても、そこが安全とも限らない。一番は、俺たちの家に帰ることだ。
「第一に考えなければならないのは、身の安全。自分たちの家に帰れるのが一番だ。状況から考えて、ここが俺たちの住んでいる場所とは大きく違うのは明らかだ。それなら、常識に捕らわれてはだめだ。普通ではありえないことも可能性として考えなければならない」
「そうだよねぇ。突然光りだして、引き込まれたら知らない場所にいたんだもんねぇ。ほんと、ここはどこなんだろー? 私、お腹空いてきちゃったよー」
難しい顔をして頭を悩ませる俺に対して、前から聞こえてくる初音の声は、間延びしたようななんとも緊張感のない声だった。
「とりあえず、帰りたいって祈ってみるとか?」
「頭の中に声が響いてクマを撃退できたし、強く願ったら帰れるかもしれない」
「うーん、たしかになぁ。他に方法も思いつかないし、とりあえず試してみるか」
さっきまでの緊迫感が嘘のように、俺も釣られて体から一気に力が抜けた。またクマが襲ってくるとなると慌てなければいけないけど、今は森から抜けて視界も開けた。急に襲われる可能性は低いだろう。
俺たちは、森から出てすぐのあたりに三人で固まると、輪を作るように手を繋いだ。
「どうしていいのかわからないけど、とにかく帰りたいと祈ろう」
「うん」
「わかった」
双子の頭の中に響いてきた母さんに似た声が、また導いてくれるかもしれない。俺たちは目を閉じ、奇跡を信じて強く祈った。
願いを込めるように、握る手に力を入れたその瞬間、体がふわりと浮くような感覚がして、眩しい光に包まれ周りが何も見えなくなった。
双子たちを案ずるように声をかけたかったけど、言葉を発することはできなかった。
時間にしてほんの数秒だったと思う。だけど状況がわからないままで視界も言葉も奪われた俺は、何分もの時間が経過しているようにさえ感じた。
全身をまとっていた浮遊感と、眩しい光がふっと消えたと思ったら、目の前には優しく微笑む母さんの写真があった。
「帰って……来た?」
「家だ!」
「戻って来た」
俺の声に続くように、奏音と初音の声もした。
握りしめた手の温もりはずっと途切れなかったから、はぐれていない、大丈夫だということだけは感じることができた。
そして今、二人の声を聞き、しっかりと無事な姿を確認できた。
「三人で同じ夢を見てた……わけじゃないよねぇ」
「夢じゃなかったと、思う……」
「なんだったんだろうな」
あまりにも不思議な体験すぎて、自分たちの感覚さえも疑わしく思ってしまうほどだ。
「まぁ、もう二度とないだろうから、深く考えるのはやめようか。……ふたりとも、春休みだからといって、夜ふかしするんじゃないぞ」
「はぁ~い。お兄ちゃんも、明日入社式なんだからねー」
「あー、そう言われると緊張するよ。兄ちゃん、頑張るからな」
「応援してるよ!」
初音のガッツポーズで応援を受けると、俺は気持ちを切り替え、明日の準備をするために部屋へ戻った。
さっきまでずっと一緒にいた奏音は、いつのまにか部屋に戻ってしまっていた。
急に元通りってわけにはいかないか。ゆっくりと……だな。
俺は、奏音の部屋の方を見ながら、小さくため息をついた。
「頭の中に響いた?」
「うん、私もそんな感じかな。ちゃんと聞き取れなくてよくわからなかったけど、奏音と二人で力を合わせれば大丈夫だって、感じたんだ」
二人は小さな頃から、言葉を話さなくても、何か通じ合っているのだろうと感じることが多かった。双子というのはそういうものなのだろうか。
「でも、もう聞こえない」
「もし本当にお母さんだったなら、しっかりと声を聞きたかったな。ちゃんと話をしてみたかったな……」
いつも元気いっぱいの初音が、そう言って寂しそうにうつむいた。普段は口に出さないけど、やっぱり母親が恋しいんだろうな。
俺は「そうだな……」と一言だけつぶやくと、口を閉じた。
母さんが亡くなったのは、俺が中学校三年生で、双子が幼稚園の年中の時だった。まだ幼かった二人にとっての母親の記憶は、きっと俺が映したビデオカメラの映像の中の母さんなんだと思う。
その記憶の中の母さんに似た声が頭の中に響いて、嬉しい気持ちになった反面、急に寂しさが込み上げてしまったのかもしれない。
「行こう」
少ししんみりしてしまった俺たちに、奏音が声をかけた。
そうだ、ここがどこなのかさっぱりわかっていないし、さっき逃げたクマがまた現れてしまうかもしれない。
「そうだな、もう少し先まで進もう」
「うん! 行こっか」
俺の声に賛同するようにうなずいた初音の声は、いつもの元気で明るい声に戻っていた。
再び森の中を歩きだした俺たちは、先ほどとは少し風景が変わってきていることに気がついた。
うっそうと生い茂っていた木々が減り始め、なにか手入れされているような森へと変化していた。
そのまま歩き続けると、森から出たのか一気に視界が開けた。
「あ! お兄ちゃん、あそこ見て!」
「ん? なに?」
初音が指をさした方向を見ると、遠くに煙のようなものが立ち上がっているのが見えた。
「もしかして、街か……?」
「誰かいるかもしれないよ。行ってみよう」
「様子をみるだけでいい……」
行く気まんまんだった初音の言葉を制するように、奏音はぼそっと言葉を発した。
「え? なんで? 人がいれば、ここがどこなのか聞けるかもしれないじゃん」
「空が、暗くなり始めている」
「たしかにそうだな。日が落ちてからは一気に暗くなるだろう。その前に、帰る方法を探したほうがいいかもしれないな」
不満そうに言う初音に対して、俺と奏音の意見は一致したようだ。
見えている煙が、人の住む場所とは限らない。街だったとしても、そこが安全とも限らない。一番は、俺たちの家に帰ることだ。
「第一に考えなければならないのは、身の安全。自分たちの家に帰れるのが一番だ。状況から考えて、ここが俺たちの住んでいる場所とは大きく違うのは明らかだ。それなら、常識に捕らわれてはだめだ。普通ではありえないことも可能性として考えなければならない」
「そうだよねぇ。突然光りだして、引き込まれたら知らない場所にいたんだもんねぇ。ほんと、ここはどこなんだろー? 私、お腹空いてきちゃったよー」
難しい顔をして頭を悩ませる俺に対して、前から聞こえてくる初音の声は、間延びしたようななんとも緊張感のない声だった。
「とりあえず、帰りたいって祈ってみるとか?」
「頭の中に声が響いてクマを撃退できたし、強く願ったら帰れるかもしれない」
「うーん、たしかになぁ。他に方法も思いつかないし、とりあえず試してみるか」
さっきまでの緊迫感が嘘のように、俺も釣られて体から一気に力が抜けた。またクマが襲ってくるとなると慌てなければいけないけど、今は森から抜けて視界も開けた。急に襲われる可能性は低いだろう。
俺たちは、森から出てすぐのあたりに三人で固まると、輪を作るように手を繋いだ。
「どうしていいのかわからないけど、とにかく帰りたいと祈ろう」
「うん」
「わかった」
双子の頭の中に響いてきた母さんに似た声が、また導いてくれるかもしれない。俺たちは目を閉じ、奇跡を信じて強く祈った。
願いを込めるように、握る手に力を入れたその瞬間、体がふわりと浮くような感覚がして、眩しい光に包まれ周りが何も見えなくなった。
双子たちを案ずるように声をかけたかったけど、言葉を発することはできなかった。
時間にしてほんの数秒だったと思う。だけど状況がわからないままで視界も言葉も奪われた俺は、何分もの時間が経過しているようにさえ感じた。
全身をまとっていた浮遊感と、眩しい光がふっと消えたと思ったら、目の前には優しく微笑む母さんの写真があった。
「帰って……来た?」
「家だ!」
「戻って来た」
俺の声に続くように、奏音と初音の声もした。
握りしめた手の温もりはずっと途切れなかったから、はぐれていない、大丈夫だということだけは感じることができた。
そして今、二人の声を聞き、しっかりと無事な姿を確認できた。
「三人で同じ夢を見てた……わけじゃないよねぇ」
「夢じゃなかったと、思う……」
「なんだったんだろうな」
あまりにも不思議な体験すぎて、自分たちの感覚さえも疑わしく思ってしまうほどだ。
「まぁ、もう二度とないだろうから、深く考えるのはやめようか。……ふたりとも、春休みだからといって、夜ふかしするんじゃないぞ」
「はぁ~い。お兄ちゃんも、明日入社式なんだからねー」
「あー、そう言われると緊張するよ。兄ちゃん、頑張るからな」
「応援してるよ!」
初音のガッツポーズで応援を受けると、俺は気持ちを切り替え、明日の準備をするために部屋へ戻った。
さっきまでずっと一緒にいた奏音は、いつのまにか部屋に戻ってしまっていた。
急に元通りってわけにはいかないか。ゆっくりと……だな。
俺は、奏音の部屋の方を見ながら、小さくため息をついた。
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